スマートセキュリティ「10PS(テンピーエス)」は、従来の警備業務に最新技術を取り入れ、より高度なサービスを可能にする次世代型警備を目指すブランドです。
10PSを立ち上げた南国警備株式会社代表の渡 康嘉 氏と、10PSに賛同し、アプリケーション開発を担当している株式会社リリー代表の野崎 弘幸 氏。
おふたりに、安全な社会をつくるために取り組む警備のDXや、地域の安全などについて語っていただきました。
渡 康嘉(わたり やすよし) 氏
南国警備株式会社 代表取締役社長。鹿児島県鹿児島市生まれ。高校を卒業後、東京で警備会社をはじめとする人材系の会社等でサービス業務、管理業務等を学び、2005年に帰郷。実家の会社に入る。鹿児島2013年に代表取締役に就任。2014年に地元青年会議所の理事長、2018年に日本青年会議所の副会頭を務め、幅広い分野でビジネス開発を学び、2021年には警備業初となる女性防犯アプリ「MYSP」をリリース。業界のDXを推進している。
野崎 弘幸(のざき ひろゆき) 氏
株式会社リリー 代表取締役CEO。鹿児島県霧島市生まれ。東京にてネットワーク管理業務、大学職員としてシステム管理業務等に従事。2005年から鹿児島のソフトウェア開発会社にてクラウド事業の立ち上げを行い、プロダクトマネージャーとして新サービス開発業務に従事。2017年にリリーを創業。自社サービス開発に加え、企業のサービス開発支援、技術支援などDXの取り組みを支援している。https://www.lilli.co.jp
共創型ビジネスプラットフォーム「10PS」
ーー10PSは「共創型ビジネスプラットフォーム」というめずらしい形です。どうしてこの形を取ろうと思ったのか教えてください。
渡 康嘉 氏(以下、渡):警備業が日本に誕生してから約60年が経ちます。比較的新しい職業のひとつですが、これまであまり大きな進化をしていません。
加えて、地域の警備会社は1万社程度ありますが、独自にブランディングに取り組むとなると、それなりにお金がかかってしまいます。大手警備会社と比べると、弱いブランディングしかできないという現状があります。
中小企業同士が資本提携したり、M&Aを繰り返して大きな会社をつくることも考えられますが、そういった話は簡単にまとまるものではありません。
それで「10PS」というブランドとして、加盟している会社が横並びとなり、共同で投資や事業がおこなえる「共創型プラットフォーム」という形に至りました。
いまのところ、警備業界は最新技術を取り入れるのがあまりうまくないと思っています。もっと最新技術を取り入れることで、地域の安全を守っていきたいです。
警備業が生まれた約60年前と比較すると、犯罪発生率や犯罪の傾向・種類も変化しています。たとえば、以前なら窃盗や強盗が多かったのですが、いまは女性が被害者となる犯罪が増え続けています。そういったところに、警備業がしっかりとアプローチしなければなりません。最新の技術をどんどん取り入れて、もっと地域の人々が安心して暮らせる社会をつくっていけるはずです。ただ、実現するにはそれなりの資金力や実現力が必要になります。
そこで、1社でやるよりも、賛同いただける会社をまとめて、力を合わせてひとつのブランドを育てていこうと考えました。それが、10PSを立ち上げた背景です。
ーー10PSを運営していくにあたって苦労している点などはありますか?
渡:どの警備会社も、もっと地域を安全にしたい、そしてもちろん会社ですから、もっと利益をあげたいと考えています。なので、10PSのコンセプトに賛同し、加盟していただける企業を集めるのは、それほど難しくありませんでした。
ただ、コロナの影響もあってなかなか直接お会いすることができていません。そういったこともあって、10PSに新たに興味をもっていただいている企業との関係づくりは難しいと感じています。
じつは、10PSに加盟するにあたっては、料金を一切いただいていません。10PSで開発したものをご利用いただく際は少しだけ費用がかかりますが、開発費用を捻出することを考えたら、超格安だと思います。
こういったお話をさせていただくと、「そんなに安くていいんですか?」と信用してもらえないこともあります(笑)。
とはいえ、興味を示してくれている企業は、まだたくさんあります。各都道府県で2、3社ずつ以上は加盟をとっていけるよう、これからがんばっていかないといけないですね。
最新の技術をうまく利用して、地域が安全になる社会をつくるためには、アイディア不足のところがあります。いろいろな方の知恵を借りて、今後も進めていきたいと思います。
防犯アプリ「MYSP」
ーー10PSで展開しているサービスのひとつでもある防犯アプリ「MYSP(マイエスピー)」は、女性をターゲットにした便利なアプリですね。株式会社リリーは、MYSPの設計をされていますが、どういった点にこだわっているのでしょうか。
野崎 弘幸 氏(以下、野崎):渡社長の想いやポリシーをしっかりと具現化できるよう設計しました。
とくに、若い女性向けという点は意識しています。南国警備の社員の方、デザイナー、外部の方なども含め、ターゲットとなる年代の方々に実際に使っていただいて、ご意見をうかがいながらブラッシュアップしていきました。
たとえば夜に使う場合や、恐怖を感じて緊張しているときなど、いろいろなパターンを想定して操作しやすいようにこだわって設計しています。ボタンを押しやすいように大きくしたり、操作をシンプルにしたり、そういったところは意識しました。まだまだ、今後もいろいろな方のご意見を参考にしながら改善していくつもりです。
渡:都心部のほうが犯罪の機会は多いはずなので、活用していただけるのではないかと思っています。
まず鹿児島で展開しているのは、今後の社会を見据えたうえで、このサービスが本当に使えるかという、実証実験の意味合いも含んでいます。
なにかの被害に合う前に使っていただければありがたいですし、そのために、いろいろな機能を増やしていきたいです。
ーー鹿児島の警備会社として、意識して取り組んでいることなどはありますか?
渡:さきほどもお話したとおり、地域の安全は地域の人たちが守らなければならないと考えています。
南国警備の本社は鹿児島の市街地にあるので、そのエリアの安全を自分たちで守るという意識です。そのための取り組みとして、地域を巻き込んだ防災訓練を主催しています。
ちょっとやりすぎているかもしれませんが、会社で消防車も買いました。近くで火災があったら、自分たちもかけつけることができます。
大規模災害が発生した場合、消防も警察も、その瞬間は人が足りなくなりますが、それを埋められるような会社づくりに取り組んでいるところです。たとえば、警備員が放水をしたり、資材を扱ったりできるように、自社内でも訓練を取り入れています。
警備のDXで実現できること
ーー「スマートセキュリティ」によって、どのようなことが可能になるのでしょうか?
渡:これまでの警備業は人に依存する形でした。機械警備という分野はありますが、それ以外は、ほぼ最新技術を導入したものが実現されてこなかったと言えます。
技術は世の中の暮らしを良くするためにあります。ただ、技術だけで終わらせるのではなく、生活に根差した形で利用していかなければなりません。
警備の分野においては、どのように技術を取り入れて、低コスト化・犯罪防止の確実性を上げることにつなげられるか。それをスマートセキュリティで実現していきたいと思っています。
たとえば、街中に防犯カメラをたくさん設置して監視したら、犯罪発生率自体が下がるという話がありますよね。犯罪防止の観点で考えると、ある意味ではひとつの方法だとは思います。
日本においてそこまでやるのは難しいと思いますが、身の回りの安全のためにもっと技術を取り入れられないかを考えると、まだまだできることは増えてくるのではないでしょうか。
ーーたしかに、電車にも防犯カメラをつければ犯罪抑止につながるのではないかという話がありますね。
渡:プライバシーの問題もありますし、一概には進められない部分もあります。あと、デジタルデータだと改ざんも可能ですから、そういった世界になるのはまだ先なのかもしれません。
ただ、ブロックチェーンのような技術の導入が進めば、また変わってくるでしょう。そういったことも踏まえると、技術を使って街を安全にするために、できる範囲は今後もっと増えていくと思います。
ーー野崎さんは、警備のDX(デジタルトランスフォーメーション)にどのような可能性を感じますか?
野崎:渡社長がおっしゃったように、DXが進んでいない領域だからこそ、できることが多くあるように思います。機械学習やビッグデータの利用についても、以前よりも発達してきていますから、やれることはどんどん増えてくるのではないでしょうか。
単純に、24時間カメラで撮ったものを処理するという、いままでできなかったことができるようになってくると思います。そもそも24時間鮮明に撮れているという、いままではコスト的に難しかったことも実現しています。
そういった意味では、DXを通じて有意義なことを続けていける可能性を感じています。
ーービッグデータをもとに犯罪予測をするといった話も聞いたことがありますが、そういう未来もありえると思いますか?
野崎:あるかもしれないですよね。不審な動きをしている人を検知するとか、まったく無い話ではないと思います。
渡:実用化に近い話をすると、万引きをした人の行動がわかるようになってきています。犯罪抑止率はかなり高くなっていくでしょうね。
目指すべきは「警備員がいらない社会」
ーー野崎さん、リリー社でほかに警備会社のクライアントさまはいらっしゃいますか?
野崎:警備業は南国警備さんだけですね。警備業でDXの話をされる方は、私が知る限りではあまりいらっしゃらない印象があります。敢えてDXに取り組まなくても成り立っている領域ではありますから、渡社長のようにつぎの発想を考えている方はめずらしいのではないでしょうか。
ーー渡さん、敢えて新しいことに取り組むことについて、なにかねらいはあったのでしょうか?
渡:生産年齢人口は減少していますから、今後、人材を集めるのはますます難しくなってきます。新しい仕事も展開されている中で、警備員を希望する人の数もおそらくしぼんでいくはずです。
全国的にみると、関東では警備員が増えているようですが、地方はどんどん減っています。警備の担い手がいなくなっていくのは、想定の範囲です。
そう考えたときに、人でなくてもできることが、見直していけばあるはずです。そういうものは機械に任せて、人をもっと大事にしたいという想いもあります。機械でできるのに、わざわざ人がやるのは非効率的です。
われわれの究極の目標は、警備会社がいらない世界の実現です。少なくとも、より安全な社会を目指していくのであれば、警備員が減っていったほうがいいわけです。
社会システムの中に防犯機能があらかじめ備わっている状態をつくるためには、まだまだ技術をどんどん取り入れていく必要があります。
実際に、みなさんが意識していないところで、身の回りの技術に防犯機能が組み込まれています。たとえば、QRコード決済などの現金を使わない支払い方法です。そういったものが進んでいけば、人は現金を持つ必要がありません。なので、スリなどの盗難被害もなくなるはずです。そういった身近なところに防犯機能は隠れているのです。
社会構造のなかに警備分野が自然と刷り込まれていって、究極的には警備員がいらない社会になる。それが、本来目指すべきところだと思っています。
技術ではなくUIで解決することもある
ーー話は変わるのですが、株式会社リリーでは、昨年「リリーラボ」を開設されています。具体的にどのようなことをされているのでしょうか?
野崎:IT業界は、結局のところ、いろいろな産業の上に成り立っているだけだと思っています。いろいろな業界で働く方々のことを知らないと、いいものはできません。そういった方々と密に話しながら仕事を進めていくことが大事です。
そういったときに集まれる、ミーティングしたり企画を立てたり、顔を合わせて設計の話などができる場所があるといいなと思い、リリーラボを開設しました。
「ラボ」と名づけたのは、研究や実験的なことをいろいろな方々と一緒に取り組めればという想いがあったからです。
ありがたいことに、株式会社リリーとしては、技術力についてフォーカスしていただけることが多いのですが、クリエイティブな部分、デザインやUI・UXといった、ユーザーにどう使ってもらうかという要素も重要です。そういった話もできるといいなと思いました。
リリーラボでは、社員だけでなく、外部の方も含めて、仕事をするというより、「こういうことに悩んでるんだよね」といった話もできるように意識しています。
ーーシステムやアプリ開発するだけではなく、UI・UXについての意識を高めたいというねらいもあるのですね。
野崎:やはり、われわれが「これが一番いいだろう」と想像でつくったものは、実際にご利用いただく現場では「なんか違うんだよな」となることが多いと思います。そうなると、われわれがつくったものは「テクノロジーの押し付け」になってしまいますよね。
決して技術だけが正しいわけではありません。お客さまの要望によっては、UIで解決することもあります。お客さまとの認識のズレがないように、きちんと話して設計したいと思っています。
そのためには、現場に行くことも重要です。
たとえば、警備会社さんが使うなら、警備しているところでどういった使い方をしているか確認する。細かいところで言うと、日中に屋外で使う想定なら、光の反射があるからデザインはこの色のほうがいいとか、そういったところですね。
DXを進めるには経営者の意識が重要
ーーDXの流れは進んでいると感じますか?
野崎:経営者によりますね。DXを進めるには、経営者の意識が非常に重要だと思います。現場の方々が、ITを使うことでどう変わっていくかイメージできないと、DXは失敗してしまいます。
トップがきちんと理解してDXを推し進めることで、社員は変わりやすいと思います。当然、いままでの仕事のやり方を変えないといけませんし、面倒なこともいろいろ起こります。そのときに、経営者がポリシーをもって「会社としてDXを推進する」という意識をしっかり持っていないと、なかなか進みづらいのではないでしょうか。
渡:DXにおいて大事なのは、仕事の本質を理解することです。DXというと、よくペーパーレスとか言いますが、それがすべてではありません。仕事の本質を考えたうえで、技術をどう導入していくのかだと思います。
私自身は、ほかの業界と比較して、これまで警備業界が進化してこなかった事実を知っているからこそ、一生懸命DXに取り組んでいるのかもしれません。以前に比べたら、徐々にIT技術は浸透していると思いますが、爆発的な浸透という意味では、経営者の判断はとても重要です。
「昨日と同じ今日があるからいいや」と考えれば、おそらく今後もDXは進みません。先の未来をどう描くのかを経営者が考えないと、DXに踏み切るという判断には至らないと思います。
私も、あくまでいま自分の頭の中にある想定でできることで動いています。もっと自分の知らないことや、自分の見たことのない未来を描く経営者の考えも聞いてみたいですね。そういう意味では、経営者の資質をもっと上げていくことが、DXを推進していくことにつながるのかなと思っています。