お絵かきツールの普及によって、イラスト制作は身近なものになりました。そんななか「マンガを描いてみたい」「技術を絵で説明してみたい」と思っている方も多いのではないでしょうか。
今回のCROSS 2020では「シス管系女子」「インフラ女子の日常」「わかばちゃんと学ぶ」といった人気技術マンガの作者のみなさんにお集まりいただき、ネタの出し方から技術を絵で表現する方法まで、マンガ制作の裏側を聞きました。明日から使える「技術の伝え方」をたっぷり学んでいただければと思います。
モデレーター
パネリスト
マンガ制作の流れは?
近藤佑子さん(以下、近藤):本日はよろしくお願いします。さっそく最初の質問です。マンガ制作の流れについて皆さんにお聞きします。まずはPiroさんからお聞かせください。
【Piroさんの原稿ができるまでの流れ】
1.プロット/シナリオ
2.ネーム
3.作画
Piro/結城洋志さん(以下、Piro):作業の工程はざっくりと3段階にわかれています。
プロット/シナリオは文字でおこないます。話題を決めてどういうふうにはじまって、オチをつけるかまでを考えますね。そのときに使う技術の検証もします。この段階で第三者のチェックを入れます。僕の場合は妻に見てもらうことが多いですね。
次がネームです。シナリオで書いたものをマンガっぽい形にしていきます。僕の場合、ネームが一番時間がかかります。プロットで決めた内容が膨らんで、あとから削ることも多いです。ネームの段階でも第三者にチェックをしてもらいます。表情などもネームの段階で決めるようにしています。
最後が作画ですね。ここからはひたすらペン入れです。脇役から描いて、次に主人公を描くようにしています。なぜかというと、前に描いてから1か月くらい間が空くので、描き方(※手を思い通りに動かす感覚のこと)を忘れちゃうんですよね。なので、筆が温まってきてから主人公を描くようにしています。
近藤:ありがとうございました。続いてなつよさんお願いします。
【なつよさんの原稿ができるまでの流れ】
1.シナリオ
2.1コマごとに描き出し
3.ネーム
4.コラム作成
5.監修
6.ペン入れ、仕上げ
なつよさん(以下、なつよ):私の場合は、シナリオをテキストベースで書いていきます。この段階で監修の方に見ていただくこともあります。
その次に1コマごとに描き出していきます。表情を考えながら描いていくので結構しんどいです。これをB6サイズのマンガに落とし込んでいます。そしてネームという形になります。
私の場合、マンガと文章があるのでGoogleドキュメントで作成して監修の方に見ていただいています。最後にペン入れと仕上げです。最初に人物を描いてテンションを上げてから背景を描くようにしています。
近藤:ありがとうございます。続いて湊川さんお願いします。
【湊川さんの原稿ができるまでの流れ】
1.つまづいたことをメモ
2.マトリクスで広げる
3.ネーム・ペン入れ
湊川あいさん(以下、湊川):基本的にはおふたりと同じ流れで進めています。今回はプロットを書く前段階からお話しますね。新しい技術に挑戦するときに、実際にやってみて、つまづいたことをメモします。
私が描いている『わかばちゃんと学ぶ』シリーズは「公式ドキュメントを読んでもわからなかった」という方のための本になるように心がけています。
よって、公式ドキュメントには載っていない「感情」もセットでメモすることが大事です。それがマンガの中でキャラクターのセリフなどにつながります。
次に「マトリクスで広げる」という過程を挟みます。皆さんも経験があると思いますが、いきなり「解説してください」と言われてもなにから解説すればよいのか迷いますよね。次のように、4つの軸で展開すると、解説の幅を広げられます。
- 抽象化
- 比喩
- 具体化
- 事例
この4つのマトリクスですね。「デーモン」という言葉を広げると上の図のようになります。私の場合は、ここまでできてからネーム・ペン入れに入ります。このマトリクスは、皆さんがブログ記事を書くときや、仕事で何かを説明するときにも使えますので、ぜひ活用してくださいね。
マンガ制作の流れ まとめ
【Piroさん】
- プロット/シナリオ・ネーム・作画の3段階に工程がわかれている
- プロット/シナリオは文字で書いていく。期間は約1~2週間
- ネームの段階で表情なども決める。期間は約1週間
- 作画はひたすらペン入れ。手が思い通りに動くようになるまで時間がかかるので主人公は後から描く
【なつよさん】
- シナリオ・1コマごとに描き出し・ネーム・コラム作成・監修・ペン入れ、仕上げ、にわかれている
- シナリオは文字で書いていき、監修の方に見てもらう
- マンガと文章(コラム)があるので、Googleドキュメントで制作して、監修の方とやりとりする
- ペン入れは最初に人物を描いてテンションを上げる
【湊川さん】
- つまづいたことをメモ・マトリクスで広げる・ネーム、ペン入れ、という順で進めている
- つまづいたことを感情もセットでメモすることで、マンガキャラのセリフにつながる
- 解説を考える際に「抽象化、比喩、具体化、事例」のマトリクスで広げる
ネタ出しの仕方はどうやってる?
近藤:続いての質問に入りたいと思います。ネタ出しはどのようにしているのでしょうか。まずはPiroさんからお願いします。
Piro:僕の場合は本業がエンジニアなので、普段の業務から考えています。そのなかで要素を分解して、ネタをストックしています。ネタを組み合わせて、実用的な場面などで使えるか考えます。ただ、このやり方には少し難点があるんですね。それをまとめました。
体系的なカリキュラムに基づいて考えているわけではない、ということが一番の問題点です。その反省から、本の3冊目に掲載されている回を描いたときは、年間を通してテーマを決めて描くようにしました。具体的には1年を通して「ネットワーク」というネタでやる、「セキュリティ」というネタでやる、としました。
あと、普段の業務からネタを考えているとお話しましたが、専業作家になってしまうとエンジニアの業務から離れることになるので、ネタが切れてしまう可能性があります。そうした理由もあって兼業で描いていますね。
また、マンガを描くうえでギャグ要素を入れる際には「誰かを貶めない笑い」を意識しています。
近藤:ありがとうございます。ネタ出しの方法がフローチャートを使っていてロジカルですね。続いてなつよさんお願いします。
なつよ:最近は、監修の九龍さんとのやりとり用にSlackへどんどん書いていっています。そこからネタが広がっていくことがありますね。ネタのきっかけは話題のニュースや同僚との会話、自分の仕事上での失敗談をもとにネタの種を集める感じです。
ネタの種同士を合体させてシナリオにしていきます。
ネタ出しで気をつけていることは、背伸びしないこと、disらないことです。
実際に技術を勉強しようと思って本を読んだのですが「なんもわからんかった」んですね。そんな状態でどうやってマンガを描こうか悩んだんですけど、なんもわからんことを正直に描きました。なんもわからんから続きはどうするんだ? と思うでしょうが、続きはぜひマンガを買って読んでいただければと思います。
もうひとつの「disらない」ですが、Piro先生もおっしゃっていましたが、誰かを貶めないようにする、ということです。
近藤:ありがとうございます。続いて湊川さんお願いします。
湊川:私の場合は、Twitter上で次に読みたいものを投票してもらいます。Twitterのアンケート機能でどなたでもできるので、何を描こうか迷ったときに、ぜひ使ってみてください。
パーセンテージが出るのでモチベーションにもなりますし、フォロワーさんにとっても「自分が参加している感」があるので良いと思います。「描きます!」と宣言することで、良いプレッシャーにもなるのでおすすめです。
テーマを決めたら、あるある問題からどうすればいいのかを書くことが多いです。あるある問題は実際に私が会社員として働いていたときの経験や、同業者から聞いた話をもとに考えます。フリーランスの友達とZoomを繋いで話を聞くこともありますね。
ネタ出しの仕方 まとめ
【Piroさん】
- 普段の業務から考え、要素を分解してネタをストックしている
- 体系的なカリキュラムがない反省から、年間を通してテーマを決めた
- ギャグ要素を入れる際には誰かを貶めない笑いを意識
【なつよさん】
- 監修の方とのやりとりを兼ねてSlackへネタ案を書いていく
- ネタのきっかけは話題のニュースや同僚との会話、自分の仕事上での失敗談から
- ネタ出しで気をつけているのは、背伸びしないこと、disらないこと
【湊川さん】
- Twitterのアンケート機能を使って読みたいものを投票してもらう
- 公開することでモチベーションになり、良いプレッシャーにもなるのでおすすめ
- 自分の経験や同業者から聞いた話をもとに考える
イラストの描き方(作業環境など)
近藤:それでは、続いての質問です。みなさん、イラストはどのように描いていますか? 作業環境や、ラフからペン入れの過程などを教えてください。
Piro:制作環境は20年くらいフルデジタルでやっています。PCはiiyamaのBTOです。液タブ(液晶ペンタブレット)は「Wacom Cintiq Pro 16」を使っています。液タブを置いている台は自作のものでして、ダンボールを使って工作しています。
書き方の流れとしてはラフを描いて、下描きして、ペン入れをするのですが、全コマでそんなにキッチリやっていたら大変なんですね。僕の場合、兼業なのでなおさらです。
なので、ラフと下描き、ネームを1工程におさめています。なるべく省力化をするようにしています。
ここからはカラーの場合の話になります。安定した品質のものを出したいので、アニメ塗りとなりました。パレットから選んだ色を使うことで、均質性と再現性を重視しています。
近藤:ありがとうございます。タブレット台はDIYなんですね。続いて、なつよさんお願いします。
なつよ:作業環境ですが、モバイルでできるものとドッシリやるもの、2種類を使い分けています。モバイル環境では、iPad ProとApple Pencilを使っています。手軽なのでシナリオ作成からネーム作成までをやることが多いです。
一番良いところは気分によって作業場所を変えられる点ですね。リビングやファミレス、海辺など好きな場所で作業できます。ネームがつまったときに海辺で作業することがあります。
もうひとつの環境が、デスクトップと液タブです。液タブは「Wacom Cintiq 16 FHD」を使っています。
近藤:ありがとうございました。最後に湊川さんお願いします。
湊川:スタンディングデスクを買ったのですが、立ちながら描くのが難しくて、結局ほぼ座っています(笑)。
私の場合、「mojimo-manga(モジモ マンガ)」というマンガ用の商用フォントを契約して使っています。いろいろなマンガでも使われているフォントが、一式まるっと入っているのでおすすめです。このフォントのおかげで、表現の幅が広がりました。
次にテンキーの紹介です。これはなんと500円で購入したのですが、愛用しています。一つひとつの文字にショートカットを登録してるんですね。作業時間がとても短縮されるので、おすすめです。
イラストの描き方(作業環境など) まとめ
【Piroさん】
- 作業環境はフルデジタル
- ラフを描いて、下描きして、ペン入れをする流れをキッチリやっていると大変なので、ラフと下描き、ネームを1工程におさめている
- パレットから選んだ色を使うことで、均質性と再現性を重視
【なつよさん】
- 作業環境は外でできるものと家でやるもの、2種類を使い分けている
- 気分によって作業場所を変えられるのが良い。ネームがつまったときに海辺で作業することも
【湊川さん】
- mojimo(モジモ)というマンガ用の商用フォントを使っていて、おすすめ
- テンキーにショートカットを登録して作業効率化
近藤:本日はマンガ制作の裏側をお届けしました。ご覧いただいた皆さんにアウトプットしよう、という気持ちになってほしいと思い、セッションをお送りしました。ぜひ、マンガを含めアウトプットをしていっていただければと思います。ありがとうございました。