コロナショックのせいでこの一年、海外へ脱出することが叶わなかった私。それまではというと多い時で毎月、どこかの国へ出かけていました。
パスポートに押される出入国のスタンプや、ビザ(査証)が貼られたページを誇らしげに眺めながら、
「次はどこへ行こう」
とネット検索をくり返す日々。そんな日常が戻るにはまだ少し時間がかかりそうです。
ところで、海外旅行で一番大切なものはなんでしょう。お金?パスポート?
いいえ、「スマホ」です。
イギリス編
かつてロンドンオリンピック関連の仕事でイギリスを訪れた時、電車の座席の隙間にスマホを落としたことがありました。
そして、電車を降りてからポケットがぺったんこであることに気づくのです。
慌てて駅員に事情を話すも、
「落とし物は〇〇駅にまとめて届くから、そこへ行ってくれ」
の一点張り。
SNSでやり取りしていた現地の友人らとの連絡手段を失い、自分がこれからどの方角へ進めばいいのかもわかりません。
やむを得ずガラケーで日本の友人へ電話をかけ、現地の友人らとなんとか繋いでもらうことに成功しますが、当然スムーズにはいきません。
道もよくわからず、どの電車に乗っていいのかもあやふやで、多くの人に迷惑をかけることになってしまいました。
スマホさえあれば、グーグルマップさえ開ければ、こんな窮屈な旅にはならなかったはず――。
「金があってもスマホがなければ意味がない」
と痛感した、散々な目にあったロンドンオリンピックでの仕事でした。
イタリア編
ところ変わってイタリアはフィレンツェ。友人が留学していたため、久しぶりの再会を兼ねてイタリアまでやってきました。
友人のアテンドがあるうちはいいのですが、ホテルで一人になると友だちはスマホしかいません。イタリア語がわからない私はテレビをつけてもチンプンカンプン。
唯一放送されていたアニメが「キャプテン翼」だったため、
「あ、翼くんだ」
「あ、日向小次郎だ」
と、登場人物の動きを目で追いつつ、明るくはないサッカーを眺める程度。
一つ驚いたことは、「キャプテン翼」というタイトルにもかかわらず、登場人物の名前が外国人の名前に変わっていたことです。たしか「マーク」や「ブルース」といった名前が飛び交っていたように記憶しています。
そして問題はトイレで起きました。部屋のトイレのドアを開けると、なんと便器が2つ並んでいるのです。片方は普通の大きさで、その隣はやや小ぶりな便器。子ども用にしては様子がおかしい。
私は早速、ネット検索をしました。
「イタリア トイレ 2つ」
するとすぐさまその理由がわかりました。小さい方の便器は「ビデ」でした。
日本でビデと聞くと、女性用トイレに設置されたシャワーを想像しますが、イタリアでは男性も「温水洗浄便座」のようにビデを使います。
しかもお尻やデリケートゾーンの洗浄だけでなく、足を洗ったりペットを洗ったり、時には赤ちゃんを洗うこともあるそうです。
いくつかのサイトで「ビデ」の正しい使い方を検索するうちに、奇妙な画像を発見しました。なんと、ビデの便器の中でスイカを冷やしているのです。
便器(実際には便器ではありませんが)の底には栓がついており、水が溜められます。そこへフルーツを入れて冷やしておく…という使い方もあるのだそう。
結局、日本のビデ(温水洗浄便座)に慣れている私は、イタリアのビデを使いこなせませんでした。
ネット検索で見つけた「ビデでスイカを冷やす画像」があまりにショッキングで……。
インド編
海外のトイレ事情は日本人にとってかなり重要です。
なぜなら私たちが当たり前に思う「トイレの使用方法」が、時としてまったく通用しないからです。さらにそのトイレが想像を超える作りだった場合、個室の中で呆然と立ち尽くすことになるでしょう。
しかしそんな時でも、インターネットにさえ接続できれば、無事に用を足せます。
「スマホがあってよかった。ネットが繋がる環境でよかった」
そう心から感謝すると共に、本当に知りたいことが調べられなかった経験があります。
インドはデリー、とあるトイレでの出来事。
歴史を感じる建物の二階にある「トイレ」は、一歩踏み込むと単なる狭い部屋でした。
全開の小さな窓が一つ、床の中央に四角い穴が一つ、その後ろに水道の蛇口と桶が転がっています。言い換えると「それしか」ありません。
この状況で私は、どうやって用を足せばいいのか想像できませんでした。仮に想像できたとしても信じたくはありません。
ポケットからスマホを取り出すと早速、
「インド トイレ 使い方」
と検索。いくつかのサイトを見ましたが、どれも同じことが書かれています。
「インド人はトイレットペーパーを使いません」
「用を足したら桶に水を汲み、手でパシャパシャと洗います」
海外経験が豊富な私も、このようなトイレの使用は初めてであり、抵抗感を拭えません。
百歩譲って仰せの通りに用を足したとします。そのあと、濡れたお尻を何で拭けばいいのでしょう? もしくは、乾くまでパンツを下ろした状態をキープするのでしょうか?
――この問いに対して、インターネットは的確な答えを与えてはくれませんでした。
思考が停止しその場で立ち尽くす私は、ふと、ウエストポーチにポケットティッシュが入っていたことを思い出します。
(助かった…)
九死に一生を得る、というのは言いすぎでしょうが、あの時の私にとって、たまたま日本から持参した、あのポケットティッシュほど価値のある物はありませんでした。
スムーズに用を足してトイレを出た私は、建物の入り口にいるインド人女性に話しかけました。
「あなたたちは紙を使わずに、どうやって濡れたお尻を乾かすの?」
「パンツを上げるだけよ」
……にわかに意味が理解できません。
「じゃあ逆に聞くわよ。あなたはなんのためにパンツを履いているの?」
なぜかキレ気味に、女性が質問返しをします。
しかし私は即答できません。なぜなら、パンツを履いている理由など考えたこともないからです。
女性は続けます。
「パンツはね、濡れたお尻を乾かすためにあるのよ」
「外は暑いわ。多少濡れてたってすぐに乾くわよ」
これには言葉を失いました。
しかし確かに、夏場のインドは40度を超える暑さです。汗で湿ったシャツなどすぐに乾燥してしまうでしょう。お尻を洗った「残り水」を吸収したパンツも、ものの数分で乾いてしまうのです。
”インドではトイレットペーパーを使わずに、洗ったお尻の残り水はパンツで吸水する”
これがインド人の共通認識かどうかはわかりません。しかし、私が質問した女性がこう答えたのも事実です。
インターネットで調べることができなかった「大きな謎」の答えは、現地人から教えてもらうことで解決(?)しました。
困った時のネット頼み――。
しかし真実は、いつの時代もネットではなく、現場に転がっているのかもしれません。
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執筆
URABE(ウラベ)
早稲田卒。学生時代は雀荘のアルバイトに精を出しすぎて留年。生業はライターと社労士。ブラジリアン柔術茶帯、クレー射撃元日本代表。
URABEを覗く時、URABEもまた、こちらを覗いている。
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