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副業作家が思う、会社員であることのメリットとデメリット

会社員のイメージ

 

先日、とあるポッドキャスト番組に出演した。知り合いのお姉さんたちが毎月録音している、その月に気になったコンテンツについて話す番組。

そこである話題について盛り上がった。

それは「会社員であることの良さ」。

お姉さん方は二人とも会社員。「もっと会社員って楽しい、会社員って最高だって言う大人が増えるべきだと思うんですよね!」お二人はそう言っていて、私も頷いた。

 

「会社員、怖い」というイメージ

たしかに私も学生時代、会社という存在に震えていた。サラリーマンとはすなわち月曜から金曜まで牢獄に繋がれた人間のことを指すのだと思っていた。会社とはどんな地獄なのだろうと。

だって会社に入って楽しそうな人なんて見たことがない。SNSには会社の愚痴が溢れている。いや、会社仕事が充実してそうな人はいたけれど。その人たちもどこかぐったり疲れて、自分の持ち前の気力と体力でなんとか生き延びているように見えた。

会社員、怖い。

ただただそのイメージが先行していた。

が、実際に会社へ入ってみると、いろいろと想像と違った面は、良くも悪くも、存在した。

たしかに世間はもうちょっと会社のことをフラットに語ってもいいのにと思う。せめて学生さんがまだ見ぬカイシャに恐怖心を覚えなくていいくらいには。でもコンプラがあるから、SNSに会社仕事の良い面って書きづらいんだよね(書いててもコンプラ違反っぽくて私はあんまり信用できない……)。

なので今回は記事にして、「わりとがっつり書く仕事を副業でやっている自分から見た、会社に入ることのいい面・わるい面」をお伝えしてみたい。

 

もちろん会社は皆さんご存知のように本っっっっ当に千差万別。「それはお前の会社だけの話だろう」と思われるかもしれない。

でも、たとえば今の趣味を続けていきたい学生さんに、「とはいえ会社に就職って道もあるよ」という意見をひとつお伝えしてみたいのだ。

副業前提で会社に入ると、こういうメリット・デメリットがあるよ、と。

副業や趣味で自分の好きなことをやりたい人、あるいはこれから就職活動なり転職活動なりをやっている人にとって、少しでも参考になればうれしい。

 

副業ワーカーから見た会社の良さ 

お給料

 

……というわけで、副業ワーカーから見た会社の良さについて。メリット編。

まずは、とにもかくにも、安定したお給料ですよ!

学生時代、こんなにお給料がいいものだって知らなかった……。毎月給料が振り込まれるって素晴らしい。家賃も快く払える。好きな服も買える。

しかし単純に額の問題ではなく。副業ワーカーから見て、安定したお給料をもらえると何がいいかって、「お金のためにしぶしぶ受ける副業仕事」をしなくていいこと。

たとえば私(副業:書評家)の場合。もし会社に入らず、フリーランスで書評家になっていたら、お金のために割り切る仕事も受けるだろう。

でもね、私の場合はたとえば「とくに面白くなかった本を書評する」とかやりたくないんですよ! 苦行どころか自分の頬を自分で殴りたくなるほど嫌! 倫理的に無理! 

……お給料をもらってない身分だと、こんなわがまま言えない。おそらくお金のためにそのような仕事も受けざるをえない。

ペーペーのうちは、お金を大量に稼ごうとすると、信念を引き換えにするしかない。が、私はとくに信念を崩したくなければ魂も売りたくない。なぜなら副業である書評という仕事が好きなので。

なら会社員でいるのが一番はやいのだ。

いつかぺーぺーじゃなくなって、魂を売らずともお金を稼げるようになるその時まで。私はお給料を後生大事にする所存である。

好きなことをやり続けたいと思う人にとってこそ、お給料は必要、だって魂売らずに済むから……。お分かりいただけただろうか。

 

またお給料以外でいうと、会社のいいところは、これまでの人生であまりかかわってこなかった人と仕事をできることだ。

たとえば日々Twitterを見ていると、自分のタイムラインにいる人たちが「一般的な世間」だと思ってしまう。流行っている映画や漫画や本や話題も同じで。ある程度おなじ文脈を共有した人がいるだけなのに、それを一般的な意見だと勘違いしてしまう。

しかし会社にいる人は、プライベートで知り合う人とは異なる。

もちろん同じ会社にいる時点で「違う人々」のラインナップなんてたかが知れている。しかし学生時代の友人や、SNSで知り合った友人、あるいは副業で出会う人々とは、やっぱりちょっと違う。休日の過ごし方も、好きなものも、価値観も。

私の場合、会社の人々、まじでビジネス書以外の本読まない。というか本屋とか行かない。それが普通なのだと改めて実感する。

だけど、たとえばNiziUや半沢直樹は、そこをやすやす超えてくる。みんな『推し、燃ゆ』は知らなくても、虹プロは見る。すごい。

私は会社に入って、あらためて流行の意味を実感した。会社に入らないと、マスに流行するものとは何かなんて考えなかったよなあ、と痛感する。最近自分のツイートがどれくらいバズれば、会社の人が見るのか実験してみている(たまに「見たよ」って言われるのである)。きっとどんな副業でも、どうやったらいろんな人に届くか考えるのは必要じゃないだろうか。

趣味では関わらないような人たちと関わることができるのが、会社のよさだと思う。それはきっと、副業にも活かせる……はず。

 

あとはお金の管理に強くなる(これは職種にもよるかも)」とか「そもそも他人が自分の仕事によって喜んでくれる経験をしやすい(個人事業主、自分の業績が上がっても自分と取引先しか得をしないので、これは新鮮だった)」とか、いろいろあるけれど。また機会があったらじっくり書いてみたい。

学生時代に思っていたよりは、会社、いいとこかも! と、私はてらいなく思う。

 

デメリットは「時間」と「欲」

時間

 

と、書いたところで、打って変わって、会社のわるいところを紹介したい。デメリット編。

あくまで副業やがっつり趣味をするうえで会社勤めのデメリットなのだが。

私が思うに……会社に勤めるデメリットは「時間」と「欲」に限る。

 

まず「時間」。

言うまでもない。会社って、ほんとうに、時間をとる!

学生時代に思っていた以上に、会社とは人生の時間を奪ってくる場所である。まあ、こちらは時間と引き換えにお金をいただいている身分なので、仕方ないのだが。それでも、本当に想像以上に時間をかけさせる場所だなとしみじみ思う。

もちろん仕事する時間も週5規定時間+残業分、存在する。しかしそのうえ、会社によっては「飲み会」「接待」の時間がある。あるいは「プライベート時間でも緊急で返さなくてはいけないメールや電話」をチェックする時間。あるいは「ほとんど強制的に受けさせられる試験のための勉強」。これもけっこう時間を喰う。あるいは「プライベートでやっとけと言われた勉強や調べもの」の時間。……けっこう業務外でも時間をとらなくてはいけないのが会社という場所である。

そして一番つらいのが、「人間関係がしんどいとき、そのダメージを受けているまたは回復させている時間」だ。

これはメリットのところでいろんな人と関わることができると言ったことの裏表だけど。会社で同僚との相性が悪い時、ひどい上司に当たった時、そこは地獄と化す。

人間関係、本当につらい時はさっさと転職なり訴えるなり誰かに相談してほしいけれど。それでもどこかで耐えてダメージを受けるだけの時間も生まれてしまう(よくないけど)。そんなとき、ダメージを回復させるのは、存外時間がかかるものだ。

こうなってしまっては副業どころの騒ぎではない。

私は飲み会で時間がなくなるのを避けたかったため、就職活動の際「お酒苦手なんですが、飲み会ってどれくらいありますか」と聞いたり(お酒は好きである)、接待がありそうな職種は受けないようにしたりしていた。が、人間関係は運でしかない。とりあえず人間関係が比較的カラッとしてそうなIT業界を選んだけれど、それ以外は対策を講じようがない。ただ祈っていた……。

 

で、あとはもうひとつ大きなデメリット「欲」である。

会社にいると、仕事がうまくいったとき、割と承認されやすいなーと私は感じる。

個人事業主にとって結果は自己責任。たとえ自分の仕事がうまくいっても、それを喜んでくれるのは基本的に自分ひとりである。もちろん取引先、私だったら編集者さんとか、が喜んでくれたりもするけれど、メールだけの場合も多く喜びを実感しづらくはある。

しかし会社の場合、たとえば仕事がうまくいくと新人のうちは先輩が直接褒めてくれたり、あるいはそれがそのまま部署の功績になって喜ばれることもある。まあ、褒められてもたいして嬉しくないわと思う人も多いだろうが、それでも一定の承認は得られたりする。

あと、単純に自分の仕事によって、他人が仕事しやすくなったりする。きれいなエクセルを作ったら、あとで使う人が楽になる。これも個人事業主にはない仕事のやりがい――承認ポイントなのではないか。

しかもそれでいて、やらなきゃ他人に迷惑がかかる。査定も下がる。

要は、他者からの評価が明確なのである。

で、そんなふうに会社の評価に左右されていると、副業のほうのやる気がなくなる人もいるんじゃないかと思う。副業でわざわざ評価されにいく気が失せるのだ。

最近私が観た『花束みたいな恋をした』という映画で、「イラストレーターをめざしていた男の子が、会社の仕事が忙しくなってイラストに興味がなくなる」描写があったのだが。これも、会社に時間を奪われた以上に、会社で評価されて承認されちゃったんだろうな、と感じた。

まあ、これに関しては、会社に入って数年経って、会社の評価だけで物足りなくなったタイミングで副業を始める……とかでもいいんだろうけれど。でも、「会社は評価がはっきりしてる」という面は、学生時代は見えていなかったなと思う。

 

さて、そんなわけでメリット・デメリット双方を挙げてきた。

結局、メリットもデメリットも裏返しであって、何を選ぶかの違いでしかない。

なにかの参考になればうれしいなと思う。 

とりあえず私は休日を待ち望みながら兼業会社員ライフをしてます! なにか質問あったらSNSで言ってもらえたら。

さて今月もみなさまもよき仕事ライフを。

 

 

執筆

三宅 香帆

書評家・文筆家。1994年生まれ。 『人生を狂わす名著50』『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』などの著作がある。

編集

武田 伸子

2014年に中途でさくらインターネットに入社。「さくらのユーザ通信」(メルマガ)やさくマガの編集を担当している。1児の母。おいしいごはんとお酒が好き。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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