「異常事態発生時に会社はどう乗り切るか」。
この記事では2020年8月27日にオンライン開催された、人事総務メンバー向けイベント『Back office Link in OSAKA』の様子をお伝えします。
4月7日の緊急事態宣言で世の中はめまぐるしく変化しました。また、東日本大震災をはじめ、災害などの緊急事態も多発しています。
これらの課題に向き合い、どのように乗り切り今後に生かせるのかを考える機会になればと思い、さくらインターネットがイベントを主催しました。
「緊急事態」その時、何が起こっていたのか!?
さくらインターネットの中川です。このテーマではさくらインターネットがおこなったコロナ対応の全体像を追っていきたいと思います。
政治判断と経営判断の狭間で揺れる、コロナ対応責任者のほかでは出来ない話
皆さまからお預かりしたデータを「蓄積」「送信」「計算」することが私たちのコア業務です。当社保有のデータセンターは国内に5拠点あります。北海道石狩・大阪・東京(3拠点)。自動車のメーカーであれば、工場にあたるような最重要の拠点です。
ただし、大半の社員はデータセンターではなく大阪と東京のオフィスビルで勤務しています。新型コロナの流行以前からリモートワークは可能としていたものの、ほとんどの社員はほぼ毎日出社をしていました。
コロナ対応の変遷
ここからは当社がおこなったコロナ対応の変遷について時系列をおってご説明します。
コロナ対応の変遷 Phase1
Phase1の2月下旬。もし当社でもコロナ陽性者が出たら……。と考え、人事や総務、そしてプレスリリースを出す広報が以下について議論をしました。
・行動履歴など、陽性者から収集する情報
・入居しているオフィスビルや、自社のWebサイトなど 社外に公開する情報
ただ、特に社内で制限などはかけていませんでした。本質的な対応についての準備は予想できていなかったということですね。
2月28日(金)に役員陣による緊急対策会議がおこなわれ、人事と総務に翌営業日3月2日(月)から「原則在宅勤務とする方針」が伝えられ、衝撃が走りました。
採用面接、社外の方との会議、当社主催イベントの中止またはオンライン化、準備していた大掛かりなプロジェクトなど、いろいろなものが一瞬にして延期となりました。
まさに天と地がひっくり返ったような騒ぎになりましたが、方針をルール化して、社内SNSを通じて従業員へ「原則在宅」の告知をおこないました。
まさに、できていなかった準備のツケがまわってきたということでしょう。
コロナ対応の変遷 Phase2
では、翌週から始まった在宅勤務はうまくいったのか、いかなかったのか。これを確認するため、原則在宅勤務が始まって1週間後にアンケートを実施しました
アンケート結果を簡単に紹介します。
■3/2~3/6までの5日間、在宅で勤務をされましたか?
・半数以上がすべての勤務日でリモートワーク
・すべての日程ではないがほとんどの社員がリモートワーク
■在宅勤務の準備をされていましたか?
・75%以上が在宅勤務の準備をしていたことがわかりました
■在宅勤務はうまくいきましたか?
・60%以上の社員が出勤時と同じか、またはそれ以上で在宅勤務が遂行できたと回答
いっぽう、この問いにコールセンターを有するカスタマーサポートや総務・人事・経理などのバックヤード系は約3割がうまくいかなかったと回答しています。
総括すると、在宅勤務がうまくいった社員はそれぞれの部署や個人として事前に準備していた方々で、うまくいかなかったのは職場やモノに縛られた社員という当然の結果でした。
3月下旬、原則在宅も3週間に。役員会議では「コロナは当分収束しないだろうし、この際『リモートワーク前提の働き方を目指そう』」という方針が示されました。
翌日、小池都知事が20時から突然記者会見を開いて「感染爆発の重大局面」と発表。 「週末の不要不急の外出の自粛を要請」や「平日は仕事は在宅などでおこなうよう」と発表したため、急遽22時半からZoomで役員会議を開催し、夜中に社内SNSで「無期限の原則在宅」を告知する急展開となりました。
コロナ対応の変遷 Phase3
みなさんもこの日は衝撃的だったのではないでしょうか。
ついに緊急事態宣言が発令され、当社は出社禁止(Phase3)に移行。どうしてもオフィスに入らなければならない場合は役員の許可が必要となりました。
新型コロナへの対応として原則在宅の発表があってから2カ月が経ち、原則出社禁止となってから20日が経ちました。この時期から、オフィスを出社前提ではない形にして、フリーアドレスやコラボスペースの充実などに形を変える意見が出始めました。
5月中旬、この頃になると慣れたもので、緊急事態宣言が解除されたときのために行動制限の早見表を作るなど先行して準備していました。
このあと緊急事態宣言の一部解除となりましたが、大阪・東京・北海道(石狩)など当社の主要拠点は継続して緊急事態宣言に残りました。
コロナ対応の変遷 Phase4
大阪に続き、東京/石狩も緊急事態宣言が解除され、出社禁止から原則在宅勤務に変更となりました。
ただし、
・出張の原則禁止
・来客NG
・代表電話の停止
・郵便/押印の対応日を減らす
・コールセンターの停止
などの出社禁止であったPhase3の制限は引き継いでいます。これは電話対応業務や通勤、職場内で接触による感染を抑止するためです。
あわせて、出社禁止が解かれオフィスに入れるようになったので、従業員に椅子やモニターの持ち帰りを許可することとなりました。
6月に入ると、東京のオフィスを今後どのようにするかの議論が活発になりました。この時、実施したアンケートを少しご紹介します。
・「今後出社する頻度」の問いについては、週に1回 ~ 月に1回と答えた従業員が最も多い回答でした。
この頃、固定席を提供していた東京のオフィスフロアにはどの階も数人しか出社していない状況であり、座席形式では「今後はフリーアドレス」で良いという意見が多数を占めました。予想に反して引き続き「固定席」が欲しいと希望する社員はマイノリティでした。
これらのアンケートをふまえ、その週の金曜にはZoomで呑みながらのディスカッションをおこないます。18時から開始されたこのディスカッション(Zoom飲み)には160人を超える従業員が参加しており、白熱した議論は午前0時を超えて終了しました。
こうした従業員とのコミュニケーションをふまえ、翌7月には経営層がフロアの削減を決定しています。
コロナ対応の変遷 Phase5
6月19日から都道府県をまたぐ移動について全国に「段階的緩和」がなされました。このあたりからは、経営層も「あまり政府に引っ張られない、さくらとしてのふるまい方にしていこう」という考えになってきていて、「コロナだから」という発言は急速に減っていきました。
他方で「リモート前提の働き方」という言葉が従業員のなかにもようやくなじんできたころで、ここからを「リモート前提の働き方」(Phase5)とします。
コロナ対応の変遷 まとめ
さくらインターネットがたどってきた段階は以下の5段階となります。
Phase1:ほとんどの従業員にとって、コロナと会社が紐づいていなかった期間
Phase2:休校により、原則在宅となった期間
Phase3:緊急事態宣言下で、出社禁止となった期間
Phase4:緊急事態宣言が解かれ、原則在宅となった期間
Phase5:コロナだからではなく、リモート前提の働き方が定着した期間
また、これらを振り返って重要だと感じたのは
a. 具体的な準備
b. 心のケア
c. アセスメント
だったと考えます。
次のコンテンツからは、人事と総務の担当者目線で、この5段階のどこで、どのような事象が発生し、対応したのか具体例をもってご説明させていただきます
これからの総務業務はどのように変化していくのか
さくらインターネットの田中です。新型コロナ騒ぎが始まってから半年以上がたちました。みなさん、コロナ以前はこんなことになるとは思ってなかったと思います。こんなにも急激にこれまでになかった速度で様々なことが変化していったことはなかったのではないでしょうか。
そんな変化の中でどのように総務業務も変化していったのかをみていきたいと思います。
コロナ感染拡大前の状況
まず、Phase1として、感染拡大前までの状況をお話しいたします。この時期はまだ通常通り出社しており、業務も通常どおりの運用をしていました。
ただし2月ごろになると、世の中では徐々に陽性者が発生し、当社でもその対策として制限事項を周知し感染防止対策を始めだしました。
また、マスクや消毒液などの衛生用品が品薄になりだしたため、急いで調達を始めたのもこの頃です。
続いてPhase2です。全国一斉に休校要請がでた2月27日に、当社も原則在宅勤務に切り替わりました。ここから総務部も極力出社せずに、業務を回すための体制をとっていきます。
来訪者の受付停止、郵便宅配、押印は回数を制限しての対応としました。Phase1に引き続き、マスクや消毒液などの衛生用品の購入を継続し、さらに強化したのです。
その後、緊急事態宣言が出されたフェーズ3になります。フェーズ2での対応は引き続き実施していったのに加え、代表電話の着信を停止。出社しないことを前提とした施策を進めたのです。この時期にリモートワークをしている社員へのサポートとして、椅子やモニタなどの社内備品の貸出しを実施しました。
コロナ感染拡大後の状況
Phase4、6月開催の株主総会はオンラインで開催。7月以降は自粛要請も緩和となり、Phase5になります。さくらもリモートワーク前提での働き方となり、この時期に今後につながる施策が徐々に始まりました。
このように新型コロナウィルス感染拡大の影響により、働き方が大きく変わっていきました。出社の制限や、リモートワークや在宅勤務、オンライン会議など、出社をせずに業務を実施するという、これまでとはまったく違った前提での働き方となったのです。
総務の具体的取り組み
そのような中、当社総務でどのような取り組みをしたのかを紹介します。
事例1 モノ・物流
最初の事例はモノ・物流です。
具体的には備品の貸出しとなります。リモートワークをしている社員が、オフィスと同程度での環境で働けるためのサポートとして椅子、モニタなどを自宅へ貸出しました。
きっかけは社員の要望です。この取り組みはテレビでも紹介されました。
事例2 郵便・宅配便の配布
次の事例は郵便・宅配便の配布です。
これはフェーズ2の時期から実施していきました。特筆すべきは、有志による郵便回収があげられます。
出社禁止期間に、郵便回収を継続して実施できるよう、自宅が近いなど比較的出社が容易な方を募りました。その方に郵便受けから郵便を回収いただき、いつでも郵便を受け取ることのできる体制としたのです。
実施できなかったことは、リアルタイムでの引渡しです。回収しても、オフィスにおいての配布しかできないため、出社回数の少ない方へはリアルタイムでの引渡しは不可能でした。
これを解決するには、社内だけで対応することは今のところ難しく、外部業者へ委託するなどの調整が必要です。対応できる仕組みを業者と構築しつつ、手探りで進めていくことが現実的な対応と考えています。
事例3 押印対応
次の事例は押印対応です。 希望通りの押印対応ができるよう、対応日を限定しつつも、社内での周知や協力をいただきながら対応していきました。押印については経営陣から「押印をなくすことはできないのか」とのコメントをいただいます。ただ、やはり紙媒体がなくならないと、押印は完全にはなくなりません。世間での押印に対する動向や、外部との調整が必要となっていきます。
現在は押印の代替策として、電子契約・印鑑の施策を進めています。
手始めに、関係者間の調整が比較的容易な、さくらのグループ会社間での契約についての電子処理を7月より開始しました。
事例4 コミュニケーションツール
次の事例はコミュニケーションツールについてです。
まずは、オンライン会議について。こちらについては、コロナ禍前にZoomをすでに導入しており、移行も進めやすかったです。社内会議だけでなく、お客様や外部取引先様ともほぼこちらを通じて打ち合わせを実施しています。
また、名刺交換の代わりとなる、自己紹介用のバーチャル背景も準備。Zoomを使用したことにより、意外な成果が出ています。当社では会議室不足が叫ばれていましたが、その不足が解消されました。
事例5 電話対応
次の事例は電話対応についてです。代表電話を停止したので、社内用携帯電話への入電の促進をしました。今後については、代表電話の対応自体を外部に委託することを検討しています。
こちらについては、これまで社内で対応していたのと同等の対応が可能かなど、業者との調整が必要です。
事例6 ファシリティ
最後の事例はファシリティについてです。まずは受付対応。出社制限されたころは、受付の解放時間を短縮していました。7月に入り、受付照明の自動消灯化を進めることで、受付を開けるために出社する必要がなくなりました。
続いてオフィスの活用方法です。現在、リモートワーク前提とする中で、出社人数がごく少数となっています。
そこで、オフィスの有効活用をするために、フロア活用方法の意見交換を実施しました。その結果、7月の末に東京支社のフロア数を削減することを発表したのです。
削減後の活用方法は、引き続き経営陣だけではなく社員からの意見も聞きつつ進めていく予定です。現時点で考えられる活用方法は、業務実施するためだけのものではなく、コミュニケーションを円滑にすすめたり、集まることでしかできないことをするためのスペースなどの活用方法を模索しています。
これからの総務業務 まとめ
コロナ禍の状況下で目指したのは、出社しなくても解決できる状態でした。しかし、その状態を目指すために、社内外での調整が必要でした。
具体的には、
・ペーパレス化など郵便・押印・電子契約を進めるには社内だけでなくサービスを新たに利用するために社外と運用等さまざまな調整
・電話対応などを社外の業者様に依頼する際、これまでと同品質での対応をするための調整
コロナの経験を経て、会社を新しい働き方による変化へ対応できる状態にしなければなりません。
そのため、円滑にコミュニケーションをとることで心理的安全性を担保することが必要です。なので、これまでとは異なる形でのオフィスの在り方が何なのかを模索していく必要があります。
まだまだこのような状態は続く可能性が高いですが、今日お話ししたことがこれからのみなさんのお仕事に少しでもお役にたてればうれしく思います。
さくらインターネット人事の新型コロナ対応
さくらインターネットの川村です。ここからは人事の立場で新型コロナ対応について振り返っていきたいと思います。まず、はじめに当社人事の基本方針をお伝えします。
「社員が安心して勤務できるように」
基本方針をもとに取り組んだことは、「費用面の補助」「心情に寄り添う施策」です。 この2つの軸でコロナ対応をおこなってまいりました。Phase1については特段取り組みはなかったので、Phase2からお話します。
原則在宅勤務
Phase2から人事としての対応が始まりました。
3月2日に全国公立学校が休校となり、全社原則在宅勤務に移行しました。お子さんが一人、家で留守番をするのは親にとって心配だと思います。その親である社員の心理的負荷を避けたいと考え、「全社原則在宅勤務」となりました。この時は、自身の選択で出社を選択することも可能でした。
原則在宅勤務をするにあたり、家で働く準備ができていないという意見がでました。そこで3月25日、全社員に「臨時通信手当」(3,500円)を支給しました。
さくらインターネットはITの会社ですが、自宅に固定のインターネット回線をひいていない社員もいます。そうした社員もインターネット環境を整えるための補助となります。
これは、金額以上に会社からの「リモート前提の働き方」のメッセージになりました。
新卒社員入社式
人事の立場でいうと、4月1日の新卒社員入社式が大きなイベントとなります。三密を避けるために新卒社員と社長、人事の一部社員のみが出社しておこないました。
これには、社員もオンラインで参加できるというメリットがありました。当日は100名を超える社員が入社式にオンライン参加し、新卒社員を迎え入れたのです。また、この入社式の場で新卒社員にパソコンを配布。新入社員研修および、新入社員歓迎会はリモートで実施しました。
緊急出勤手当の支給
Phase3、緊急事態宣言中の4月8日-5月25日までは出社禁止となりました。 ただし、データセンターでの業務などで、やむを得ず出社しなくてはならない社員もおります。そうした社員への感謝として「緊急出勤手当」(5,000円/1日)を支給しました。
リモート勤務ができる職種とできない職種の差を、多少埋めることはできたと思いますが、お金での解決は消極的なものといえます。
4月25日、全社員に「臨時特別手当」(10,000円)を支給。これは在宅勤務に必要な物品購入の補助を目的としています。この手当をきっかけに「リモート前提」を受け入れ、自宅設備を整えた社員が増えました。
4月17日から現在も継続してパルスサーベイ(意識調査)を実施しています。これは、社員の心身の状態確認のために毎週、5問だけの小さなアンケートです。
リモート前提の働き方
Phase4~5に入り、原則在宅・リモート前提の働き方が進められています。4月25日から現在も継続して全社員に「通信手当」(月額3,000円)を支給しています。これは、「全社原則リモート勤務」による、自宅インターネット費用の補助としてです。
今後はリモート前提の働き方へ向けて、規程の変更を検討しています。例えば、「通勤手当」の概念がどうなるか、「事業所」の記載をどうするかというものです。
人事のコロナ対応 まとめ
コロナ禍において重要なのは、「不安をなるべく払拭しながら、事業を継続する」ことです。未曽有の状況下でも勤務してくれる社員に感謝をし、会社ができる範囲で感謝の意を示したいと思っています。
人事総務メンバー向けイベント Back office Link まとめ
新型コロナウイルス感染症によって、多くの会社が在宅勤務に切り替わりました。多くの人が不安を抱えた状況で仕事をしていたと思います。
これまでに誰も経験をしたことがない、この状況。その状況でも社員が安心して働ける環境づくりをするために人事部・総務部など、バックオフィス部門の方々が尽力してくれています。 そんなバックオフィス部門の方々にあらためて感謝をしたくなるイベントでした。