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スマホなんてない時代に自転車で日本一周した女子が思う、スマホとの付き合い方

スマホなんてない時代に自転車で日本一周した女子が思う、スマホとの付き合い方

 

自転車旅行に興味のある方はおられるでしょうか?あるいは「日本一周」という言葉に魅力を感じるでしょうか?

筆者はその昔、大学生の時に思い立って自転車で日本一周旅行に出ました。20年以上前のことですから、スマホなんて存在せず、出先で調べ物などままならない環境です。われながらよく走ったもんだ、といま振り返れば自分で驚くくらいです。

「いまはスマホがあるから何でも楽できていいよな…」

そんな風に昔を語る人もいるかもしれませんが、4か月、1万キロ近いチャリ旅をした筆者は筆者なりに思うことがあったりします。

きっかけはあざとかったけれど

きっかけはあざとかったけれど

筆者が自転車日本一周などということを思いついたのは、ちょっとずる賢い理由です。「自由の学風」京都大学があまりに自由すぎて遊び呆けていたら、3年目に留年ほぼ確定だな、という事態になっていたのです。

「留年すると就職活動で不利になりやしないか…」

そんなことがよぎりました。もちろん、いま思えばそんなことはありません。そこで、無理なく、でも頑張ればどのくらいの期間で単位を取り終えるか計算したところ、

「4年じゃ足りないけど、5年はいらないな」

ということがわかりました。

「それならば残りの半年、就職活動で自慢できるようなことをやろう。」

これがきっかけでした。

当時、自転車に乗るのは大好きで趣味にもなっていましたから、まさに趣味と実益を兼ねて自慢話を作りに行こう。

そして4年生の前期に休学届を出しました。

今でいう「エクストリーム出社」と完璧主義

さて、半年間の自由が与えられることになります。まずは先立つものが必要ですから、まる2か月ひたすらアルバイトをして軍資金を作り、残りの4か月で日本一周してこよう、というプランにしました。

早朝にひとっ走りトレーニングをして日中9時〜5時のバイト先に出社し、夜もアルバイトです。そうやって貯めたのが70万円ちょっとでしょうか。テントなどの道具も揃えて、6月に京都の舞鶴港から北海道行きのフェリーに乗り込みました。

「日本一周」というからには、筆者が定義したのは、

「47都道府県を踏破し、日本の東西南北すべての端に至ること」

です。北海道から出発し、沖縄で折り返して青森県を終点とする。ストイックにも程があるかもしれません。いや、いま思えば、だいぶキテる考え方です。

まず北海道を一周しておこう。

フェリーを降りた小樽港からまず、襟裳岬を通り反時計回りに稚内を目指すルートの始まりです。

すべてがアナログなチャリ旅はこうなります

当時のチャリ旅の事情はこんな具合です。

まず、地図がないと始まりません。しかし、当時は紙の地図しかありません。それも自転車用の広域地図など存在しません。一番近くて、バイク用の『ツーリングマップル』。それも、地方ごとに分割されているので、日本全部で6冊だか7冊だかだったでしょうか。

最初のネックは、北海道には自転車にはでっかすぎるどう、でした。自転車、というか自転車旅行で走れる1日の距離はせいぜい100kmです。もちろんそれ以上走ることはできますが、「1日に100km走る」ことと「毎日100kmを走り続ける」ことはまったくの別物です。

車の少ない朝5時に出走して、午後3時には走るのをやめること。だから、昼過ぎには「どの町に泊まろう」と決めるわけです。

しかし、当時はストリートビューなんて存在しないので、その町に何があるのか想像もつきません。ネット検索なんてできないので、その町について事前に教えてくれる人もいません。地名に「町」とあったところで、着いてみたら無人駅、宿なんてない。仕方ないからテントで野宿するか次の町まで走るか。そんなことは茶飯事です。

しかも、北海道は「なにもない距離」が自転車にはえげつないところがあります。バイクや自転車で旅行する人が多い場所なのでそれなりにキャンプ場なんかは充実しているのですが、とくに網走あたりから稚内までの超・直線地域。

右手に美しい海。左手には民家がポツポツある程度の道。信号なんてほとんどない。

快適ではないか? と思うかもしれません。しかしスマホなんてありません。写真を撮ってSNSにでもアップして友達とコミュニケーションしよう、そんなツールは存在しません。超絶孤独です。しかも、どんなに良い景色でも、丸一日ひとりで黙って変化のない道を走り続けるのは苦痛でしかありません。人は無い物ねだりですね。

ようやく浜頓別町、あとちょっとで稚内というところに温泉施設が隣接したきれいなキャンプ場を見つけて腰を下ろした時、地元の漁師さんが

「こんなところで寝るんじゃなくてうちに来い」

といって泊めてくださることになりました。ここでその日、はじめて他人と会話しました(ホタテ漁師さん。一晩ホタテ食べ放題でした)。

昔その漁師さんの息子さんがバイクで旅に出たときに、こうやって地元の人のお家に泊めてもらったことがあるのだそうです。

だから旅人を見ると放っておけないんだ、そう言っていたことを今でも覚えています。

宿の予約方法

スマホなんてないからこその、そんな「いいお話」ももちろんあるのですが、それはさておき。

さて、みなさんはどこかに旅に出るとき、宿はどうやって手配しますか?ネットだと思います。筆者もいまなら当然ネットです。ポイントもつきますし。では、そんなのなんてなかった時代。この町に泊まると決めても事情がさっぱり読めない時代。

スマホの代わりにあった武器は、「電話ボックス」と「分厚い電話帳」です。電話ボックスには電話帳が据え付けられているのでそれを利用するのです。目的地が近づいたら電話ボックスを探して入り、宿の中から名前で直感的に電話し、「今日泊まりたい」といきなり頼むのです。

『ツーリングマップル』はバイク向けだけあって地図に場所が載っている宿もあります。ないときは近くまで行って、再び電話をかけて場所案内をしてもらう、といった具合です。

でも、バイク用の地図です。

「そこに宿があるのはわかるけど、今日中にそんな距離走れないよ…」

という日も出てきます。そこで役に立つのが電話帳なのです。

ついに野宿がやってきた

ついに野宿がやってきた

それでも一晩だけやむを得ず、何もない河原にテントで寝るしかない日がありました。吉野川沿いだったと記憶しているので、四国でのことです。向かい側にスーパーがあったのでそこで食料を調達して、テント一張り分の面積が空くように石を取り除いて寝床の完成です。

チャリ旅の要は「いかに荷物を減らせるか」なので、ランタンなんて持っていませんでした。おもちゃみたいなキャンドルライトを非常用に持っていた程度です。

そしてくどいようですが、スマホなんてありません。スマホの懐中電灯機能は素晴らしいと思います。

それに、SNSとかYouTubeとか見ていればまだ気も紛れるのでしょうが、あるのは小さなロウソクの明かりだけ。

「それはそれで癒やされそう!」
と、思うでしょう?

しかし、予定してたどり着いたわけではない見知らぬ土地です。野生動物に襲われる、ということが幸いなかったのでこんな風にお話ができているのを有り難く思うのです。

なお、スーパーで割り箸をもらうのを忘れてしまい、木の枝を箸にしたのもこの夜でした。思いついたときは「自分賢い!」と思ったのですが、サバイバルナイフで多少削ったところで、曲がった棒は箸として握れなくて、結果としてはめちゃくちゃ不便でした。

その他もすべてアナログです。天気予報。雨雲接近をリアルタイムで見られるの、あれはすごいモノだと思います。もちろん雨の日も走るので雨そのものは構わないのですが、天気予報を見ていたとしても、とくに山の天気は変わりやすいものです。突然大雨がやってくると、視界も悪いし道は滑りやすい。 

下りが非常に危険になってしまうのです。雨雲の接近がわかっていたらその日は山の手前でやめておくのに。そんなこともよくありました。

でも、登ってしまった峠は降りなければ、泊まる場所もありません。

現金の調達。軍資金すべてを持ち歩くわけにはいかないので、どんな田舎にでも、銀行のATMはなくても郵便局はあるだろう、と考えて郵便貯金の口座を利用していました。いま考えると、ネットバンキング、スマホ決済、最高じゃないですか。スマホ決済できなくても、「いまここで、目の前で振り込みをするので、今日ここに泊めてください!」っていうお願いもできそうです。

スマホが便利で何が悪い?

スマホが便利で何が悪い?

よく「今の若者はいいよね、スマホでなんでもできて楽だよね」と、昔自分がいかに苦労したかでマウントを取ってくる年配の人がいるそうです。しかし筆者としては「そうですよ、だから何か?」と思います。

スマホがあれば、これまでは一部の人しかできなかったであろう旅をできる人の数も増えます。自転車旅行はその典型かもしれません。スマホが一人でも多くの人に自転車旅行を可能にして、筆者がその喜びをシェアできる相手が増えたとしたら、とてもうれしいことです。

同じ場所を旅しても、「自転車だったから気づける」ことはたくさんあります。それは自分の足で走った人にしかわからない世界でもあります。

筆者が一番うらやましいのは、旅先で出会った自転車仲間と一緒に撮った写真を即シェアできることでしょうか。当時はフィルムカメラを持ち歩いていました。で、気の合った人にはノートに連絡先を書いてもらったりしていたのですが、積み重なると誰が誰だかわからなくなってしまい、間違えると失礼だな、と思って連絡を取らずじまいだったり。

「いまどの辺走ってる?」なんてことをシェアしながら、お互いの見ている景色や苦労、知恵をリアルタイムでシェアしながら旅を続けるのも楽しいだろうなあと思います。

いまはスマホがあるから、スマホを持ってもう一度日本一周してみたいなあと思うくらいです。一方で、駅のホームや電車の中で全員が黙ってスマホをいじっている、その光景にはまだ筆者は慣れません。

動画を見ながら歩いているという強者に進路を妨害されるとさすがにイラッとすることもあります。「SNS疲れ」している人も多いし、ネットが人を傷つける道具になっているのもまた事実です。

ただ、こんなエピソードがあります。

スティーブ・ジョブズがiPhoneを作ったのは、”田舎に住む家電の知識があまりない人=どんな人でも使える便利な道具を生み出したい”というのが動機なのだそうです。実際、iPhoneには説明書などありません。触っている間に使えるようになります。こういうことだと思います。

スマホという道具で、どこまで、どんな人に便利を感じてもらうことができるだろう?

そんな風に考えながらスマホに接すると、ネガティブな副作用に溺れることなく、スマホは良い味方になってくれるのではないかなあと思っていますし、そうあってほしいなあと思っています。

(ちなみに先ほどググったら、『ツーリングマップル』も今やアプリの時代。そりゃそうだよね)

 

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執筆

清水沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBS報道局で社会部記者、経済部記者、CSニュース番組のプロデューサーなどを務める。ライターに転向後は、取材経験や各種統計の分析を元に幅広い視座からのオピニオンを関連企業に寄稿。趣味はサックス演奏。自らのユニットを率いてライブ活動をおこなう。

編集

川崎 博則

1986年生まれ。2019年4月に中途でさくらインターネット株式会社に入社。さくマガ立ち上げメンバー。さくマガ編集長を務める。WEBマーケティングの仕事に10年以上たずさわっている。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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