ソフトウェアを使って、ウェブサイトを作る。
HTMLもCSSも、Laravelも使えなくていい。
そんな「誰にでもできる」仕事が、いまの私にとっては副業になっている。
2000年にはウェブサイトが「誰にでも作れた」
私が初めてウェブサイトを作ったのは、2000年ごろ。当時発売されていた、株式会社ジャストシステムの「ホームページ・ビルダー」というソフトウェアを使ってだ。
当時、ウェブサイトを作るといえばメモ帳へのHTML手打ちが当たり前で、そこらへんの女子中高生だって、発信したいコンテンツがあるなら頑張ってプログラミング言語を使ってウェブサイトを作っていた。
だから、ホームページ・ビルダーを使うのは「ちょっと恥ずかしいこと」とされてきたし、私もそれを明かさないでいた。といっても、ソースコードを見れば
<META name=”GENERATOR” content=”JustSystems Homepage Builder Version XX for Windows”>
と、自動表記されてしまうからバレバレだったけれど。
ウェブサイトを持つのが当たり前になって「アルバイト」が誕生
ただ、当時はウェブサイトを持つことがまだ珍しい時代だった。
そこらの歯医者の予約は電話一択だったし、電話番号はタウンページを見て調べていた。
しかし、インターネットが一般家庭へ普及しつづけた中、どこかで「ウェブサイト(ホームページ)くらい持っていなくちゃね」という気運が高まった。
そして、一般のおじちゃん、おばちゃんまで「うちもそろそろ、ホームページを持つべきかしらねえ」なんて思い始めたのである。
ところがどっこい。その世代にとっては、キーボード配列でキーを叩くのもしんどい話。そこからホームページ・ビルダーを駆使しろなんて、本業が忙しくってとても無理だった。
そこで私の「アルバイト」が始まる。
ホームページ・ビルダーのお陰で、ウェブサイトを作る速度がHTML手打ち勢より何倍も早かった利点を活かし、街中のウェブサイトを作り始めたのである。
なんとなく口コミで話は広がり、ちょっとした紹介ページを爆速で作る「アルバイト」が生まれた。子どもには美味しい報酬額だったのを、しっかりを覚えている。
発達するウェブサイト制作ツールと、変わらない需要
そして、ウェブサイトの数は増えに増えた。2019年のデータによると、世界には17億のサイトがあるらしい。2000年から私は変わらずMicrosoftWordを使い、メールで連絡を取り、そしてキーボードの配列だって変わりゃしなかったのに、ウェブサイトはどんどん増えていったのである。
では、それは誰が作っていたのか。
大きな会社が発注する、ゼロベースのウェブサイトは相変わらずプログラマの手に頼っている。けれど中小企業レベルなら、今や社員の1人でもリテラシーがあればウェブサイトくらい、ウェブサイト制作ツールで作れてしまうことだろう。
WordPressの構築までできれば、もはや外注を請け負うことすらできる。ウェブサイトを作るハードルは、おそらく2021年が史上最も低い。
ウェブサイト制作は「誰にでも作れる仕事」になったはずだった。
誰にでも作れる仕事だから、単価が下がるわけじゃない
さて、よくこんな話がある。
「この仕事は今こそ珍しいスキルでも、いつか誰にでもできる仕事になって、単価が下がるだろう」
ウェブサイト制作は、昔からそう言われてきた。ここまで誰にでも作れる道具があれば、アルバイトみたいな単価になってもおかしくないと。
しかし、そうはならなかった。どこまで「誰にでもできる道具」としてウェブサイト制作ツールができても、デジタル非ネイティブ世代の「心のハードル」は超えられなかったからだ。
なんか、ホームページっていうの? 作るの大変なんでしょ?
この感情を、昔の50代はそのまま70代になっても抱えている。大きな会議室で、初めてのZoomに戸惑いながら、それでもウェブサイトには触らない。
だからウェブサイト制作ツールを触ろうと思わないし、WordPressをインストールしてみない。ごく一部の例外の話はここでしない。全体的な話だ。だから、ウェブサイト制作の単価はそこまで下がらない。
センスは単価を下げさせない
次に、ウェブサイト制作には技術以上の「センス」が問題となる。
私はかつて、豊富なテンプレートを持つウェブサイト制作ツールがあれば、誰でもセンスに溢れたサイトが作れると思っていた。
しかし、そうはいかない。
- フォントを同じサイトなら統一すべし。
- フォントサイズを画面一杯にせず少し小さくすると上品になる。
- 色は使っても3色まで
といった、デザインの基本を押さえなければ、ウェブサイトのデザインは簡単に崩壊する。
テンプレートがいかにセンスあふれるものでも、そこへ全く異なるトーンの写真を1枚入れれば、ウェブサイトはダサく、素人っぽくなってしまうのだ。
センスはデザインを学んだ人間へ金を出さないと買えない。それが、ウェブサイト制作の単価をあるていど維持できているポイントになっている。
そして生まれた時給3万円のアルバイト
……ということに気づいてから、私は多数のソフトに触り始めた。2000年当時のホームページ・ビルダーに比べて、いずれも使いやすく、機能が増していた。
初心者にも触りやすく、誰でもマスターできるものに変わっていた。だから怠惰な私は喜んで使った。ごめんね、HTML5。あなたをマスターする前に、こっちを選んでしまった。
そして、別途デザインの基礎を学んだ。といっても、美大に通うような話ではなく、最初はスライド資料作成の知識を応用した。コンサルタントが新卒で学ぶスライド資料の作り方には、論理構成だけでなくデザインの要素も大いに入っている。それを学ばせてもらった。
あとは、デザインの教科書を数冊読み込んだくらいだ。合計学習時間は50時間を切ると思う。だが、これが「誰にでもできる」はずのウェブサイト制作を、時給3万円のアルバイトに変えてくれた。
相手の要望をヒアリングし、適したテンプレートを選ぶ。テンプレートを破壊しないフォントと色味の写真を選ぶ。ときには撮影から外注のフォトグラファーさんと入る。そして当て込み、完成させる。
イノベーティブな人材からは「単純労働」と笑われるだろうこんな仕事が、私を救ってくれた。というのも、私は昨年から休職中だったからだ。
誰にでもできることだって、自分のキャリアを救ってくれる
プライベートがごたついて、どうしても文章が書けなくなった。ライターとして致命傷を負ったが、それでも食べていかねばならない。そう考えたとき、久しぶりにウェブサイト制作の依頼をツテでいただいた。
8時間でサイトを作って納品すると(テンプレートに沿って6ページほどの単純な静的サイトを作っただけ)、感動して他の案件をいただけた。これで24万円。月に2つも作れば、経費を賄うことができた。
そうして、私は今日まで生きている。きっと誰にでもできる仕事で、誰にでもできる量の勉強だけをもとに。でも、それが仕事の大半なのかもしれないし、それでいいのだと思っている。
世間では、オンリーワンのスキルがもてはやされがちだ。アーティスティックで、その人にしか作れないものがあれば私もうれしい。けれど本当は私の原稿だってAIがいつか書けるようになるだろう。オンリーワンで食べていけるひとなんて、ほとんどいない。
だから、きっと単価がそこまで下がる仕事も、少ないのではないか。そして今、単価が低い仕事は「誰にでもできるから単価が安い」のではなく、軽んじられているだけなのではないだろうか。保育士さんや、ゴミ収集、介護士のみなさまの立派な姿を拝見しながら、最近はそんなことを考えている。
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