最初にあいさつを
はじめまして。僕はフミコフミオ、46才、食品会社で働きながらブログを書き続けている、そこらにいる普通の会社員オッサンだ。今は営業部の責任者を任され、そこそこ忙しい毎日を送っている、平凡な「部長」さんでもある。
僕は、大学を出て以来(一時的なアルバイト期間をのぞいて)、営業マンとして働いてきた。会社で働くなかで蓄積した怨念をストレス発散のつもりで文章にしてインターネットにぶちまけていたら、多くの人たちから読まれるようになった。
ただのオッサンの愚痴を読みにくるなんて、控えめにいって世の中がおかしい証拠ではないだろうか、と心配になる。
それはさておき、僕はただの会社員である。だからこそ言えることがある。約25年の会社員生活で、たくさんの、さまざまな失敗をしてきた。多くの失敗の目撃者になった。僕はそのすべてを普通の会社員目線で見てきた。
この連載では、その経験を活かして、働くことが少し楽になるような考え方やテクニックをご紹介していきたい。計画的に利用して、うまくいったときだけ、教えていただければ嬉しい。
春は変われるチャンスだが…。
さて、季節は春、令和初の4月である。皆さんはどうお過ごしでしょうか。僕みたいに「1年早いな~」と感じ始めたら、頭の回転が遅くなっている証拠なので、体調面に注意しよう。ご存知のとおり、春は仕切り直しの季節である。進学、進級、就職、異動、昇格、左遷、組織変更など、環境の変わるイベントが集中しているからだ。
「環境の変化に乗じて自分を変えよう。昨日までの私にさよならしよう」と考える人もいるだろう。おおいにこの波に乗ってもらいたい。
若い頃の僕のような、さえない毎日を送っている会社員諸兄には、「今日から俺は!」と心機一転、昨日までの自分を葬り去ってほしい。人は、いつ、いかなるときでも、変わることは出来る。だが、春が変わるのに最適な季節であることもまた、事実なのだ。
ただし、春は、誰もが心機一転して頑張り始める季節であることも、頭の片隅に置いておいてもらいたい。みなさんが心機一転しているとき、周りも心機一転しているのだ。大切なことは周りが成功していても、気にしないこと。
「自分のペースを守る」は会社員生活のみならず生きていくうえでもっとも大事なことのひとつだと、46歳の今でも僕は思い知らされている。ミスや失敗の多くはペースを乱したときに起きているのだ。
全力で変わろうとするな。
心機一転。アフターファイブにビジネスセミナーや英会話教室に通ってスキルアップに励む。新鮮な、新人のような熱い気持ちで仕事に取り掛かる。ロールプレイングゲームの序盤のように力がモリモリついているような気分になる。
全力で取り組んでいるので、やった感で満たされる。ところが、ある時点で詰まってしまう。興奮がおさまると、やった感はただの疲労感と気付いてしまう。全力で毎日を生きているのに、残ったのはこれまでとほぼ同じ結果と、ブロンド英会話教師との淡い時間のみ。
そして「こんなはずじゃない。やはり俺は変われない側の人間なのだ」と絶望し、鳥貴族でビールをがぶがぶ飲んで今年も春が終わる…。
理由は簡単。全速力で走っているとき、道端でひっそり咲いている小さな花に気づくだろうか。気づかない。スプリンターの走り方でマラソンを走り切れるだろうか。走り切れない。仕事も同じ。
力を入れて取り組めば、こなせる仕事が多少増えても、雑になる。決定的な瑕疵を見落として、気づかないこともある。力が入っているのでガス欠になるのも早い。その結果が、上旬からの叱責、ストレス発散の鳥貴族。そして、気が付くと来年の春…。これは全力の弊害である。
厳しい言い方をすると、全力で取り組めば「ナイスファイト!」と誉められるのは学生時代で終わっている。仕事では、結果の伴わない全力ファイトは評価されない。バカみたい、と嘲笑されるのがオチである。まじめに取り組んでバカ扱い。つらすぎる。全力は気持ちだけにとどめておこう。
3割サボるという働き方
長年の会社員生活で、その人の手帳を見るだけで、仕事ぶりがある程度は分かるようになってきた。たとえば1週間の予定を例にあげると、予定がスカスカな人は「ボンクラ」、毎日午前午後なんらかの予定で埋めている人は「並」、1週間朝から晩まで予定をみっちり埋めている人は「中の上」。
僕の経験からいうと、仕事が出来る人は、意図を持って予定を空けて時間をつくるようにしている。不測の事態や突然のコンタクトに対応できる余裕を持つようにしている。
では、余裕をもつことと、この季節特有の「心機一転して全力で取り組みたい熱い気持ち」は両立できないのか。出来る。だいたい3割ほどサボるのを目標にするとうまくいくようだ。「3割サボろう」は「7割の力加減で取り組む」ではない。正確な7割の力加減など、人間には無理だ。
ビジネスにかぎらないが、目標やノルマの達成率が7割というのも論外である。見た目にも、3割力を抜き、集中力を欠いた表情を浮かべて、スローダウンして仕事に取り組んでいれば、周りから馬鹿扱いされ、評価は7割以上暴落するはずだ。
仕事に取り組む時間と、そうでない時間を作る。行動にメリハリをつける。個人によって違いはあるが、僕の場合は、3割のサボる時間をつくるために、7割の時間を一生懸命働く時間にあてるといい結果が出ている。
力加減という感覚や仕事の量ではなく、仕事を消化する時間をとらえるようにする。仕事の目標と同じように、自分の働き方を数値でとらえていく。
意図的にサボる時間をつくる
意図的にサボる時間をつくるようにする。そのために、手帳は、余白をつくるように使う。あえて空白をつくるように予定を落としこむ。たとえば、月曜~金曜の5日間を午前と午後の2つの時間帯で考えると1週間は10マス。
この10マスのうち3マスを空白にするようにする。空白には絶対に予定を入れない。「3割はサボる」という強い意志を持つ。サボることが大好きな我々ならやれる。
「サボろう!」と言っているが、これまでの週の目標やノルマを、3割の時間を残して達成しなければならないのだから、かなり難しい。7割の時間でこれまでの仕事をこなすためには、従来のやり方を変えなければならない。効率化や集約化など、創意工夫をする必要がでてくる。
こういった創意工夫は時間を限って、必要に追われることで生まれる。だが、サボるためならば頑張れるのではないか。このように創意工夫と努力でつくった3割の余裕を、7割の時間でやってきた仕事のチェックにあてれば仕事のクオリティは間違いなく上がる。
仕事のやり方の質自体があがってくれば、量をこなせるようになる。自分を変えようとするとき、新しいことに手を出したり、これまでやってきたことに力をいれたり、といった「量を増やそう」とするやり方を選びがちだ。だが、そのやり方では量をこなすことに追われて、どん詰まりになってしまう。
「変わろう」と思ったら量ではなく、質を変える。まずは新しいものに手を出す前に、3割サボれる自分をつくるよう、今の仕事のやり方を見直してみよう。一週間で出来ることを増やすのではなく、今1週間でやっていることを7割の時間でこなすことを目標にする。それだけで景色は少し変わるはずだ。
サボりによる余裕3割の使い方
創意工夫をこらしてようやく手にした余裕。どう使うのかは自由である。チェックに使うのも、新たな仕事にとりかかるのもいい。ときどきはサボるのも全然ありだ。
ただ、余裕を持っているのを周りに悟られないようにしてほしい。余裕をつくるための血と汗の苦労を知らない上司に「あ、こいつ余裕あるな。怠けているようだから仕事を増やしてやろう」と勘違いされたら、元も子もない。
3割をどう使うのかは自由だが、ひとつだけ使い方のルールがある。それは「自分のために使う」ということ。会社や上司に使われないように気をつけていただきたい。
ちなみに僕は手帳のわざわざ明けたスペースにダミーの予定を入れて、余裕ないアピールをするようにしていた。さすがに部長になった今はチェックをされる側ではないので、そんなことはしないけれど…。
さて、3割サボるをスローガンに、メリハリのついた働き方と仕事への創意工夫が習慣化されれば、「サボってヨシ」と言われても、サボっていられなくなるはずだ。「もっと」「こうすれば簡単に出来るのではないか」という創意工夫を追究するようになる。
人間は楽をしたがる生き物である。このように「楽をしたい」という人間の性質を仕事に落とし込み、ルーティーンが構築できれば、無理に「変わろう」としなくても「自然に」変われる。僕には到達できそうにないけれども、仕事をするのが楽しくて仕方なくなる境地に達することも出来るかもしれない。
無理をしないことだ。僕は、過酷な環境で働いていたとき、そこで見つけたのは、残業をする、一日の仕事を増やす、といった量で仕事をすることの限界である。当時、僕はいかにしてサボるかを真面目に考えながら仕事をしていた。
真正面から量で勝負した同僚はどこかで壊れたり、落ちぶれたりしていったので、僕のやり方は正しかったと今は思っている。サボりたい気持ちをうまく活用して効率よく働こう。力技で勝負する時代はとっくに終わっているのだ。
執筆
フミコ・フミオ
大学卒業後、営業職として働き続けるサラリーマン。
食品会社の営業部長サンという表の顔とは別に、20世紀末よりネット上に「日記」を公開して以来約20年間ウェブに文章を吐き続けている裏の顔を持つ。
現在は、はてなブログEverything you’ve
ever Dreamedを主戦場に行き恥をさらす
Everything you've ever Dreamed : https://delete-all.hatenablog.com/
2021年12月にKADOKAWAより『神・文章術』を発売。
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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