データドリブン文化の担い手を「育てる」挑戦〜コミュニティによる DATA Saber 認定制度

 みなさま、こんにちは! TableauのKTです。前回から引き続いて読んでくださっている方、感謝感激雨霰です!今回から読んでいただけている方、初めまして! Tableau (たぶろー) の KT (けーてぃー)と呼んでください。

 

前回では人と人とが集まるCommunityが文化を作り、データドリブンを進めていくお話をしました。

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今日はその文化を自然発生的ではなく、働きかけて進めた時のお話をします。文化の醸成を意図的に進める話です。何か新しい技術や考えをこれから伝播していきたいと思っている人に役立つ内容となっているのではないかと思います。

 

データドリブン文化を進める

 さて、人が作る文化ですから、人がいないことには始まりません。しかし文化づくりをする際、突然ある集団に所属している全員の考えが変わって文化が変革する、ということが起こるでしょうか。きっとそうではないでしょう。

 

変化というものは、起こるとすれば段階を経てそうなっていくものです。では文化が文化になる前、変容するきっかけを作るものはなんでしょうか。それもまた人です。

その中に所属している人の一人、あるいは複数人かが旗振り役となり、次第に周囲の人に伝播していき、それが所属している集団の当たり前となったとき、それはその人たちの文化になったと言えます。

 

さて、私たちが目指しているデータドリブン文化というものも、未だすべての人がそうだと確信している世の中一般的な文化ではありません。そこで私たちにはこの文化づくりのきっかけを作る旗振り役が必要です。

この旗振り役とは、ふたつの力を持っている人です。

A. 自身の変革がもたらす新しい技術とその成果を熟知している

B. 現状に課題があり、周囲の人とともに変革すべきであると信じている

これらの力を持っている人は自発的に、あるいは何らかのきっかけを得て、周囲の人を連れて文化の変革を目指すようになります。Tableauでは、このような人々のことを敬意を込めて「チャンピオン」と呼んでいます。

Tableauは単なる見える化・可視化ツールでもなく、さらに言うとデータビジュアライゼーション(視覚化)ツールでもない。私たちは「ツール」を超え人のクリエイティビティを解放するきっかけになりたいと思っています。

そのためには単に製品の使い方を熟知しているだけでは足りず、それを使ってどんな世界を作ることができるか、そこで生きる人々の生活がどう良くなっていくのかについて伝えてくれる人が必要なのです。

Tableauでキーマンになるチャンピオンと

 さて、このチャンピオンが私たちにとってのキーマンになるわけですが、このチャンピオンに出会うのはなかなか至難の技です。自発的な学習で網羅的に体得し、さらに人に広めてくれているわけですから、相当センスの良い人であることは間違いないし、まずその方にTableauを選んでもらえるかどうかについてもタイミングや環境などの運次第の面があります。

 

かつて私たちには圧倒的に旗振り役が不足していました。 しかし今、私たちには旗振り役を買って出てくれる心強いたくさんの仲間たちがいて、データドリブン文化醸成に邁進してくれています。

では一体どのようにして、そのような人々と出会ったのでしょうか。

文化醸成者を「見つける」から「育てる」へ

 2015年、私がTableauに入社した時、新しい試みとして既存のお客様に向けてフリーの上級Tipsハンズオンというのを始めました。当時から今も実施しているエントリー向けの体験会というイベントがあるのですが、もうワンステップ上に行きたいという方に向けた何かも必要であると思ったからです。これはまさに旗振り役のAの要素を鍛えるトレーニングです。

 

当時の私は信じていました。上級Tipsの断片を見せたら、あとはそれを聞いた人が自然と体系立てて、なおかつこれを広めたいと思ってくれるだろうと。 ところがどっこい、思惑は外れました。Tipsだけ見せても、使えるようになる人はごく一部、さらにこれをきっかけに体系的な学習ができる人は特段現れなかったのです。

 

その反省を踏まえて、私含め何名かの意欲ある有志のメンバーがもう少し簡単な中級レベルのコンテンツを作成したり、導入編のハンズオンから有償トレーニングや資格取得などいくつかのコンテンツを順番に並べて構成を組み、これを一通り学習すれば体系立てて理解できるのではないか、という枠組みを作成したりしました。このように順番に受けていけば当然理解が進むものと思いました。

 

しかし2016年の終わりに、私たちはこれをも見直さなければならないという結論に至ります。コンテンツは増えて充実してきていました。一つひとつの内容の評価は高く、有意義なものに仕上がっていました。

 

けれども、そこから育ったチャンピオンの姿が一向に見えることはなかったのです。

 

なぜでしょうか。理由はシンプルでした。いくら順番立てて紹介したところでお客様がその順番通りに全部抜け漏れなく受けてくれるわけはない。なおかつ一つの会社に多数の人が所属している中、誰がどのコンテンツを受けていて結果的にそれぞれの会社でどう文化醸成に貢献したのかを追うことも難しい状況でした。

 

コンテンツが増えただけ、成果が見えなければ疲弊感が漂います。このまま続けていいのか? 答えは否です。

 

部門横断で結成された特設チームで文化醸成ができるチャンピオンを育てるプログラムを作成することになりました。チャンピオンとは一体どんな人物かについて議論し、チャンピオンはチャンピオンでも、大まかに分けて2種類のタイプがいるのではないか。私たちはそう結論づけました。

A. 自身の変革がもたらす新しい技術とその成果を熟知している=卓越した技術力を持っている

B. 現状に課題があり、周囲の人とともに変革すべきであると信じている=パッション、リーダーシップ、実行力があり、コミュニティを作る力を持っている

チャンピオンAは技術力が高いので、Aがいる組織はTableauを使うときに行き詰まることがありません。その人に聞いたら全てが解決していきます。しかし、その人が質問回答や技術支援以上のことをしなければ文化醸成が進むことはありません。

チャンピオンBは伝える力が強いので、Bがいる組織は文化醸成の夢を見て、実現のために邁進していきます。しかし運悪く技術力が追いつかずに夢の実現を妨げるときや、本当はできることを知らないが故にアイディアの枯渇にぶつかるとき、文化醸成の夢は破れ去ってしまいます。

 

どちらも重要なので片方だけではダメで、要素ABを双方兼ね備えた、最強チャンピオンABが必要です。しかしAまたはBを見つけるのも大変なのに、両方を兼ね備えた人物というのは天然記念物レベルです。AとBがタッグを組んでもらうのはいいアイディアですが、同じ組織の近しいポジションにAとBが両方存在している、というとそれもまた稀です。

 

そこで私たちはそれまで一人が両方を兼ね備えたチャンピオンABを「探して」いたわけですが、「育てる」ことに切り替える決意をしました。

その当時、私たちはBの要素(情熱など)に特化して育てることは難しく、働きかけができるとすればAを伸ばすことだと考えていました。したがって元々Bの素養を持つ方々を選抜して、徹底的にAを伸ばす特訓コースを開講する決定を下しました。

師の導きにより技術力を鍛えるTabeau Jedi Boot Campの開講

Aを伸ばすコースは一体どのようなプログラムにすれば良いでしょうか。

ここで、自分自身がどうやって勉強してきたのか、今どんな知識を持っていて、どれが最も体系的な理解をするのに重要なのかについて改めて考え直しました。

 

その中で私は体系立てたトレーニングを度々受けていたことや、マスターと呼べる素晴らしい師によって理解を深める手伝いをさせてもらっていたことに気づきます。

エンジニアの人にありがちな自分発信で検索ベースで学習する方法は効率が良いこともありますが、自分が言葉にできるものしか調べられないというデメリットもあります。

自身が聞いたこともない考えを知り、自分の知識のバリエーションを広げていくためには人からの教えを聞く、ということが非常に重要です。

 

ただ、私の経験してきた学習は長い道のりでした。2013年に初めてTableauに出会い、おおよそその深淵や目指す世界に気づくまでに少なくとも3年はかかっています。

寄り道や経験を積みながらの知識の体得に満足感はありますが、すでに自分が持っている知識と同等のものを授けるのに同じ時間を割いて欲しくない、というのが私の考えです。

 

時間がかかった理由の一つは学習の順序です。具体的にはこれもっと早く知っていたらよかったなあとか、機能として紹介されていたけど意味や思想について言語化して説明して欲しかったなあというポイントがありましたので、それを自分が思う最適な順番で再構成・言語化していきました。

 

具体的にどんなコンテンツを作り上げたかはまた別の機会に紹介するとして「俺の考える最強のTableauマスタープログラム」の素案ができました。ただしこのプログラムは、順序が重要なので、順番通りかつすべて漏れなく受講しないと効果を発揮しません。

 

こうして、3ヶ月間、遅刻欠席厳禁、宿題大量という鬼のようなプログラムの参加をお客様にコミットさせる、という世にも奇妙なプログラム「Tableau Jedi Boot Camp」が開講したのでした。

Tableau Jedi Boot Camp

2017年1月に開講したこのプログラムは、10名の参加者とともにスタートしました。コンテンツの構成・素案はできていたものの、詳細の内容は作りながら走るところも多く、最初の参加者には一緒にプログラムを作ってくださいとお願いしてやらせてもらっていました。

 

今考えればこれだけの時間を投資するのにすごいことだと思います。まさに一緒に文化醸成をしていきたい、という情熱を持ったチャンピオンBの皆さんです。

 

1期生の努力のおかげで、2017年3月に無事最初の卒業生が誕生しました。そしてそのとき、驚くべきことが起こりました。このプログラムに参加したときに初めてTableauを触ったという卒業生が、3ヶ月で自己学習のみならず全社導入とユーザートレーニングまでやり切ったのです。

 

この成果にはさすがの私も開いた口が塞がりませんでした。もちろん、3年を3ヶ月にするプログラムとして作ったものですが、ここまで成果が出るものだとは思っていなかったのです。

 

そしてもう一つ、思わぬ成果がありました。それが受講生同士の強い繋がり、ネットワークです。3ヶ月の間、困難な試練を共に乗り越え、何度もディスカッションをしてきたメンバー同士の繋がりは非常に強いものになっていました。

 

終わった後のアンケートには、みんな口を揃えて参加者同士のつながりがかけがえのないものになったと書いてありました。 Boot Campが始まった頃の写真と終わった時の写真でみんなの表情が明らかに違います。ぎこちなさが抜け、歴戦の戦友のような結束感があります。

 

Boot Camp初日に無理やり円陣を組まされて戸惑う生徒たち

(Boot Camp初日に無理やり円陣を組まされて戸惑う生徒たちですが・・・)

 

卒業するとこの通り

(卒業するとこの通り)

 

知識を会得した者同士がお互いに考えを共有するようになると、新しいアイディアが出てきますし、お互いに切磋琢磨してもっとがんばらなければならないという雰囲気になっていきました。Aを育てるためのプログラムでしたが、チームビルディングの要素を入れていくことによりBも自然と成長していたのです。

 

そしてプログラムを始めて1年経った頃にはまたすごいことが起こりました。 二期卒業生の一人が世界的に優れた活動をしている人としてZen Masterに選ばれたのです。

このZen Masterという人は世界的に活躍しているデータドリブン文化醸成者で、日本から選ばれることはまだないのではないかと思っていた矢先の出来事でした。 組織内の展開と同時に、パブリックでも頭角を表す卒業生が誕生していきました。

永遠に続くものはない〜終わりと再生の日

驚くべき滑り出しで開始したこのプログラムは、その後も順調に回を重ね、3ヶ月のサイクルを進めていきます。

しかし、ひとつ問題がありました。3ヶ月で約10人が育つプログラムです。すべての人がデータドリブンになるためのチャンピオンを育てるのに、私の一生分の時間をかけても全然足りないでしょう。

 

一年くらいやってみたところで、このペースで永久にやり続けるのか? ということが頭をよぎります。

その時、ある方からすごく良いプログラムだから100人くらい育ててみたら良いよ。と言われました。当時概ね30人の卒業生がいた私に、30人だと少なすぎてインパクトがない、100人くらいいたらムーブメントが起こせる、とのことでした。

 

その時の私は100名育った後に何をしようかというアイディアはまだありませんでしたが、100人を育てるには概ね3年かかるわけで、その後のことはやりながら考えつつ頑張ってみようと決意しました。

 

その後も順調にプログラムが進み卒業生を輩出する中で、気になるところがありました。卒業生たちの活躍は素晴らしいものでしたが、どうも話を聞くと、組織内で仲間を作ることに苦労しているようです。

そしてもう一つは、卒業後は自分が弟子を認定して連れてきてほしいと伝えてきましたが、誰一人としてこの子が私の弟子です、と紹介してくれる人がいなかったのです。

 

このプログラムは受講できる人数が少ないので基本的に1社1名制を取っていました。だから社内で仲間を作りたいときには自分で育てなければならない。

しかしいざ育てるとなると、どういう基準で卒業させて良いかが難しかったのだろうと思います。そこで私は心の中にあった基準をオープンにし、誰でも使えるようにすることを決意しました。

どのような要素が卒業するにあたり必要かどうかは卒業生たちとも議論し、決めていきました。

 

卒業生たちとキャンプ場で認定基準についてディスカッション

(卒業生たちとキャンプ場で認定基準についてディスカッションしました)

 

誰もが使える認定制度の案を作りながら、私自身も最後の卒業生を送り出す準備をしていました。2018年春頃からはこの卒業生たちの活躍が公開事例などで出てくるようになり、ユーザー会のリーダーを務める卒業生も増え、その成果がTableau Communityの中でまことしやかにささやかれるようになりました。

 

いわく、うちの会社にはJediがいるぞ、とのことです。この頃になると受けてくれませんかとお願いするより自発的に受講したいという想いを持った人も増え、受講候補者を見つけるのは容易になっていきました。

類は友を呼ぶとはよく言ったもので、育てたチャンピオンABが集まった結果、その周囲に似たような想いや興味を持った人がさらに集まるものです。

 

2019年2月、最後のBoot Campが始まりました。最後の機会なので何があろうと受けたいと志願した人は誰でも受け入れることにしました。

その結果、いつもの3倍のメンバーが集まることとなり、5月には私の元を29名の卒業生が旅立ちました。こうして私が2年と5ヶ月間で計105名を輩出したTableau Jedi Boot Campは幕を閉じたのでした。

 

私の元を旅立った卒業生たちの主な実績を一部紹介しますが、華々しいものがあります。

世界で活躍するコミュニティリーダー Tableau Zen MastersTableau Ambassadors に5名が選出

25名を超える方々が自発的にTableauユーザー会を運営

Data Day Out 2019 Tokyo(日本最大のTableauオフィシャルイベント)に13名が登壇(全顧客事例の3割強)

Tableau Experience 2019 大阪(関西最大のTableauオフィシャルイベント)に3名が登壇(全ての顧客事例を担当)

 

みんなのものにする〜 DATA Saber認定制度

みんなのものにする〜 DATA Saber認定制度

終わってみると始まりでしかないことに気づくことはよくあります。私自身のBoot Campの終わりはまさに始まりの日で、卒業生の力を借りながら、すぐに認定制度のリリース準備に着手しました。

 

卒業生たちが師として導く方法は様々なので、それぞれの師匠のカラーがなるべく出せるよう、どのように学習させるかは各師匠に任せたいと考えていました。そこで最低限必要なものを「認定基準」として公開し、その基準を満たすためにあとはそれぞれが思い思いに育成する制度としてリリースしました。

 

制度化に際し、この世界のどこにもないプログラムに相応しく、唯一無二の新しい名前をつけることにしました。

 

そうして生まれたのが「DATA Saber認定制度」です。

 

2019年9月末にリリースされたこの制度ですが、その後約70名の方が20名を超える師匠によって育成され、コンスタントに40名以上の方がチャレンジしているコミュニティに成長しています。

一人でやっていた頃は2年と5ヶ月で105名でしたが、認定制度化することで6ヶ月で70名。1月あたり3.6名育っていたのが11.6名へ。すごいスピードです。

そして教わった人が感謝を込めて次の世代を育てる、大変良いサイクルになっています。

 

認定制度に挑戦するメンバーに向けて事例を発表する先輩DATA Saber

(認定制度に挑戦するメンバーに向けて事例を発表する先輩DATA Saber)

 

これは何を意味しているでしょうか。文化を作るには多くの人にその文化の本質を伝播し、醸成を助けねばなりません。したがって旗振り役が多く必要です。かつて、私たちはその旗振り役が見つからずに悩んでいました。

しかし今や自然と旗振り役候補が集まり、そのコミュニティに所属する人々が自助的にデータドリブン文化を広める人々の成長を助け、その規模は加速度的に大きくなっています。

 

これは私の体験に基づく話でしたが、一つ言えることは文化醸成を進めるには以下2点をおさえた人の育成が不可欠であるということです。

 

A. 自身の変革がもたらす新しい技術とその成果を熟知している

B. 現状に課題があり、周囲の人とともに変革すべきであると信じている

 

これを兼ね備えた人を育てることで、文化を伝播し、より良い世界を目指す前向きなコミュニティを生み出すことができます。その文化は、私にとってはデータドリブン文化でしたが、どんな文化にも応用できるはずです。

 

私たち人間は常に道具を作る技術を使い、その文明が完全に体に馴染んだ時こそ、文化となって進歩してきた存在です。

新しい技術革新を信じ、広めたいと思っている人はぜひ、情熱を持ってそれを伝え、周囲の人を巻き込み文化醸成に挑戦してみてください。

個々人がそれぞれ自分の信じるものを情熱を持って伝え合う世界は、きっと良い世界であると信じて。

 

まとめ

 

KTさんが書いた過去の記事はこちら

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