さくらインターネットES本部 人材支援グループでマネージャーをしている矢部と申します。
多くの企業・組織で1on1ミーティング(以下、1on1)が導入されており、また新たに1on1を導入検討する企業・組織が増加しています。
コロナ禍でリモートワークが増え、オフラインでのコミュニケーションの減少を余儀なくされたため、1on1の重要性が再認識されています。
しかしながら、1on1を導入したもののどう進めたらいいのかわからない、メンバーが1on1を避けているなど、社内外から相談を受けることも増えてきました。
また、社員が仕事を辞める原因の多くは「上司との人間関係」であり、社員の維持といった側面でもコミュニケーションは重要です。
当社が1on1を導入したのは2017年。当時の私は1on1をする側として、自分が話せるネタをたくさん準備して挑んでいました。これは、沈黙になってしまうのが怖かったからです。
ただ、せっかくメンバーと自分の時間を共有するのであれば、良い時間にしたいとも思っていました。
上司として、何を目的にメンバーと関わろうとしているのかと考え、「メンバーが自分の可能性に自ら気づき行動を起こすための場」にしようと決めました。
何を目的としてメンバーと1on1をするのか?
1on1をはじめるきっかけは「人事から言われたから」「業務命令として」などさまざまだと思います。
大切なことは、まず自分は何を目的として1on1という場でメンバーに関わろうとしているのかを自分の言葉に落とすことです。
1on1を通してメンバー自らが問題や課題に気づき、そして、行動するためには勇気が必要です。その勇気を持てるかどうかは1on1をする側の関わり方が大きく影響します。
「馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」というイギリスのことわざがあります。これは本人がやる気にならなければ、周りがいくら変えようと思っても意味がないという意味です。
親が子どもに無理やり「勉強しなさい。勉強はすべきだ」とたくさんの教材を買い与えても、子どもが勉強する気がなければ全く効果がありません。
それは、メンバーも同じです。メンバーが成果を出すためには、無理やり強いるのではなく、メンバー自身がやる気を出す内発的な動機が必要なのです。
1on1の頻度は? コミュニケーションには量も重要
当社では2週間に1回30分の1on1を推奨しています。
入社間もないとか、若手かベテランかなどメンバーの状況によって頻度は一様ではありませんが、初回から半年くらいは2週間に1回30分以上をおすすめしています。
コミュニケーションは、質・量ともに大切ですが、まずは量だからです。
江本勝氏の著書『水からの伝言』をご存知でしょうか? この本の中に次のようなエピソードがあります。
3つのビーカーに水と米をいれ、1つ目のビーカーには、毎日「ありがとうございます」と声を掛ける。2つ目のビーカーには、「おまえはバカ者だ」と声を掛ける。
そして3つ目のビーカーは、完全に無視します。
「ありがとうございます」と声をかけられ続けたビーカーの中の米は発酵し、「おまえはバカ者だ」と言われ続けたビーカーの米は黒く変化します。
そして無視されたビーカーの米は、なんと腐敗し始めたそうです。
腐敗したのは、無視した米。つまり、何もしないこと。
まずは質より量、メンバーに興味や関心を向けることが重要です。1on1を設定し、継続することからはじめましょう。
関係性をつくるための上司の心得「心の扉は、ノブが内側にしか付いていない」
1on1のベースは、メンバーにとって安全で安心して自由に発言ができ、自分の居場所であると感じられているかどうかです。
これは、上司とメンバーとの関係性を指しています。
以前、上司との1on1について話を聞いた際に、
「上司との1on1では自己解決できる課題をわざわざ引っ張り出して相談しています。本当に困っていることや、自分のキャリアについて話そうとは思えないんです。きっと否定され、評価を下げられ、馬鹿だと思われるんじゃないかな」と答えた方がいました。
コミュニケーションにスキルは重要ですが、どんなにスキルを駆使しても、関係性ができていなければメンバーは本心を話しません。
メンバーは、2週間に1度訪れる30分の1on1を自分に課された苦行だと思い、なんとかして時間をやり過ごそうとばかり考えています。
では、メンバーとの関係性をつくるための、上司の心得とは?
20世紀でもっとも影響の大きかった心理療法家といわれているカール・ロジャーズは「人間には、自己実現をする力が自然に備わっている」と考え、カウンセラーは「自己実現を促す環境(=クライアントとカウンセラーの関係)をつくること」が重要であると訴えました。
これは、カウンセリングに限らず、上司もメンバー間においても同じであると考えます。なぜなら「自己実現を促す環境をつくること」とは、メンバーが自ら考えて決断し、行動と修正を繰り返すことによる成長を支援すること。
これは、組織におけるマネジメントの役割そのものであり、そのひとつが1on1であるからです。
ここで大切なことは、上司の態度がメンバーに内在化するということです。
上司がメンバーのさまざまな言動を尊重し肯定的に受け止めるからこそ、メンバーは自分自身を尊重し肯定的に受け止めることができるようになります。
人は他人から理解された、わかってもらえたと思った時、心に変化が生じるものです。
それが真に自分に向き合う力となり、自らを成長させていきます。
ロジャーズは、自己実現を促す関係性をつくるための態度を「中核三条件」としてまとめています。ここからは「中核三条件」について1つずつ解説します。
1.無条件の肯定的配慮
1つ目は、無条件の肯定的配慮。受容、尊敬、温かさなどとも言われます。
私たちはメンバーの話を聴いていて、
「それは間違っている」
「そんな風に考えているから不幸になるんだ」
「こう考えたらいいのに」
などと思ってしまうことがあります。
人と考えが違うのはあたり前であり、どちらが正しい、正しくないもないはずです。
人は自分の経験から考えをつくり出します。だから自分の考えは自分にとって真実味があるのです。
その考えを頭ごなしにジャッジされたら関係性が悪くなったり、ますます頑なになるのも当然のことだと思います。
メンバーがどんな価値観や考え方を持っていても、それを肯定的に受け止めて尊重する態度を持って接することが大切なのです。
「心の扉は、ノブが内側にしか付いていない」
メンバーを正そうとするのではなく、メンバーの言動に寄り添う。
上司自身がそうするからこそ、メンバーは内側から「心の扉」を開けてくれるのです。
メンバーの存在そのもの、そしてメンバーの体験や表現に対して条件付きではない温かな関心を示し受け止めること。
寛容さを欠いた人間味のない態度、たとえば冷淡で思いやりに欠け、あるいは横柄で傲慢で尊敬の念を失した態度は明らかに1on1の進展を妨げる態度といえます。
2.共感的理解
2つ目は、共感的理解。メンバーの視点からメンバーが表現していることや感じていることを感じ取り、理解すること。
ロジャーズは「クライアントのプライベートな世界をあたかも(As if)自分のものであるかのように感じとりながらも”あたかも”という性質を絶対に失わないこと」と訴えます。
重要な点は、共感と同情や同一視を区別するということです。
同情とは、かわいそうに思うことですが、ここには評価や上下関係が存在します。
同一視は、他者の考えや状況を自分の体験であるかのように思うこと。
「共感できない相手にはどうしたらいいですか?」と質問を受けることがあります。
共感は態度ですから「共感できない」ということはありません。相手と同じような視線で物事を見てみようとする態度が、ここでいう共感的理解になります。
3.自己一致
3つ目は、自己一致。1on1において上司自身が自由にそして深く自分自身でいられることを指します。
・1on1をしているとき、上司という役割を演じているのではなく、自分自身であること。
・自分の価値観や信念に気づいていて、それを受け入れていること。
・自分をよく見せようともせず、等身大の自分としてそこにいること。
これらが、自己一致している状態です。
1on1において上司が演技的であったり防衛的であり、態度に裏表が見られたりするとメンバーは自分の体験していることの意味を十分に意識化することができず、内省もできません。
そして、ポイントはこれらの中核三条件は大切に思っているだけでは不十分で、メンバーに対して具体的に提供できているかどうかが重要であるということです。
役職上は上司かもしれません。人事かもしれません。
しかしどんな立場であれ、決して偉そうにせず、驕らず、メンバーを自分で気付き行動を起こせる一人の人として尊重し、そして横の関係で接すること。
これが重要なのです。
よい1on1をするための準備
最後に良い1on1をするための準備についてまとめていきます。1on1の参考にしていただけると嬉しいです。
- 1on1の目的を設定する
「なぜ、1on1があなた(メンバー)にとって重要なのか? そして私(上司)は1on1でどんな関わりをしたいと思っているのか?」をまとめておきましょう。初回の1on1でメンバーに伝え、認識あわせをします。
- 毎回メモをとる。始まる前に前回の1on1のメモをレビューする
前回の1on1のメモを振り返りましょう。そのためには毎回メモをとったほうがいいです。
初回の1on1の場合は、出来る限り情報を集めましょう。
私はSlackなどを検索して、メンバーの興味や関心がどこに向いているかなど情報収集をしてから初回の1on1をしています。
- キャンセルはしない。再調整する
1on1のキャンセルが発生するのは仕方がありませんが、再調整をするようにしてください。
キャンセルは「自分の1on1を重視していない=自分を重視していない」というメッセージになることもあります。
- 自分自身の不安やイライラは手放しましょう
仕事をしていると不安になることも、またイライラすることもあります。
ただ先ほども書いたように、自分の態度そのものが相手に内在化します。
イライラしている人と話していたら、いつの間にか自分までイライラしていた経験をお持ちの方は少なくないと思います。
大きく深呼吸をしたり、ストレッチをしたりして、自分自身を良い状態にしておきましょう。
私は1on1の前に1分くらい瞑想をおこなうようにしています。
- 信頼できる人に継続して1on1をしてもらいましょう
いざ、1on1をするにあたり、1on1はいいものだと自分が思えていなければ提供すること自体に迷いが生じます。
1on1を通して、他者に支援してもらえることが、自分の活力になり成長を後押しするものかを実感できてこそ、自分が1on1を提供する立場になった時の迷いを消し去るのです。
それは、上司でなくても、他の部署の管理職でも、同僚でも、社外の友人でもいいと思います。
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ここまでは1on1をおこなううえでの心得、準備についてお伝えしました。
次回は「実践編」をお届けします。
1on1ミーティングとは? 人事マネージャーが伝える心得 実践編
執筆
矢部 真理子(やべ まりこ)
メーカーでの営業、社長秘書を経て、前職は約7年間新卒・中途の採用業務と研修企画、マネジメントに携わる。2012年、採用担当としてさくらインターネットに入社。年間100名のエンジニア採用を中心に採用広報も担当。2016年4月にリーダー、2018年7月にマネージャー、2021年10月からは部長として、人・組織で事業に貢献するための人事業務全般に従事し、ES部を率いたのち、2023年10月に ES本部を管掌する執行役員に就任。
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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