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私が本を出版できた理由。きっかけは小さな書店

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Q.「本を書きたいんですが、どうやったら本を出せるんですかね?」

A.「まずは書きたいこと書いて、自分で世に出しちゃうのがはやいと思います!」

 

はい。いきなりすみません。たまに、「本ってどうやったら出せるの?」と聞かれることがあるのですよ。なので私が思ういちばん手っ取り早い方法を書いてみたのです。

 

たくさんの人に読まれるかどうか

はじめて本を出す(に至る)方法。

おそらくひとむかし前は、出版社が主催する賞に応募したり、編集者の知り合いを見つけて原稿を持ち込んだり、というやりかたが多かったのかもしれない。

だけど今は、圧倒的に「ブログやSNSや同人誌で好きなことを書いてたら、出版社が声をかけてきた」という経緯が多いんじゃないかな、と思う。

 

インターネットの海に無料で落ちている文章が、なんだかおもしろくて、今まで書かれてこなかった題材や視点で、それでいて今のみんなが考えていることにうまく合致しそうなものだったら。たぶん編集者は「本にしませんか」と言いたくなるのだと思う。たぶん。いや私、編集者やったことないけど。でも周りの編集者さんたちを見てると、そう想像できる。

たぶんSNSやブログのフォロワーが多いか少ないかよりも、その文章が、面白くて、たくさんの人に読まれるポテンシャルがあるかどうか、が大切なんだと思う。

もちろん今のフォロワー数を重視している編集者さんもたくさんいるだろうけれど。本質的にはフォロワー数よりも、その文章を読みたいと思う人がどれくらいいるだろうか、という計算のもとで声をかけている。と、私は信じたい。

 

というわけで、もし本にしたい内容があるなら、とりあえずインターネットで書いてみて、まあそれをどうしたらたくさんの人の目に触れてもらいやすいか考える……くらいのテンションがいちばん手っ取り早いんじゃないかなあ、と思う。

あるいはインターネットでなくとも、今は同人誌を売る場所がたくさんあるから、同人誌で好きなことを書いてみるのも楽しそうなやりかただろう。同人誌で本の書き手を見つけたい編集者さんもたくさんいる。

 

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で、まあ「どうやったら本を出せるのか?」という問いについては、結論はすでに書いてしまったのだけど。しかしこれだけだと字数も足りないので、今回は自分語りしてみようと思う(いや、この連載、すでにほとんど自分の話しかしてませんが……。読者が離れないことを祈る)。

「私が大学院在籍中に、いかにして本を出すことになったか」という経緯の話である。

 

きっかけはとある小さな書店

本を出したのは大学院のときだけど、ことの発端は、大学三回生までさかのぼる。――私がまだまだ将来をどうしようか迷っていた時期のことである。

三回生の夏、ちょうど就活に向かい始める季節。モラトリアムを満喫しすぎていた二十歳の私も、さすがに自分の将来を考え始めていた。

当時文学部にいた私は、「自分は文系の大学院でやっていけるほど賢くないよなあ」と思っていたので、就職する方向でいろいろとインターンの面接を受けていた。まあ、まさかこの後、自分がまったく賢くならないまま文系の大学院に進学し、博士課程まで居座るとは思ってもみない小娘時代の話です……。

文系の学生らしく、新聞社やら広告会社やらのインターンに出つつ、本が好きだったので出版社もいいな~とぼんやり思っていた。

そしてインターンの面接で東京へ行った際、「せっかくだから東京の有名な本屋さんまわろ~」と出会ったのが、池袋の天狼院書店。私が本を出すきっかけをつくってくれた、書店だった。

 

今でこそ、全国各地に支店を抱え、メディアにもばんばん取り上げられ、書店で集まるサークル活動やライティング講座など「書店」以外の活動も有名な天狼院書店。しかし当時はまだ池袋一店舗しかなく、店の客と社長が世間話をできるほどに小さい書店だった。

なんで私がそんな池袋の書店を知っていたかというと、天狼院書店のバイトスタッフが更新するブログが面白かったからである。天狼院書店のバイトスタッフはみんな早稲田や明治といった東京の有名大学の子ばかりで、書店ブログの記事たちは、文章も達者で、なんだか都会の文化系大学生活の香りもして、とても面白かったのだ。

ブログを読んでわざわざ京都から来ましたなんて言うと、書店の社長は喜んでくれた。そして、「え、京都の学生? いつか京都にも店出したいから、遠隔インターンってことで、京都から店のブログ書いてよ!」と声をかけてくれたのである。

 

……いまもって「バイトもしてないのにバイトスタッフみたいなていで書店のブログを更新する」なんて謎の役割すぎる。しかも文章上手いかどうかもわからないのに。ブログ更新係を任命してくれた社長には恩しか感じない。

しかし、そんな偶然の力が働きつつ、さらに偶然の力が働いたのは、その書店のブログの一記事が盛大にバズったことだった。

社長は昔ライターもやっていたので、たまに「文章の心得」みたいなものを教えてくれた。

その甲斐あって、私のブログ記事を見かけた出版社・ライツ社さんは、私に「本を書きませんか?」と声をかけてくれたのである。

 

好きじゃないと続かない

人生はあまりにも運とタイミングに左右される。

結局、私は出版社どころか大学院に進学したくなって就活自体をやめたし、社長は本当に京都に支店をつくったし、私に声をかけてくれたライツ社さんもずいぶん有名になった。

だからこそ、もしいろんなタイミングが合ってなければ、私は本を出すことも、なんならインターネットに文章を書くことも、してなかったのかもしれないなあ、と思うときがある。

 

だけど私がいちばん幸運だったのは、書店のブログという、「自分の好きな題材について書く場所に恵まれた」ことだったな、と今になって考える。

 

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つまり、私は、もともと本が好きだった。

だからこそ、本についてあれこれ書くことは苦にならないし、たくさん発信したい、と思える。さらにその発信がたくさんの人に届いてほしい、と思える。

正直、本に関する文章じゃなければ、ここまで「たくさんの人に文章を読んでもらえるにはどうしたらいいのかなー」なんて考えなかったのかもしれない。だって、ふつうに好きな文章を書いてるだけなら、べつに誰に届かなくてもよくて、日記に書いてれば満足できる。

だけど、自分の好きなもの、本についての文章を書いてるからこそ、「ああ、この本のこういう側面ってなんでだれも声を大にして言わないんだろう……」なんて思えて、できるだけ自分の声が大きくなるといいなあ、と願えるのである。

 

結局、文章を書くなんて、費用対効果があう所業ではない。だからこそ好きじゃないと続かない。たぶん文章を書いてお金をもらうようになっても同じだと思う。

さらに言えば、好きじゃないと続かないというのは、「文章を書くことが好き」という意味もあるけど、同時に「好きなものについての文章だと、楽しくて続けられる」という意味でもある。

好きなものっていっても、別に趣味やモノについてじゃなくてもいいのだ。自分の好きな意見や、考え方、どうしても考えてしまうトピック。結局は、自分が手放せないものについてだったら、なんでもいいのだと思う。

 

自分が書きたいと思えることについて書けることほどの幸福ってない。と私は本当に思う。

なかなか時間もないけれど、それでもやっぱり書きたいことが書けることがいちばん幸せだ。

 

なので。最初の「どうやったら本を書けるのか」という話に戻ると、冒頭に書いた結論と矛盾するようではあるけれど、やっぱり「本を出すために書く」というより「いつか本になったら嬉しいな、でもいま書きたいこと書いてだれかに読んでもらえてるのって嬉しいな」くらいのテンションでなんか書き続けてれば、いいことあるんじゃないですかね……と私は答えたい。

文章を書くのって、いがいと楽しい試みなので。

好き勝手書いてればいいんだと思う。

 

まあ、今の時代、どれくらい本を出したいと思う人がいるのかは分からないけど。す、すくなそう。しかしたまに聞かれる問いかけなので答えてみました。

 

ちなみに私に文章の心得を教えて下さった社長は、いまや天狼院書店の講座として文章のコツを教えておられます……。ご興味ある方いればぜひ。

……って勝手に店の話をあれこれ書いてしまったお詫びに、最後に宣伝してしまった。失礼いたしました。

 

執筆

三宅 香帆

書評家・文筆家。1994年生まれ。 『人生を狂わす名著50』『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』などの著作がある。

編集

武田 伸子

2014年に中途でさくらインターネットに入社。「さくらのユーザ通信」(メルマガ)やさくマガの編集を担当している。1児の母。おいしいごはんとお酒が好き。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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