ワークシェアリング(work sharing)とは、2019年に日本で実施された働き方改革の中にも盛り込まれている考え方です。「ワーキングシェア」と表現されることもあります。
日本でもワークシェアリングをおこなうことは、私たち労働者の雇用を守り、ワークライフバランスやクオリティオブライフを実現するためにも重要です。ワークシェアリングにはどのような実施方法があるのか、参考となるオランダの事例やメリット・デメリット、実際にワークシェアリングの導入を進めるために必要な3つのポイントを紹介します。
ワークシェアリングはヨーロッパで始まった
ワークシェアリングとは、もともとは1970~1980年代に労働者の雇用機会の創出を目的として不況下のヨーロッパで始まった施策のことです。
現在は一般的に、従業員同士で雇用を分け合う意味で使われています。日本においてワークシェアリングが注目を集めるようになったのは、少子高齢化対策や女性の社会進出を進めることを後押しできるという面もあったからです。
日本では労働者を雇用したいけれど、人手不足で雇用できないという背景があります。 労働者を雇用するための対策として高齢者や女性が働きやすい雇用環境を整える企業が増えています。ワークシェアリングの導入によって企業も労働力を増やせるのです。
2019年4月1日から順次施行されている働き方改革においても、短時間労働やリモートワークの導入など、多様な働き方を推進するための政策が盛り込まれています。
ワークライフバランスやクオリティオブライフにも関係している
ワークシェアリングを考えることは、日々働いている私たち労働者にとっては仕事とプライベートの生活の関係を見直すうえで重要となります。 「ワークライフバランス」や「クオリティオブライフ」というキーワードがよく聞かれるようになりましたが、これらを実現するためにもワークシェアリングは欠かせないからです。
プライベートの時間を確保できないほど労働時間が長ければ、家庭での生活と仕事の両立などはなかなか望めません。
ワークシェアリングの4類型
厚生労働省は雇用機会、労働時間、賃金の観点からワークシェアリングを4つのタイプに分類しています。いずれのタイプにおいても、一定の雇用量、労働量をより多くの労働者で分かち合うことは共通しています。
雇用維持型(緊急避難型)
雇用維持型(緊急避難型)は、経営悪化や業績不振などによって仕事の量が減ってしまい、人員が余ってしまうときにおこなわれるワークシェアリング。従業員をリストラしないために、1人あたりの労働時間を削減するのが一般的です。
ただし、それによって給与を減らさなければならないことが多いため、従業員と経営者の合意が大切になります。
雇用維持型(中高年対策型)
雇用維持型(中高年対策型)は、従業員1人あたりの労働時間を減らすことによって、定年を迎えた中高年層の従業員の雇用を維持するワークシェアリング。たとえば、60~65歳でいったん定年退職という形にして退職金を精算し、その後、パートタイム労働者や嘱託として再雇用するなどがおこなわれます。
日本は高齢社会なので、高齢の労働者を雇用することは人手不足解消のためにも重要です。
雇用創出型
雇用創出型は失業者に雇用機会を増やすために、従業員1人あたりの労働時間を減らすワークシェアリング。何らかの理由によってフルタイムで働けない正社員に対して仕事をサポートする人を付けてチームとして仕事をする「ジョブ・シェアリング」という制度を実施している企業もあります。
多様就業対応型
多様就業対応型は、従業員に短時間労働など多様な働き方を認めることでワークシェアリングを実現します。家族の介護や、妊娠や出産、子育てを理由に会社を辞めてしまう人は少なくありません。
こうしたフルタイムでは働くことのできない人の分、労働をシェアすることによって、新たな雇用などを生むことができます。日本では女性の社会進出が推奨され始めているので、ワークシェアリングは解決策のひとつだといえます。
ワークシェアリングが成功したオランダの事例
日本よりも早くワークシェアリングの導入を進めている国がオランダです。 1980年代に大不況となったオランダでは1982年に「ワッセナー合意」が政労使間で締結され、ワークシェアリングが推進されました。
これにより、政府は減税と社会保障負担の削減を実行し、労働者は収入をそれほど減らすことなく労働時間は短縮され、企業は人件費の抑制を実現できました。まさにオランダは理想的なワークシェアリングのモデルといえます。
さらにオランダでは1996年に正規社員と非正規社員(パートタイム労働者など)の格差を埋める「同一労働同一賃金」、2000年には労働者が自身の勤務時間の短縮や延長を決められる「労働時間調整法」が制定されました。
このようにオランダでは労働者のことを考えていることがわかります。日本もオランダのように思い切った施策が必要かもしれません。
良いことだらけに感じますが、当然デメリットもあります。続いてワークシェアリングのメリットとデメリットを考えたいと思います。
ワークシェアリングのメリット・デメリット
ワークシェアリングを推進することでメリットもありますが、デメリットもあります。いくつかメリットとデメリットを紹介します。
生産性向上・プライベートの充実などのメリット
ワークシェアリングを導入するメリットとしては、生産性向上が挙げられます。労働時間短縮により集中力やモチベーションが向上することで生産性が高まるというものです。
仮にワークシェアリングを導入しても人件費が変わらないなら、生産性が高まった分がそのまま利益になるため、企業としてもメリットは大きいといえます。
また、労働者側のメリットとしては、残業が減り労働時間が短くなることによって、家族と過ごす時間や趣味などやりたいことができる時間が増えます。これはワークライフバランスやクオリティオブライフの向上にもつながるはずです。
企業に助成金が支給されるメリット
ワークシェアリングを推進すると、企業に助成金が支給される場合があるようです。例えば、景気の変動によって事業の縮小が必要となった際、労使間の協定にもとづいて従業員の休業などをおこなった企業に対して雇用調整助成金が支給されます。助成金の支給条件や支給額については厚生労働省のホームページをご確認ください。
賃金低下などのデメリットもある
ワークシェアリングを導入するデメリットとしては、雇用人数が増えることによって、賃金や保障のコストが増える場合があることです。また、業務をシェアすることによって、逆に生産性が落ちてしまう場合もあります。
労働者側のデメリットは、収入が減って生活レベルを下げる必要が生まれる恐れがあるということです。人によっては育児などは家族に任せ、家のローンの返済や今後の子どもの学資を貯蓄しておきたいという人もいるかもしれません。
ワークシェアリングを導入するにしても、労働者側にある程度選択の自由があるのが理想的です。そう考えると先ほど紹介したオランダの「労働時間調整法」は良い施策だといえます。
IT企業が導入しやすいワークシェアリング
ワークシェアリングを効果的に実現するには、多様な働き方を実現することが重要です。そのための方法のひとつとして、導入が進んでいるのがリモートワークです。
特にこのような分野を得意としているIT企業では、従業員が各種ツールを使うスキルが高いこともあって、導入しやすい面があります。リモートワークを効果的に使えば、地方の企業でも遠隔地に住む優秀なITエンジニアを正社員雇用することが可能になります。最近は業務で必要なコミュニケーションはSlackで十分ですし、会議はZoomを利用してオンラインでおこなえます。
また、育児中に女性社員が自宅で短時間労働するなど、多様な働き方をサポートすることも可能です。従来では企業の業務に参加できなかった労働力を、IT技術によって結びつけられるワークシェアリングはとても効果的です。
こうした取り組みによって生産性を向上させ、従業員の働きやすい環境が整えられます。
ワークシェアリングを導入するために必要な3つのこと
ワークシェアリングを導入するにはいくつか準備が必要です。特に必要と思われることを3つご紹介します。
1.業務の流れや内容をみんなが理解できるように業務マニュアルを作成する
まずは業務内容について誰でもわかるようにする必要があります。業務マニュアルなどを作成し、業務を属人化しない仕組み作りが必要です。
2.ワークシェアリングが可能な業務を探してまとめる
中にはワークシェアリングできない業務というものもあると思います。まずはワークシェアリング可能な業務を探してリスト化することが大事です。
3.業務の進捗状況などの情報共有をおこなうための体制づくり
ワークシェアリングをおこなうと業務に関わる人が増えます。その分、進捗状況を把握しづらくなるので情報共有をしっかりおこなえる体制や仕組み作りが必要です。
ワークシェアリングを取り入れてみよう
ワークシェアリングは労働力不足に悩む企業にとってだけでなく、ワークライフバランスやクオリティオブライフを重視する従業員にとってもメリットのある考え方です。会社の実状に即したワークシェアリングの導入によって、企業の生産力向上が期待できますし、従業員もプライベートと仕事の両立をしやすくなります。
仕事が好きで、もっと仕事をしたいという方もいるとは思います。そういった方には本業とは別に「もうひとつのキャリア」を構築するパラレルキャリアという選択肢もあります。
これからの日本では今まで以上に働き方が変化していくと思います。リモートワークの導入やパラレルキャリアの推進などを企業に提言し、ワークシェアリングを取り入れていきましょう。
ワークシェアリング まとめ
- ワークシェアリングは労働者の雇用を守りワークライフバランスやクオリティオブライフを実現するためにも重要
- 日本でワークシェアリングが注目を集めるようになったのは、少子高齢化対策や女性の社会進出を後押しする面もある
- ワークシェアリングには次の4類型がある。1.雇用維持型(緊急避難型) 2.雇用維持型(中高年対策型) 3.雇用創出型 4.多様就業対応型
- ワークシェアリングが成功している例としてオランダがある
- ワークシェアリングのメリットは1.生産性向上・プライベートの充実 2.企業に助成金が支給される デメリットは賃金低下の可能性
- ワークシェアリングにより、パラレルキャリアという選択肢もある