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「シン・エヴァンゲリオン」と「プロフェッショナル 仕事の流儀 庵野秀明スペシャル」から学ぶ仕事の意味

「シン・エヴァンゲリオン」と「プロフェッショナル 仕事の流儀 庵野秀明スペシャル」から学ぶ仕事の意味。

※『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』のネタバレは含みませんので、ご安心ください。

エヴァ完結から見える、仕事の終わらせることの大切さ

エヴァンゲリオンが終わった。「完結」と謳われていたが、こんなにスッキリ終わってしまうとは想像していなかったので驚いてしまった。驚きというよりは意外。というのも、「完」とされながらもモヤモヤが残るばかりだった「テレビ版」「旧劇場版」の存在があったからだ。

 

だから、2007年の「序」から14年かけて完結に至った新劇場版(シンエヴァ)には、「一応、終わるがきっとモヤモヤした結末になるのだろう。このモヤモヤがこれからもずっと続いていくのだろう。それが僕らのエヴァだから」という着地点を心の中に準備して臨んでいた。SNSをみるかぎり僕と同じような人は多かったようだ。

だが、「シンエヴァ」におけるシンジの最後のセリフ「さようなら、全てのエヴァンゲリオン」ですっぱりとエヴァンゲリオンの物語は終わった。エヴァという物語の終わりを受けて、終わらせることの大切さと難しさについて考えさせられた人もいたのでないか。先日、NHKで放映された庵野監督に4年間密着取材した「プロフェッショナル」も「仕事を終わらせること」を切り口に構成されていた。

庵野監督の言葉「世間にはそれくらいしか役に立たない」の意味

「世間にはそれくらいしか役に立たない」

 

僕も、終わらせることの意味について考えさせられていたけれども、それ以上に仕事というものについて考えるようになった。きっかけは、「プロフェッショナル」の最後で、「(仕事に対して)何でそこまでされるんですか??」というスタッフからの問いに対する、庵野監督の

 

「他にやれることがないから」「世間にはそれくらいしか役に立たない」

 

という回答だった。番組内で「面白くない」「新しいものをつくりたい」という意味の言葉を連呼し、作業をリセットしていたので、仕事を自己表現としてとらえているのかと思っていたら、世間に対する貢献というごくありふれた視点でとらえていたのが興味深かったのだ。一流クリエイターの語る仕事と、僕のような普通の会社員の仕事の共通点が見えた気がしたのだ。

 

仕事とは何だろうか。最近、その話題になると、「生活のため」「スキルアップ&キャリアアップ」「夢を実現するための手段」等々、「仕事=自分のためにやること」という意見に集約される傾向がある。だが仕事とは、それを通じて、税金を納めたり、誰かを助けたり、楽しませたりして、世間の役に立つ=利他的なものでもある。

本来、仕事は世の中のためという大きなものだったが、いつしか、会社のためという小さなものになっていた。その反動として「自分のために働く」につながったのだろう。そりゃそうだ。会社のためになんか働くのは誰だって面白くない。 

仕事は自分のためにやるもの。だがそれだけではない

仕事とは、自分のためにやること。仕事は世間の役に立つもの。それらは互いに反するものではなく、二つあってこそ仕事と言える。自分のためにやる仕事とは、自分の能力と労力を投じて、リターンを得る仕事である。リターンはお金だけではない。経験や技術、それと満足感が含まれる。

そういったリターンを得るためには、自分の納得した方法でやり遂げる必要がある。これが難しいのだ。「プロフェッショナル」でも庵野監督によって、作業のやりなおしや停滞が描かれていたけれども、あれも、妥協せずに進めていくことの難しさのあらわれだ。一歩一歩納得しながら進み、仕事を終わらせなければ、経験や技術や満足は得られない。新しい景色を見られない。

納得した方法とは過去に囚われない新しいやり方かもしれないし、既知のやり方をただ使うのではなく、自分で消化したうえで使うことかもしれない。

 

「自分の納得した仕事をやり切ろう」と偉そうなことを言っていいながら、僕自身がやり切れていないこともある。上層部からの無理な注文や予算や納期の関係で、納得よりも無難を選択してしまうことがあるのだ。もちろん、クライアントには迷惑はかけるようなことはない。

ただ、自分の納得したかたちで終わらせていない仕事で、クライアントから「いい仕事をしてくれた」と褒められることもあるが、そのたびにバツの悪い思いをしている。ルーチンでこなせる仕事以外では、新しさを取り入れていかないと、自分の経験にならない。とはいえ、すべての仕事にチャレンジするのもかったるいので、適宜、新しい試みをしていければ凡人はいいのではないか。

庵野監督は、ドキュメントで「つまらない」「新しくない」と言っているように過去を壊して新しいチャレンジを続けられるところが凡庸な人間とはちがうのだ。 

若い頃は納得した仕事をしていなかった

僕の若い頃は最悪レベルに自分の仕事が出来ていなかった。終わらせることが目的になっていて、得られたものはほとんどなかった。若い頃(30才まで)は今よりもずっと仕事を納得する形で終えられなかった。新人の頃はほぼ出来ていなかった。

与えられた仕事に対して、上司や先輩から教わった方法に対して「おかしい」「非効率だ」と違和感を覚えても、遠慮と忖度で従っていた。新人が反論してはいけないのが当たり前の時代だった。

 

営業職なので、数キロ四方に区切られたエリアをあてられ、アポなしで絨毯爆撃のようにエリア内にある建物に片っ端から突撃して名刺を配るということを連日やらされた。絨毯爆撃作戦自体、非効率の極みのアホだった。

せめて、そのアホ作戦を遂行するのなら、エリア内をリサーチして対象を限定して攻めるような「作戦」を立ててもいいのでは?と思っていた。だが、その意見を口にすることはなかった。

上司や先輩たちの「俺たちはこれをやって一人前になった」という謎の自負を前に何も言えず、彼らの言うことに従ってただ闇雲に名刺を配った。もちろんそれによって得たものは、「アポなしで来られても…」というヒンシュクと筋肉痛だけであった。

自分の直感を信じてみる 

若い頃はこうした非効率な仕事の進め方に対して「自分ならこうやるのに…」という意見を言わずに(面倒くさかった)、納得して終えられた仕事はなかったように思う。今、20代30代の人たちはどうだろう?会社員のような組織で働く人なら僕と同じように上司先輩に対する遠慮や忖度から、フリーランスで働く人たちならクライアントからの要望や諸条件による妥協などから、すべての仕事を自分の納得した仕事として終えられている人はそれほどいないのではないか。

「このほうがいいのに…」と思っても上記の理由から仕事に取り入れずに終えてしまう。それはとてももったいないことだ。あなたたちの「こうしたほうがいいのに」という直感はだいたい正しい。

振り返ってみると、僕が若いころ、上司先輩たちに対して覚えていた違和感や仕事の改善案は、おおむね正しかった。

 

たとえば、営業マンがいちいち会社に出社して朝礼をやってから営業先に出かけていくような古い働き方をするなかで、「必要最低限に出社をおさえて、その時間と労力を営業活動に向けたほうが効果を出しやすい」という考えは、完全に正しかった。

だから、「こうしたほうがいい」という改善案や新しい方法がひらめいたら、その直感を信じて、仕事に取り入れてもらいたい。その結果、シンエヴァの制作現場のように、うまくいかなくてやり直すことになるかもしれない。進捗が遅れて納期にビクビクするかもしれない。

だが、そうやって自分なりの新しさを仕事に入れて、納得しながら前に進むことが、仕事をやり終えたという経験になる。もちろん、すべての仕事でチャレンジをするのは現実的でない。

状況判断をしっかりして計画的に新しい試みを取り入れていこう。仕事を終わらせる。納得して終わらせるとは、自分の経験になる終わらせ方をするということなのだ。

まとめ

まとめ

 

「シンエヴァ」と庵野監督の仕事から、単に終わらせることの大事さではなく、納得して自分の経験にして仕事を終わらせることの大切さを教えられた。深く考えてどれだけ力を入れても完璧なものにはならない。妥協や限界はある。

だが、完璧なものを目指さないかぎりは、納得も満足も得られない、許せない。モヤモヤすることだってある。そういったジレンマの中で目の前にある仕事をやっていく。終わらせていく。そうやって自分の納得のいく仕事をして、そこから何かを得て、それが世の中に少しでも役に立っていることが、仕事というものだろう。

 

「プロフェッショナル」の最後で庵野監督は、プロフェッショナルという番組名に「他のタイトルにしてもらいたかった」といちゃもんをつけていた。それは「安易にプロを名乗ってはいけないよ」というメッセージに思えてならなかった。まさかエヴァンゲリオンから自分の仕事の在り方について考えさせられるとは…。

 

ありがとう、全てのエヴァンゲリオン!

 

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執筆

フミコ・フミオ

大学卒業後、営業職として働き続けるサラリーマン。 食品会社の営業部長サンという表の顔とは別に、20世紀末よりネット上に「日記」を公開して以来約20年間ウェブに文章を吐き続けている裏の顔を持つ。 現在は、はてなブログEverything you’ve ever Dreamedを主戦場に行き恥をさらす
Everything you've ever Dreamed : https://delete-all.hatenablog.com/
2021年12月にKADOKAWAより『神・文章術』を発売。

編集

川崎 博則

1986年生まれ。2019年4月に中途でさくらインターネット株式会社に入社。さくマガ立ち上げメンバー。さくマガ編集長を務める。WEBマーケティングの仕事に10年以上たずさわっている。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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