プロ経営者 松本晃さん 働き方改革より「生き方改革」が必要!

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松本晃(まつもとあきら)さん
京都大学大学院卒業後、伊藤忠商事株式会社入社。1993年ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社に入社し、代表取締役、最高顧問を歴任した。2009年カルビー株式会社代表取締役会長兼CEOに就任し、8期連続増収増益、東証一部上場を果たす。2018年RIZAPグループ株式会社代表取締役COO、現在、ラディクールジャパン株式会社代表取締役会長CEO。

2020年1月30日におこなわれた「BEYOND MILLENNIALS 2020(主催者:Business Insider Japan)」でプロ経営者松本晃氏を招いて一夜限りの松塾が開催されました。その様子をイベントレポートとしてお伝えします。

松本晃さんが語るキャリア

ーー松本さんは20代のころ、自分のキャリアプランをどのように描いていましたか?

僕は勉強もできないのに大学院に行って大恥をかきましたよ。なんとか卒業をして伊藤忠商事に入社しました。同社に入って気がついたことがあります。

課長さんは部長さんに対してペコペコ。部長さんは本部長さんに対してペコペコ。本部長さんは常務さんに対してペコペコ。常務さんは社長さんにペコペコ。それを見てああ、なるほど組織ってこういうものなんだと理解したわけです。

 

そこで、トップにならないと面白くないなと思いました。僕のキャリアと品性で伊藤忠商事の社長になれる可能性は0パーセントだと思い、別に伊藤忠商事でなくてもいいなと考えた。どこかの会社の社長になろうと。30歳まではいろいろなことを勉強しましたよ。30歳から40歳までは徹底的に成果を出そうとしました。

 

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ーー実際に45歳でジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人のトップになりましたが、いかがでしたか?

責任は重いけど、なんでも自分で決められるから楽しいですよ。トップになることは必要条件で、十分条件は成功すること。だから、徹底的に結果にはこだわりました。

 

松本晃さん「とにかく一番になれ」

ーーいまの時代に松本さんが新入社員だとしたら、どのような言葉をかけますか?

とにかく一番になれと。具体的には会社だったら社長に、野球のチームだったら監督になれということです。

若い時に自分の究極目的を決めておかないといけないんですよ。人生は1度きりなんですから。できれば20代、遅くとも30代で自分は究極的にはこうなりたいんだと決めておく。

会社を大きくしてみんなを幸せにするという目的があったので、いまもカルビー時代のビジョン通りに生きているつもりです。

「顧客・取引先から、次に従業員とその家族から、そしてコミュニティから、最後に株主から尊敬され、称賛される」(カルビーのビジョン)

世のため人のため

ーー会社はこうあるべきというのは20代のときから見えていたんですか?

見えてません。若いときは大したことなかったですよ。最初は騙してでも稼いでやろうと思ってましたから。ただ、39歳でヘルスケアの世界に入って、現場に行くと患者さんが一番だということを実感しました。

毎日オペ室に行って、患者さんの家族がいて。この人たちを助けるんだという仕事をやって、金もうけだけではないという気持ちになったんです。

 

ヘルスケアの世界に入ってからは世のため人のためが必要条件、儲けることが十分条件だと気づきました。両方揃わないと意味がない。若い人がベンチャーで成功して、大金を手に入れてもいいと思うんだけれども、お金なんてそんなに使えないですよ。使えるのはZOZOのお兄さんくらいですよ。(会場笑)

 

あの使い方がいいとか悪いとかじゃなくてね。お金を稼いだらどう使うか。ビル・ゲイツみたいに社会貢献のために使うか。最終的にはお金なんて使いようがない。社会貢献にお金使うか、教育にお金使うか。それくらいしかないですよね。

 

僕の場合はお客さんをハッピーにする、従業員の家族をハッピーにする。そういったことは実感としてうれしかったですね。

 

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松本晃さんが語る「決断方法」

ーー重大な決意をするとき、躊躇(ちゅうちょ)したときにどのように決断しますか?

基本的に躊躇しません。意思決定の方法はシンプルに2つしかないんですよ。「自分で決める」か「みんなで決める」。僕の場合で言うとみんなで決めるやり方は多数決。 決め方を決めて、その次にいつまでに決めるかを決める。

 

ーー転職を決めるときに松本さんに相談しましたが、ワクワクするほうを選びなさいとアドバイスをいただきました。

そうですね。大事なことはワクワクすることと、その仕事は自分を成長させてくれるかどうか。ただワクワクするだけだったら、スマホのゲームのようなものですから。

人間っていうのは求めているものが3つしかないと僕は思っています。それは豊かになりたい、ワクワクすること、自分が成長すること。

豊かになりたいという内容は時代によって変わってくると思いますけどね。

 

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働き方改革じゃなくて生き方改革

働き方改革は必要なんだけども、1日24時間あるのに働き方だけ改革してもどうするんだということですよ。働く時間を短くして、残りの時間はどうするんですか? そうすると、次にやらないといけないのは学び方の改革

 

社会人になって学んでいくと好奇心がでてくるし、学びたいこともいっぱいある。 結局は余暇の時間をどう使うかというところ。仕事した後に家に帰って、テレビを付けて過ごしてどうするの?別にそれもいいけど、もっと他にやることあるんじゃないかと思うんです。もっと文化を学んだり、教養を高めたらいい。もっと健康に気をつかえばいい。

こういうことをひっくるめて生き方改革だと言っています。

 

僕が会社の社長でも従業員の生活全部を変えてあげることはできない。なにができるかというと会社での無駄な時間を少なくしてあげること。だから、僕がカルビーを辞めるときには完全に働き方を改革して、会社には別に来なくてもよくした。成果さえ出せればいいんです。

求めているのは成果なのでどこで仕事しようがいい。会社なんて来なくていいです、と。

100%成功する商売なんてない

ーー仕事で悩んだときに気分転換はどうしたらいいですか。

自分で会社を作ったとしたら僕も悩むと思います。だから僕は自分で会社作るほどの根性がないです。自分の金で勝負したら大変ですよ。僕はいままで招聘されて会社の金でやっているので。所詮は勝っても負けても会社持ちだと思っていたので気楽ですよ。

結局は失敗しますので。100%成功する商売なんてあるわけない。一番理想的なのは「11勝4敗」なんですよ。

相撲って15日くらいありますよね。4つくらい負ける力士は優秀ですよ。11勝4敗を続けるとね、間違いなく大関になれますよ。横綱にはなれないけど。

負けても仕方ない。失敗から学ぶしかないんです。ポイントは同じ失敗は二度としないことですよ。

 

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松本晃さん「面接で履歴書は見ない」

ーー人間関係で嫌いな人、合わない人が居た場合はどうされますか?

そりゃ、たまには嫌いな人もいますよ。人間なんだから好き嫌いがあるのは仕方がない。でも、知らん顔をしてますよ。そういう人は世の中に必ず居ますから。嫌な人が居ても、真剣に考えない。

 

ただし、大事なのは好き嫌いで評価しないこと。僕は徹底的に成果主義者なので、数字しか信用しない。好き嫌いがあるのは当然なんだけれど、会社においての評価というのには全く関係がない。

 

ーーこの人は伸びるなという若手の特徴はありますか?

ありますね。1番目は「地頭がいい人」。こういう人は成功する確率が高いですね。僕は一時期、1年で1,000人以上は面接をしていました。いままで、面接するうえで履歴書を見たことは一回もないです。

地頭のいい人か判断するには「答えのない質問」をするんですよ。面接なんて準備しているに決まってるんだから、想定外の質問をするんです。地頭のいい人は短時間で答えられる。

 

2番目は「人から好かれる人」。これの判断方法は決まってますよね。自分が好きかどうか。面接し終わった後に、営業職だったら「あいつから物買うかな?」と考える。さっきも履歴書は見ないと言いましたが、履歴書見たら騙されますよ。

東京大学法学部って書いてあったら、「こいつ、頭いいな」と思うじゃない? バイアスがかかるから、履歴書は見ません。

 

3番目は「気の短い人」、スピードが速い人ですね。気の長い人はだめです。結論をすぐ出せるほうがいい。理屈ばっかりこねて実行しない人はだめですね。忍耐強くないことが大事。そのほうがいいと思いますよ。

 

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松本晃さん「答えは現場にある」

ーーリスクを取るときに重視していることはなんですか?

リスクはもちろんありますけど、正直言うと気にしないですね。やってみないと分からないし。いつも全力投球でやりますけど、負けたら仕方がないなと。考えてみたらサラリーマンなんてリスクないですよね。

辞めることをリスクとするなら、それはリスクだけど。辞めたからといって、仕事は他にもありますから。僕自身は自分のリスクっていうのを考えたことはないですね。

 

ーーカルビーの会長時代に毎週末、コンビニやスーパーに通っていたそうですね。理由を教えてください。

オフィスなんて行ってもなにも分からんです。マネージャーの話なんて聞いても嘘ばっかりですもん。現場を見てないもん。現場を見るといっても「see」じゃだめなんです。「watch」しないと。

見るだけじゃなくて頭を使わないとダメ。フルグラの場合はお米売り場に置いてあったから、それじゃお客さんは買わないのでシリアル売り場などへ場所を変えたらと思った。

 

あとは名前ですね「フルーツグラノーラ」から「フルグラ」に商品名を変えました。日本人っていうのはなんでも言葉を短縮する。簡単なほうがいいでしょう。マクドナルドのことはマックと言うし、スターバックスのことはスタバと言う。

できればカタカナ3文字が良くて、3文字にならなかったら4文字がいい。それで最終的にフルグラにしました。

 

現場に行かないと何もわからない。ジョンソン・エンド・ジョンソンの社長だってそうですよ。一人で病院に行ってオペ室で見学をしていました。

お客さんが何を困っているのか、それを解決してあげてハッピーにしてあげることが仕事ですから。それは現場に行かないと分からないですよ。

 

松本晃さん「変われる会社が生き残れる」

ーー結果を出せる組織と出せない組織の一番の違いはなんですか?

こだわり。プロセスじゃなくて結果(業績)にこだわること。もちろん、悪いことをやっちゃいけないですよ。倫理観を持ってやらないといけない。 いつもお天道様(おてんとさま)が見てるよとよく言ったものです。ジョンソン・エンド・ジョンソンに行ってから強く意識するようになりましたね。

 

ーー松本さんはどういう企業が生き残れると思いますか?

変われる会社ですね。今日やったことは今日否定するんだと。変化についていかないといけない。そのためには勉強を続けないといけないです。孔子さんの論語で『子曰、学而不思則罔(学びて思わざれば則ち罔し)』という言葉がありますが、まさにこういうことです。

 

主催者:Business Insider Japan

イベント名:BEYOND MILLENNIALS 2020

 

 

 

国内市場で圧倒的な存在感のカルビー。松本氏は代表取締役会長兼CEOに就任後、多くの改革をおこなったことが話題になりました。そんな松本氏の語り口はとても柔らかく、諭すような話し方でした。「働き方改革」よりも「生き方改革」松本氏のお話はとても勉強になり、濃密な30分間でした。