【弁護士が解説】IT技術の導入で民事訴訟は何が変わる?法改正と利便性向上のポイント

【弁護士が解説】IT技術の導入で民事訴訟は何が変わる?法改正と利便性向上のポイント

 

2022年5月18日に、民事訴訟のIT化に関する変更を中心とした、改正民事訴訟法が国会で可決・成立しました。改正法は、2025年度までに全面施行される予定です。

日本の訴訟(裁判)手続きでは、諸外国に比べてIT化が遅れている状況です。しかし、改正法の成立によってIT化が進展すれば、訴訟手続きの利便性向上が期待されます。

今回は、改正民事訴訟法による民事訴訟のIT化について、主な変更点をまとめました。

民事訴訟のIT化によって目指された「3つのe」

日本の民事訴訟手続きは、紙ベース・対面での進行が原則とされており、IT化は非常に遅れている状況です。

このような状況を受けて、政府は「裁判手続等のIT化検討会」を設置し、同検討会は民事訴訟のIT化に関する報告書を取りまとめました。

同報告書では、民事訴訟のIT化に向けた課題として「3つのe」(e提出・e事件管理・e法廷)を掲げ、法改正によってその実現を目指していくべき旨が提言されています。

e提出(e-Filing)

現状の民事訴訟手続きでは、訴状・答弁書・準備書面などの提出は、紙ベースが原則とされています。また、当事者に対する判決書の送達も紙ベースでおこなわれている状況です。

紙ベースによる書面のやり取りが必須とされている状況は、民事訴訟の利用者にとって非常に不便と考えられます。そのため検討会の報告書では、24時間365日利用可能な電子情報によるオンライン提出を実現し、移行・一本化することが望ましいと指摘されています。

e事件管理(e-Case Management)

裁判所は、訴訟に関する記録や情報を保管していますが、それらにアクセスするためには裁判所に足を運んで手続きをおこなう必要がある状況です。

しかし検討会の報告書では、訴訟利用者の利便性を考慮すると、事件記録や事件情報に対して、オンラインで随時・容易にアクセスできることが望ましいと指摘されています。

e法廷(e-Court)

現状の民事訴訟では、当事者が出席して手続きを進めるのが原則とされています。メインの手続きである口頭弁論のオンライン実施は認められておらず、争点整理手続きのオンライン実施も要件が厳しく、十分に活用されていない状況です。

検討会の報告書では、民事訴訟におけるテレビ会議やウェブ会議の活用を大幅に拡大して、当事者の負担軽減および審理の充実を図るべきであると指摘されています。

民事訴訟法改正によって実現するIT化の主な内容

民事訴訟法改正によって実現するIT化の主な内容

 

2022年5月18日に可決・成立した改正民事訴訟法では、上記の「3つのe」の考え方を踏まえたうえで、主に以下の変更により民事訴訟のIT化の推進が図られました。

訴状のオンライン提出

書面による提出が現状必須となっている訴状については、今後裁判所のシステムが整備され、システム上でオンライン提出ができるようになる予定です(改正民事訴訟法132条の10)。訴状のオンライン提出が可能になれば、遠方の裁判所への訴訟提起もスムーズにおこなえます。

なお、弁護士が訴訟代理人となった場合、訴状はオンライン提出が必須となります(同法132条の11第1項第1号)。

訴訟記録のオンライン閲覧・複写

訴訟記録(訴状・答弁書・準備書面など)の閲覧・複写請求は、裁判所の窓口でのみ受け付けているのが現状です。

しかし今回の改正により、訴訟記録の閲覧・複写請求がオンライン上で可能となります。裁判所にも閲覧・複写用の端末が設置されますが、裁判所に足を運ばずとも、システムを通じた閲覧・複写ができるようになる予定です(改正民事訴訟法91条の2)。

特に民事訴訟の当事者であれば、閲覧請求・複写の両方がオンライン上でできるようになります。期日の進捗状況を随時確認できる、訴訟記録を紙媒体で持ち運ぶ手間が省けるなど、当事者の利便性向上・負担軽減の効果を期待したいところです。

口頭弁論のオンライン実施

「口頭弁論」は、当事者が裁判所の法廷で主張・立証をおこなう手続きで、民事訴訟のメインとして位置づけられます。現状、口頭弁論のオンライン実施は認められていませんが、今回の改正によってウェブ会議による口頭弁論の実施が可能となる予定です(改正民事訴訟法87条の2第1項)。

口頭弁論のオンライン実施は、裁判所が当事者の意見を聴いた上で、相当と認めるときにおこなうとされています。

実際には、当事者に異議がなければ広くオンライン実施が認められるものと思われるため、遠方からの民事訴訟参加が容易になる点が大きなメリットです。

弁論準備手続の完全オンライン実施

弁論準備手続の完全オンライン実施

 

「弁論準備手続」は、口頭弁論における主張・立証を行う前段階として、当事者間で民事訴訟の争点を整理するため、非公開でおこなわれる手続きです。

弁論準備手続は、現行の民事訴訟法でもウェブ会議による実施が認められていますが、当事者の一方は裁判所に出頭することが必須とされています(民事訴訟法170条3項)。

今回の改正により、当事者の両方がオンラインでの参加も可能となる予定です(改正民事訴訟法170条3項)。

証人尋問のオンライン実施(要件緩和)

「証人尋問」は、事件に関する証言を聞き取り、裁判所が事実認定の参考とする重要な手続きです。

証人尋問をオンラインで実施できるのは、現状以下のいずれかの場合に限られています(民事訴訟法204条)。

 

  • 証人が遠隔地に居住している場合
  • 法廷で尋問すると、証人の精神の平穏が著しく害されるおそれがある場合

 

しかし今回の改正では、当事者双方に異議がなければ、上記に該当しない場合にも証人尋問をオンラインで実施できる旨が定められました。

「裁判所には行けないが、オンラインであれば証言する」といった証人のニーズに応えられるようになるため、より充実した審理が期待できます。

判決書の電子化

判決書は現状紙ベースで作成されていますが、今回の改正法が施行されれば、すべての判決書が電子データで作成されるようになります(電子判決書。改正民事訴訟法252条)。電子判決書、裁判所のシステムを通じてどこからでも閲覧可能になります。

なお、電子判決書は当事者に送達されるところ、当事者は送達方法を以下のいずれかから選べます(同法255条1項、2項)。

  • 電子判決書謄本を紙ベースで送達してもらう(原則)
  • 裁判所のシステムを通じてオンラインで送達してもらう(届出が必要)

まとめ

民事訴訟は、「紙ベース」「対面」の融通が利かないルールが災いして、非常に使い勝手の悪い手続きとなっていました。

今回の法改正によるIT化により、民事訴訟の利便性が大幅に向上し、紛争解決手続きとしての実効性も高まることが期待されています。

特に、訴訟に関与する機会のある企業の経営者・法務担当者などにとっては、民事訴訟のIT化による変更点をよく理解しておくことが非常に重要です。

2025年度に見込まれる全面施行までの間、政令・省令の整備などのアップデートがおこなわれる予定ですので、法改正動向について積極的に情報収集してください。