さくらインターネットのデータセンターを支えるサーバーエンジニアの仕事

さくらインターネットでは、大容量高速回線や非常用電源設備などを備えた、サーバーの管理を担う施設「データセンター」を、東京(東新宿・西新宿・代官山)・大阪(堂島)・北海道(石狩)の 3地区に設置しています。安全で快適なインターネット環境を提供するため、各データセンターにはシフト制で社員が常駐し、24時間365日の体制で自社運営しています。

 

そしてその役割を担っているのが、カスタマーリライアビリティ部 サービスデリバリーグループです。今回は当部門に所属する薄葉 大貴に、データセンターやプロジェクトチームでの仕事内容、エンジニアとしてのキャリアの展望などについて聞きました。

薄葉 大貴(うすば だいき) プロフィール

SES(システムエンジニアリングサービス)ベンチャー企業勤務を経て、2018年8月、さくらインターネットに入社。カスタマーリライアビリティ部 サービスデリバリーグループ 東京ユニット 東新宿チームに所属。2020年11月から、データセンターの資材管理システム構築プロジェクトにインフラエンジニアとして参画。現在は、業務ツール開発や人材育成などといったデータセンターでの業務のほか、Tellus(衛星データプラットフォーム)のインフラ運用、DNS(Domain Name System)チームなど部外主幹の業務にも従事。

システムエンジニアからインフラエンジニアへ

――前職ではSES(システムエンジニアリングサービス)ベンチャー企業に在籍していたとのことですが、どんな業務を担当されていたのですか?

客先常駐で、おもにクライアントのシステムアップデートや改修、テスト業務を担当していました。文系出身でプログラミング未経験だったのですが、いろいろなプログラミング言語を実地で使いながら習得する必要があって、苦労したのを覚えています。その会社には新卒で入社したのですが、金融系と医療系の2社クライアントを担当して約1年で退職しました。

 

――転職を考えたきっかけはなんだったのでしょうか?

2社目のクライアントではテスト業務がメインだったのですが、「10年後、20年後もずっとこの業務を続けていくんだろうか」という漠然とした不安を覚えたんです。クライアントワークなので、お客さまの依頼や要望に合わせた業務をおこなうことになります。そうなると、自分で主体的にキャリアを形成していくことが難しいんですよね。もっと自分の興味の持てる仕事をしたいと思って、転職を決意しました。

 

――さくらインターネットに転職をされた経緯について教えてください。

自社開発でサービスを作っているインフラ企業を検討していました。インフラ企業に絞っていたのは、趣味でレンタルサーバーを借りていじっていた時期もあるぐらい、純粋に自分が一番興味があった分野だったからです。

インフラ企業に何社か応募したなかで、入社の決め手となったのは、オープンな社風と成長できる環境があることです。

まず、面接官が入社後に上司となる人だったのですが、とても話しやすかったんですよね。「上司ともカジュアルにコミュニケーションが取れるオープンな社風なんだろうな」と思いました。また、自分の意思次第でさまざまなキャリアを描けそうな点も魅力に感じましたね。

エンジニア歴はまだ1年でしたが、基本情報技術者の資格を勉強中だった点や、SES の仕事へ主体的に取り組んでいた点などが評価されたのではないかと自分では思っています。

 

――もともとエンジニアの仕事はされていたとはいえ、システムエンジニアとインフラエンジニアの仕事で違う部分もあったのでは?

はい、最初は慣れないことばかりでしたね。入社後に担当したのは、おもに「さくらの専用サーバ」の構築・保守や、「さくらのVPS」の保守・障害対応などでした。前職で扱っていたのは仮想環境ですが、今度は物理基盤。まったく違う仕事と言ってもいいくらいで、正直最初はなにもわからなかったですね。でも、疑問があれば先輩たちに気軽に相談できたのでなんとかなりました。なにより、興味がある分野の仕事ができるのが本当に楽しくて、転職してよかったなと思いましたね。

 

――覚えるのに苦労した仕事はありましたか?

資材の在庫管理です。サーバーの種類がとても多いので、品目や機種の見分けがつかず苦労しました。間違えて別の資材を使ってしまうとインシデントになってしまうので、1つひとつ慎重に確認していましたね。

でも、ほかの業務も含め、半年ぐらい経ったころには先輩に質問する回数が減ってきて、だいぶ慣れてきたような気がします。

部の垣根を越えてプロジェクトに参加

――2020年11月頃から、データセンターの資材管理システム構築プロジェクトに参加されていますね。

はい。このプロジェクトは、もともと各部署でおこなっていた資材管理を1つのシステムに統合し、社内全体に在庫状況をわかりやすく可視化することを目的に発足しました。このころは、データセンターでの仕事にも慣れてきて、なにか新しいことに挑戦してみたいと思っていた時期だったんです。そんな矢先、このプロジェクトチームにインフラエンジニアの募集があり、思い切って応募しました。そこから、システムのリリースまで、サーバー設定関連の業務を中心にチームメンバーとして参加していました。

 

――参加してみていかがでしたか?

すべてが学びでしたね。他部署の人とかかわることで、技術面はもちろん、チーム文化、プロジェクトの進め方といったファシリテーションの部分などでも刺激を受けました。この経験は、チーム構築やスタッフ教育などの面で、自部署に還元できていると思います。

 

――現在も他部署主幹のチームに参加されていますよね。

1~2年前から、Tellus(衛星データプラットフォーム)のチーム、DNS のチームにインフラエンジニアとして参加しています。サービス開発においてインフラエンジニアの手や知見が必要になるケースが多いので、ときどき社内公募がかかるんですよね。転職も異動もせずに、新しい環境でいろいろな経験ができる。成長の機会が多いのは、私たちの部署の魅力だと思います。

 

――他部署主幹の業務に加わるときに意識していることはありますか?

参加させてもらっている身なので、ひとまずは大きな迷惑をかけないようにということですかね(笑)。ただ、わからないなりに自分で調べて提案してみるなど、なにかしらチームに貢献できるようにと思いながら、主体的に動くことを意識しています。

個人のスキルアップを歓迎する環境

――サーバーエンジニアとしての目標について教えてください。

「人に依存しない運用を増やしていくこと」です。人の手が入るとどうしてもミスが起こる可能性が増えてしまう。だから、業務ツールを改修して作業を自動化し、事故がおこらない高品質なサービスを提供したいと思っています。細かい改善も積み重なると大きな効率化につながりますから、コツコツ取り組んでいきたいです。

また、担当が属人的になってしまっているツールがいくつかあるので、ツールを開発できる人材の育成を進めたいと思っています。半年から1年ぐらいかけて、担当しているツールを1〜2個ずつ自分の手から離していきたいですね。

 

――さくマガのコンセプトは“「やりたいこと」を「できる」に変える”なのですが、薄葉さん個人としての目標はなにかありますか?

専門領域がインフラに絞られているので、もう少しアプリケーションなどにも手を広げて、技術力を向上させていきたいです。

データセンター全体として、個人のスキルアップやチャレンジを応援する風土があります。技術書なども経費で購入できますし、業務にゆとりがあれば自習時間を作ることも可能です。いまの仕事と直接関与していなくても、今後のキャリアを考えて身につけたいことがあれば勉強することができます。そういった恵まれた環境を活かして、これからもスキルアップしていきたいですね。

あとは機会があれば、また別のプロジェクトにも参加したいと思っています。新しいことにどんどん挑戦して、自分のキャリアの可能性を広げていきたいです。

 

――現在、採用を強化しているとのことでしたが、どんな方と一緒に働きたいですか?

あまり業務経験がなくても構わないので、技術やインフラなどへの興味が強い方と一緒に働きたいですね。私自身もそうでしたが、入社時に経験やスキルが少なくても、その仕事への興味が強ければスキルアップしていけると思います。サーバーエンジニアの仕事に興味のある方には、ぜひチャレンジしていただきたいです。

 

(撮影:ナカムラヨシノーブ)

 

サーバエンジニア(データセンター運用)採用情報

 

デザイナーとしてブランディングに挑む

さくらインターネットの中の人を知ってもらうため、『さくマガ』ではさまざまな社員にインタビューをしています。 今回は、クラウド事業本部 プロダクトマーケティング部 副部長を務め、デザイナーとしても活躍する寺田 正弘に話を聞きました。

寺田 正弘(てらだ まさひろ) プロフィール

クラウド事業本部 プロダクトマーケティング部 副部長

広告代理店、インターネット事業会社のデザイナーを経て、2015年11月にさくらインターネットへ入社。現在は、Web制作、マーケティング、オウンドメディア制作、技術広報等を統括し、コーポレートブランディングに取り組む。

高専の研究室で触れた iMac と Adobeソフトがデザイナーへの入口

――寺田さんはプロダクトマーケティング部の副部長としてマネジメントを担いながら、インハウスデザイナーとしても活躍されています。学生時代からデザインを学んでいたんですか?

最初は群馬高専(群馬工業高等専門学校)に通っていて、デザインとはまったく関係のない勉強をしていました。在学当時は、90年代前半頃で、ちょうど iMac の初代機が発売になった頃だったんです。先生が研究所に iMac を置いていて、そのなかに入っていた Adobe のグラフィックデザインソフトを触っていました。それで「デザインってこんなにおもしろいんだ!」と思ったのが、デザインの道に進んだきっかけですね。

 

その後、文化祭で友人に Tシャツを作ってあげるなど、趣味としてデザインソフトをいじるなかで、「デザインをきちんと勉強してみたい」という想いが芽生え始めました。その想いに加えて、上京したいという気持ちもあり(笑)、東京にあるデザインの専門学校への入学を決断したんです。そこで 1年ほどデザインの勉強をしました。

 

――デザイナー志望で就職活動をしていたのでしょうか?

まずは専門学校の先生の紹介で、小さい広告代理店のアルバイトとして働き始めました。当時はまだみんなが「ガラケー」を持っていた時代でしたが、企業のモバイルサイトを作ったり、商品についてくるノベルティなどを作ったりしていましたね。

 

しばらくして事業会社のデザイナーもやってみたいと思い、インターネット事業会社にインハウスデザイナーとして転職したんです。その会社では、社内サイトや管理ツール等の制作に 4年ほど携わっていました。

 

ただその会社では、広告代理店のときのように頻繁に手を動かしてデザインをする感じがなくて、物足りなさを感じました。そこでもう一度広告代理店に転職しました。そこには 5年ほど勤めて、次に転職したのが、さくらインターネットです。

風通しのよい社風にも惹かれて入社

――さくらインターネットに入社した経緯について教えてください。

広告代理店でたくさんの案件を短期的に担当していくなかで、「1つひとつの製品に長く関わっていきたい」という想いを抱くようになりました。それで、また事業会社に転職しようと考えたんです。以前インターネット事業会社に勤めていた経験を活かせればと、IT業界で探すなかで見つけたのが、さくらインターネットでした。

 

じつは、さくらインターネットとは、3社目の広告代理店時代にかかわりがあったんです。Web周りを担当していたこともあり、さくらインターネットのサポートに電話をしたことがあって、非常に丁寧な対応が印象に残っていました。

 

そんな記憶もあって「きっといい会社に違いない」と思って応募したところ、ご縁があって入社することになりました。面接で社員の方と直接お話することで、あらためて雰囲気がよい会社だと思いましたし、入社できてよかったと思っています。

――実際に入社してみて、いかがでしたか?

広報宣伝室(当時)の募集でしたので、最初はその部門のデザイナーとして、自社サービスサイトのデザインとディレクションをおもに担当していました。前職で紙媒体にも携わっていたこともあり、サービスのチラシやパンフレットの作成業務も担当することが多かったですね。複数の新サービスの立ち上げ期に入社したので、会社として前例がない初めての取り組みにも多く携わりました。

 

そんな業務内容だったこともあり、結果的にいろいろな部署の方とかかわって仕事をすることが多かったです。自分にない経験やスキルを持っている方と一緒に仕事ができるのは、楽しいですしとても充実していました。

 

――初めての取り組みで、大変なことも多かったのでは?

そうですね。たとえば、IoTサービスに関わった際に通信モジュールのパッケージや説明書などを作る場合は、エンジニアの方とも連携して仕様を確認する必要がありました。それらは、在庫として持つ必要があったため、倉庫の準備・運用担当者との連携も求められます。いままでかかわったことがないような部署の人たちとのコミュニケーションは、苦労も多かったですが非常にやりがいがありました。

マネジメントは「リード&フォロー」で

――2018年からはマネジメントにも従事されています。部下とのコミュニケーションでは、どんな点を意識していますか?

現在の部門は役割によっていくつかのユニットに分かれていて、そのユニットごとに専門領域を持ったリーダーがいます。その領域に関しては僕よりくわしいので、基本的には任せるようにしています。もちろん、会社や部門の方向性と違うようであれば指摘はしますが、頭ごなしに考えを押し付けるようなことはしないように気をつけていますね。

さくらインターネットには、「肯定ファースト」「リード&フォロー」「伝わるまで話そう」という社員に求める 3つのバリューがあります。それに沿って、リードするところはきちんとリードする。任せるところは部下に任せて後方からフォローする。そのバランスを大事にしています。

 

――寺田さんが入社したときは「出社すること」が基本のワークスタイルだったのが、コロナ禍を経て「リモートワーク前提の働き方」に変わりました。それによって社内でどんな変化がありましたか?

リモートワークになった当初は、正直大変に感じることが多かったですね(笑)。

たとえば、オンラインの会議だと、やっぱり細かな感情の機微や体調の変化があまり感じられないので、「ちゃんと伝わっているかな?」「本当に大丈夫?」と不安になることがありました。相手のカメラがオフになっていると表情もわからないので、声色だけでしか読み取れませんし……。

 

ただ、もちろんポジティブな変化も多くあります。個人的な話になりますが、子育てとの両立はしやすくなりましたね。保育園への送り迎えや家事なども、妻と分担しながらおこなうことができています。

管理職なので厳密には就業時間の縛りはないのですが、「さぶりこ」(※)など、会社として制度を整えてフレックスやリモートワークを推進しているので、フレキシブルな働き方を実践しやすいのはありがたいですね。

 

(※)さぶりこ(Sakura Business and Life Co-Creation)とは、会社に縛られず広いキャリアを形成(Business)しながら、プライベートも充実させ(Life)、その両方で得た知識・経験を共創(Co-Creation)につなげることを目指した制度の総称です。

CS の実現をめざしてブランディングに取り組む

――これから、さくらインターネットでどんなことにチャレンジしていきたいですか?

“「やりたいこと」を「できる」に変える”という会社のビジョンを、もう少ししっかりとサービスの隅々まで行き渡らせて、CS(カスタマーサクセス)の実現をめざしたいです。それを叶えるために、社内に向けてのインナーブランディングにも取り組み、ES(エンプロイーサクセス)の実現につなげていきたいと思っています。ちょうど 6月に、新たに統合報告書の制作や、コーポレートサイト会社案内パンフレットのリニューアルも実施しました。会社のビジョン、経営戦略、社員が取り組む事業活動の 3つがしっかりと紐づいているということを社内外に発信し、浸透させていきたいですね。

ブランディングは、短期的ではなく時間をかけて取り組んでいくことだと思っていますので、引き続き注力していきます。

2023年6月に公開したさくらインターネット初の統合報告書

――さくらインターネットでは現在採用を強化しています。最後に「こんな方と一緒に働きたい!」という人物像を教えてください。

コミュニケーションの取り方や仕事の進め方にしても、「オープンな方」がいいなと思います。オープンなマインドを持っている方とは、やはり仕事がしやすいですから。

あとは、なにか没頭できるものを持っている方は、さくらインターネットの社風にマッチするのではないでしょうか。”偏愛”という表現は極端かもしれませんが、1つでも熱量高く取り組めるもの、こだわりを持っている方は強いと思います。そういった方とぜひ働きたいですね。

 

さくらインターネット採用情報

 

さくらインターネットの「高専支援プロジェクト」――高知高専の客員准教授に就任した社員のIT教育にかける想い

さくらインターネットがこれから成長していくための注力テーマの 1つとして掲げている「教育」。クラウド事業者としてどうすれば次世代に貢献できるか、試行錯誤しながら活動を広げています。「高専支援プロジェクト」はその取り組みの1つです。2023年3月に独立行政法人国立高等専門学校機構(以下、高専機構)と協定を締結し、6月には「高専支援プロジェクト」のメンバーである ES本部 ES部 前佛 雅人が、高知工業高等専門学校(以下、高知高専)の客員准教授に就任しました。

ニュースリリース:さくらインターネットの社員が、高専機構との包括連携協定の一環として高知工業高等専門学校の客員准教授に就任

本稿では、「高専支援プロジェクト」をはじめとするさくらインターネットの教育に関する取り組みをご紹介するとともに、前佛に客員准教授としての意気込みや IT教育にかける想いを聞きました。

さくらインターネットの「教育」の取り組み

プログラミング教室「KidsVenture」の様子

インターネットの普及によって社会は急速に発展を遂げ、そのスピードは今後ますます加速していくことが予想されます。変化の激しい時代でありながらも、多くの人が「やりたいこと」を「できる」に変えられるような社会をインターネットとともにつくっていく。その目的のため、さくらインターネットでは、注力する4つのテーマ「デジタル化」「地方創生」「教育」「スタートアップ」を掲げています。

その中の「教育」において、社内の活動としては、社員に向けて階層に合わせた一般的な研修制度を導入するだけではなく、エンジニア以外のバックオフィス業務をしている社員などを対象に「DX Journey」という研修を実施しています。これは ITインフラなどの技術に関する専用の研修で、お客さまの DX を支援する企業として、社内で DX を実践できる人を増やすためのものです。

一方で、社外の活動として、「プログラミングの楽しさを知り、高い ITスキルを身に付けて社会で活躍してほしい」という想いから、子どもたちや学生を対象に、以下のような教育支援をおこなっています。

 

KidsVenture

「子どもたちに電子工作やプログラミングに触れるきっかけを与えたい」と意気投合した IT企業6社で、プログラミング教室「KidsVenture」を運営しています。パソコンの組み立て、ロボット制御などを題材に「つくる楽しさ」「学ぶ喜び」を感じられる機会を提供するものです。おもなワークショップの内容は、IchigoJam というプログラミング専用の子どもパソコンをはんだごてを使って組み立てる電子工作と、組み立てた IchigoJam を使ったゲームプログラミングです。

・高専支援プロジェクト

全国の高等専門学校(高専)の学生向けに教育支援活動をしています。クラウド・IoTサービスの体験学習や石狩データセンター見学ツアー、さくらインターネットのサービスを用いた教材の共同制作などを実施。ほかにも、全国高等専門学校プログラミングコンテストに 10年以上協賛しています。

さくらの学校支援プロジェクト

2020年に小学校でのプログラミング教育が必須となったことを受け、2017年より石狩市の小学校と教育委員会への支援を実施。教育委員会や有志の先生が主導してプログラミング教育に取り組める体制を構築しました。
その結果、北海道内の各自治体からもご要望いただくようになり、2019年から「さくらの学校支援プロジェクト」と名称を改め、活動を広げていきました。広く国民の科学技術に関する関心および理解の増進などに寄与したことが認められ、令和3年度科学技術分野の文部科学大臣表彰(理解増進部門)を受賞しています。
現在は一般社団法人ソフトウェア協会(SAJ)が主催する「ワクワクする学び場創造研究会」に参画するなど、引き続き学校でのプログラミング教育および ICT活用教育への支援をおこなっています。

 

このほか、学習環境の向上を目指して、教育関連のコミュニティーへの協賛などを通じた支援をおこなっています。

高いスキルを持った IT人材の不足が社会全体の課題となっている中、将来の IT人材創出に向け、クラウド事業者としてどうすれば次世代に貢献できるか、試行錯誤しながら活動を広げています。

高専機構と包括連携協定を締結。新たな高専支援の取り組みを開始

(左)さくらインターネットの代表取締役社長 田中 邦裕、(右)高専機構の理事長 谷口 功 氏

前述の「高専支援プロジェクト」において、新しい取り組みが始まりました。

当社と独立行政法人国立高等専門学校機構(以下、高専機構)が、DX の推進およびデジタル分野の人材育成と教育に関する包括連携協定を2023年3月23日に締結。

本協定は、さくらインターネットと高専機構が相互に人材・技術・資源などを活用することで社会貢献を図り、ひいては産業発展を目指すことを目的としています。インターンシップなどを通じた人材交流や、高専機構の授業に講師としてさくらインターネットの社員を起用いただいたり、高専機構の学生に研修環境としてサービスを無料で提供するなどの活動を計画しています。

 

sakumaga.sakura.ad.jp

 

この高専機構との協定の一環で、「高専支援プロジェクト」のメンバーである ES本部 ES部 前佛 雅人が、2023年6月1日より、高知高専の客員准教授に就任。実際に講義をおこなうこととなりました。

前佛に聞く、客員准教授としての意気込みと IT教育にかける想い

客員准教授として取り組んでいきたいことや IT教育にかける想い、そして「高専支援プロジェクト」が今後目指していくことについて、前佛に聞きました。

ES本部 ES部 前佛 雅人

 

――客員准教授として、どのようなことに取り組まれていくか、教えてください。

今年度は、クラウドやセキュリティに関する出前授業を数回ほど実施します。具体的には、「さくらのクラウド」などの計算資源を利用し、クラウドを使った開発や構築、ネットワーク、セキュリティについて、学生の皆さまに学んでいただきます。授業実施に向けては、高知高専の先生方と協議しながら計画を進めていますね。来年度からは、半年または通年での講義・実習の実施も想定しています。

今回の授業計画にあたり、単にさくらインターネットが提供したいクラウドサービスの技術などを、一方的に学生に伝えるものにならないように気を付けています。学生の皆さまには、社会で実践できる技術を教えていきたいのです。授業や実習では、土台である計算機科学や情報処理の領域に関する知識はもちろん重要です。それに加えて、新しい技術や、これらの知識を活かした社会での実践を意識した講義を目指します。

たとえば、日本でクラウドコンピューティングの認知や普及が始まったのは 2010年代であり、まだ 10年少々しか経っていません。さらに、クラウドネイティブと呼ばれる領域のコンテナ技術も、やはりこの 10年で登場して普及途上です。学生の皆さまには、世の中の技術を素早くキャッチアップし、本質的な部分を抽出して、深く考え、発展的な考え方を得て、実践できるような学びの機会を提供したいですね。

また、地方の学生を応援したいという気持ちもあります。私自身、「富山工業高等専門学校」(当時)*1で学んだ地方出身者です。インターネットが普及した現在、日本のどこに住んでいても、日本中、世界中の情報にアクセスしたり発信したりできる環境になりました。地方にいることを「できない」言い訳にするのではなく、地方でも「できる」ような活動を後押ししたいです。

 

――客員准教授の打診を受けたときの率直なお気持ちは?

私は教育における専門家ではないので、「私でよいのだろうか?」と少し不安もありました。しかし、生成系AI  に代表されるように、日々進歩が著しい情報技術分野において、誰も答えを知らないパラダイムシフトが起こりつつある時代です。私の経験を活かしながら、私自身の新しい学びやチャレンジを続けるためのよい機会だと考えています。

 

――前佛さんは、「高専支援プロジェクト」のほか、「さくらの学校支援プロジェクト」にも関わり、そして社内に向けても「DX Journey」の講師をされるなど、IT教育に熱心に取り組まれています。IT教育はどうあるべきとお考えでしょうか。

理論も必要ですが、何よりも自ら手を動かす実践力も必要と考えています。いわゆる「IT」の領域は、すでに特別な訓練や教育を受けた者だけが扱うような技術ではなく、インターネットやスマートフォンの普及にみられるように、私たちの日常生活からは切ろうとしても切れない領域になりつつあります。

もちろん、土台となる知識は重要です。一方で、これらの知識を活かした社会での実践が何より欠かせないと考えています。単に技術や理論を知るだけではなく、社会での課題解決も意識する教育を進めたいです。

これだけ情報が溢れる世の中ですから、「見たこと」「聞いたこと」で満足しがちですよね。そうではなく、目の前の課題に対して、コンピュータやインターネットの力で立ち向かい、問題解決に挑める仲間を増やしたいと思っています。

 

――「高専支援プロジェクト」として、今後目指していきたいことを教えてください。

「技術を通した学び合いの文化」を広めたいです。

領域は異なりますが、たとえば「自動車の運転」は、決して一部の人間に対する特権的なものではありません。車の運転がしたければ、運転免許を取得する一連のプロセスを経るだけです。交通法規を学び、車の仕組みを最低限理解し、車上教習をおこない、試験を受ける。晴れて免許を得たら、車さえあえれば、自分が手にするハンドルとペダルで、どこでも好きなところに行けるのです。

それと同じように、コンピュータやインターネットも、決して特別な技術・スキルではなくなったと思っています。もちろん、車でいうと整備士や開発者のように、作り、維持する人々も必要です。しかし、多くの人たちにとって必要なのは、技術的な仕組みよりも「車を使った問題解決」ではないでしょうか。たとえば、家族や友人と旅行に行く、気晴らしに運転する、でも構いません。

さくらインターネットの理念は「『やりたいこと』を『できる』に変える」です。コンピュータやインターネットについても、利用者のハードルをもっと下げて、「やりたいことをできる」人たちを増やし、それを支える技術者も増やしていく。そのために、知識やスキルを属人的なものと特別視せず、シェア・発展できるような文化作りに貢献していきたいです。

学生の知識と技術を向上させ、その成果を全国の高専へ

前佛の高知高専の客員准教授就任について、高知高専の江口 忠臣 校長より以下コメントをいただいています。

高知高専の江口 忠臣 校長

独立行政法人国立高等専門学校機構は、さくらインターネット株式会社さまと DX の推進およびデジタル分野の人材育成と教育に関する包括連携協定を 2023年3月23日に締結しました。

本協定締結は、相互に人材・技術・資源などを活用することで社会貢献を図り、ひいては産業発展を目指すことを目的としています。そして、学生の技術および知識の向上を図る教育活動およびデジタル社会における人材育成と教育基盤の底上げが期待されています。

この協定締結を受けて、本校が全国に先駆けてさくらインターネットさまと新しい教育実践をおこないます。

本校は、2016年度より学科改組により情報セキュリティコースを設置しています。同時にサイバーセキュリティ人材育成事業の拠点校として、サイバーセキュリティ教育やデジタル教育に取り組んでまいりました。サイバーセキュリティ教育では技術の進展への対応のため、実務者の知見を教育に活かす必要性を強く認識しております。

そのような状況において、今回のさくらインターネットさまとの連携により、本校の当分野の教育チームと協働でプログラムを作成し、実践する予定です。

このたび、実務家教員による教育実践のため、前佛雅人氏に客員准教授に就いていただきました。前佛氏の豊富な経験とスキルを活かした授業内容で、学生の知識および技術の向上を図るとともに、その成果を全国の高専に展開する基礎を作っていきたいと考えています。

*1:現在は、「富山工業高等専門学校」と「富山商船高等専門学校」が統合して「富山高等専門学校」という名称になっている。

さくらインターネットと高専機構が包括連携協定を締結 記者発表会レポート

さくらインターネットと独立行政法人国立高等専門学校機構(以下「高専機構」)は、2023年3月23日、DX の推進およびデジタル分野の人材育成と教育に関する包括連携協定を締結しました。

ニュースリリース:さくらインターネットと国立高等専門学校機構がDXの推進およびデジタル分野の人材育成と教育に関する包括連携協定を締結

 

(左)さくらインターネットの代表取締役社長 田中 邦裕、(右)高専機構の理事長 谷口 功 氏

本協定の目的は、さくらインターネットと高専機構が、相互に人材・技術・資源などを活用することで社会貢献を図り、ひいては産業発展を目指すことです。これを皮切りに、以下のようなさまざまな活動を連携しておこないます。

  • インターンシップなどを通じた人材交流
  • 高専機構の授業に講師としてさくらインターネットの社員を起用
  • 研修環境として高専機構の学生にさくらインターネットのサービスを提供 など

 

本記事では、オンライン記者発表会で高専機構 理事長の谷口 功氏、さくらインターネット代表取締役社長の田中 邦裕が語った内容と、さくらインターネット 執行役員の髙橋 隆行による包括連携締結の概要についてまとめました。

動画はこちら:【記者会見】さくらインターネットと国立高等専門学校機構による包括連携協定締結に関する記者発表会

高専機構 理事長 谷口氏「高専から新しい社会を創る」

DX人材の育成は、わが国が遅れている分野です。日本の社会を発展させていくために 世の中では「DX人材が必要である」と叫ばれていますが、では DX人材とは具体的にどのような人材なのでしょうか?

 

DX人材といえば、デジタル分野のみに特化しているというイメージもありますが、そうではありません。どのような職業、分野の人も DX がバックグラウンドにないと成り立たないと感じられていると思います。IT企業のみならずすべての分野に関わる話になっています。

 

ただ、いまから各企業がすぐに DX人材を集めることができるかというと、それも難しい話です。ではどうするか。新しい時代を担う人材を高専から育てることができればよいのです。

 

ただ、学校の先生だけで人を育てるのには限界があります。これからは先生だけでなく、社会で活躍する多くの人の力を借り、力を合わせて人を育てる時代になります。学生が社会に出て活躍していくためには、専門の分野の先生だけでは力不足です。さまざまな分野で活躍する大人たちが集まって、若い世代を育てなければなりません。

 

学校だけで人を育てるという考え方から変えていきましょう。専門技術だけでなく、デジタルをバックグラウンドに置いてものを考えられる人、新しいものを作っていける人を育てていきましょう。

 

日本の未来社会のコンセプトは「Society5.0」です。立派な社会、正しい社会、すばらしい社会、人を幸せにする社会を目指しています。実現のためのバックグラウンドは、デジタルです。すべての人がDX人材になるべきです。

この考え方を、まずは高専から始めましょう。さまざまな形で活躍してもらいましょう。そして、高専から新しい社会を創っていきましょう。

 

高専の学生たちはチャレンジ精神旺盛です。できないといわれることに対してチャレンジするのが高専生のいいところなのです。もし、世の中で困っていることがあるのなら、われわれが引っ張りましょう。高専は、日本の人材育成の考え方を根本的に変えていきます。高専が先頭に立って教育界を変えましょう。

 

このような背景から、さくらインターネットと手を組み、新しい分野を切り開いていこうと思っています。先ほども申し上げましたが、学校の先生だけで教育を担うことが難しくなっています。世の中は急速に変化していますから、さまざまな人の助けが必要です。一緒に人を育てましょう。

 

まずはさくらインターネットと協力し、その後も新しい分野を切り開きながら輪を広げていきます。高専が先陣をきって、日本の社会の発展のために頑張っていきますので、ご支援ご協力をお願いできればと思っております。

さくらインターネット代表 田中「コンピュータと人間の頭脳の掛け算が新しい世界を切り開く」

さくらインターネットの企業理念は、「『やりたいこと』を『できる』に変える」です。社会全体において、これまで「できない」と思われてきたことは、多くの人がなんとかして「できる」に変えてきました。

 

高専機構とさくらインターネットが連携し、人材育成、ひいては社会をよりよく変えていくための行動をしていきたいと思っています。とくに高専生は、専門的な技術、DX の知識、行動力を掛け合わせて社会を変えようとしているわけです。

 

日本では教育やデジタルへの投資があまりおこなわれていません。教育の機会も減り、自ら学ぼうとしない社会人が多いという現状です。日本は情報化に対して投資し、学校教育の場からもDX人材を生み出していく必要があると思います。

ただ、デジタルだけができればよいわけではありません。さらに技術を掛け算し、デジタル技術のスキルを育成することが大切です。

 

まずは学生や先生のお手伝いからはじまる本プロジェクトですが、その後は社会人にまで広げていくのが大いなる目標です。近い将来、リスキリングの一環として、また、社会人の学びの拠点として、高専の在り方までフォーカスされることでしょう。

 

さくらインターネットが本協定の先に目指すものは、高専機構への優先的な計算資源の供給です。

 

昨今、ChatGPT が話題になっていますが、AI技術の発展は目覚ましく、またデジタル社会の創造に欠かせないものとなっています。さくらインターネットが得ている多くのサービスの知見と大量のコンピューティング基盤を、高専に提供します。そのうえで、教育の知見を深めてもらいたいと考えています。

 

高専生であれば、自由に計算機を使って、AI や大規模言語モデルも処理できる。コンピュータの頭脳と人間の頭脳の掛け算が、新しい世界を切り開く。この投資が次の人材育成にもつながるだろうというのが、本協定の目指すべきところです。社会をよりよくする環境整備のために、教育機関と支援する企業の存在が重要だと考えています。

 

ただし、高専は職業訓練をする場ではありません。企業にとって都合のいい人材を育てようというわけではないのです。高専でさまざまな経験を乗り越えた学生が、楽しく働けて活躍できる場を作っていくこと、学生たちが活躍することでよりよい社会となるよう、考える必要があります。高専出身の優秀な人材が活躍できる会社はこういうものだと、社会に広げていくこと。それが、これからコミットするべきことだと考えています。

さくらインターネット 執行役員 髙橋「活きた教育をすべてに」

現在の日本には大きく3つの問題があると考えています。

 

1つ目は、「DX人材の不足」です。教育機関、産業界含めて人材不足、また教員も不足していることが課題となっています。また、大半のDX人材は東京に集中しており、地方での採用は極めて深刻な状況で、国際競争力への影響が課題です。

 

2つ目は、「育成すべき DX人材像」。文系と理系、互いの理解が足りておらず、文理横断の教育が必要だと感じています。また、DX を推進するリーダー人材も足りておらず、今後は文系、理系、学生、社会人含めて広く育てていく必要があります。

 

3つ目は、「DX人材の育成方法」。DX人材育成のためには、産学連携が極めて重要です。デジタルトレンドは非常に流れが速く、教員がすべてをキャッチアップして教育に活かすのは難しい。そのため、「実務家教員」を活躍させることを考えています。

自分たちがこれまで仕事としてやってきたことを人に教えることで、リスキリングを促すことも期待しています。また、デジタルの領域においては、社会人より学生のほうが圧倒的に知識を持っているケースも多分にあります。学生および社会人の新しい気付きの場を提供していく必要があります。

 

次に、包括連携協定を結んだことによる、具体的な施策についてご説明いたします。

さくらインターネットには、社員教育に利用されたコンテンツが豊富にあります。それをもとに、高専の教員のみなさまと一緒にブラッシュアップし、活きた教育のベースを形作っていきたいと考えております。

 

そして、実務家教員として社会人が教壇に立ち、他者に教えることによって従業員の学びの機会も増やしていきます。

Society5.0 の時代に向けて、DX を主軸とした人材が創出される世の中を目指します。そのためのプラットフォームとして、さくらインターネットの強みである豊富な計算資源、クラウド・GPU を気軽にふんだんに使える環境を提供します。

学生のみなさまには、このプラットフォームを活かして活躍の場を広げ、たくさんの社会実装をしていただきたいと考えております。

 

今後の活動について、まずはさくらインターネットの社員と高専の教員で共同チームを作り、教育プログラムのベースを形作っていきます。

また、将来的には教育機関とわれわれの中だけで閉じるのではなく、社会にも展開していく予定です。

この包括連携協定において、「活きた教育をすべてに」というコンセプトのもと、高専機構とともに活動していきます。

 

未経験からデータセンターのサーバーエンジニアとして活躍!

さくらインターネットでは、大容量高速回線や非常用電源設備などを備えたサーバーの管理に特化した施設「データセンター」を、東京(東新宿・西新宿・代官山)・大阪(堂島)・北海道(石狩)の3地区に設置しています。安全で快適なインターネット環境を提供するため、各データセンターにはシフト制で社員が常駐し、24時間365日の体制で自社運営しています。

 

そしてその役割を担っているのが、カスタマーリライアビリティ部 サービスデリバリーグループです。今回は当部門に所属する大枝 剛に、データセンターでの仕事内容、やりがい、業務で身についたスキルなどについて聞きました。

大枝 剛(おおえだ つよし) プロフィール

保険営業職を経て、2018年9月にアイティーエム株式会社(さくらインターネットグループ)に入社。2020年1月にさくらインターネットへ転籍。カスタマーリライアビリティ部 サービスデリバリーグループ 東京ユニットに所属。現在は、保守・障害対応、機器設置、在庫管理、顧客対応を担当。VoC関連プロジェクトの管理者も務める。

保険営業職からのキャリアチェンジ

――前職は保険会社の営業職だったとのことですが、なぜ保険業界から一転、IT業界に転職されたのでしょうか?

もともと趣味で PC を自作するなど、IT には興味がありました。また、保険営業の仕事はノルマも厳しく多忙でしたが、IT業界で働いている友人の様子を見て、IT業界は安定していそうだし、ワークライフバランスもよさそうだなと思ったんです。それで転職を考えるようになりました。

そんななかご縁があって、転職エージェントから紹介されたのが、アイティーエムでした。自社でサービスを提供していて個人のスキルを磨くこともでき、キャリアパスも豊富な点を魅力に感じ、入社を決めました。自分も含めた同期3名は全員未経験者ですが、アイティーエム入社当初から現在と同じように、さくらインターネットのデータセンターで働いています。2020年1月には打診があって、さくらインターネットへ転籍することになりました。

 

――未経験のなか、サーバーエンジニアの仕事を覚えるのは大変だったと思います。どんな研修がありましたか?

入社して最初の1か月が研修期間で、2か月目から現場での OJT が始まりました。研修は当時の上司が担当で、座学での手順の読み合わせや実際の機器を使ったシミュレーションがメインでしたね。入局関連やリブート対応など、誤った対応をするとお客さまに多大なご迷惑をかけてしまうような業務を優先的に集中して学んでいました。

 

――ITスキルについてはどのように習得していったのですか?

ITスキルに関してはほぼゼロの状態からのスタートでした。そのため、IT関連の書籍を読むのに加えて、「LinuC のレベル1」「ITパスポート」といった資格試験や「Progate」といった学習プログラムを活用して基礎を学びました。

ちなみに私は LinuC のレベル1 取得後に ITパスポートを取得していますが、完全に順番が逆でしたね(笑)。ITパスポートでは、プロジェクト管理やデータベース関連の知識など、IT を活用する上で前提となる一般的なビジネス知識なども学べます。ですから IT業界未経験の方は、まず ITパスポートに挑戦するのがおすすめです。

 

――2か月目からは現場に出て、OJT形式となったとのことでした。どのような仕事からスタートしましたか?

入退局の受付対応です。ハウジングを契約されたお客さまが、データセンターに入局する申請をされた場合には、ラックキーやゲストカードなど入局に必要なものを準備する必要があるのですが、そういった基本的な対応業務からスタートしました。

 

――覚えるのに苦労したことはありましたか?

たとえば、「出庫」と「出荷」の違いってなに? といったような、在庫に関する用語を覚えるのはなかなか苦労しました。とはいっても2〜3か月経つと、日常的に関わることが多い業務には慣れてきましたね。ただ、業務内容が多岐に渡るため、この時点でも未経験の業務がまだまだ多かったです。わからないことは先輩社員に教えていただきながら手順を確認したり、隙間時間に勉強したりして習熟度を上げていました。

 

――現在も同じような研修がおこなわれているのでしょうか?

多くの場合はそうですね。ただ習熟度に応じて、早めに実務に携わっていただく場合もあるようです。

いまは、新しいスタッフの習熟度について、業務ごとに4段階で数値化して「習熟度管理表」というエクセルシートで管理するようになりました。また、各作業の手順も明確化し、業務習熟を高めるための取り組みもおこなっています。私たちが入社した当時に比べて、業務未経験の新規入職者がオンボーディングしやすい環境が整ってきたように感じます。

サーバーエンジニアの仕事に営業職の経験が活きている

――24時間365日稼働しているデータセンターですが、どんな体制で運営しているのでしょうか?

常時人員を配置していて、12時間半勤務の2交代制を採用しています。各拠点には常勤スタッフが複数名いて、常勤スタッフが1名以上、シフトスタッフ2名が現場に出向きます。業務の折り合いがつけば、リモートワークを選択することも可能です。

 

――忙しそうなイメージがありますが、実際のところどうなんでしょうか?

基本的なシフトは、東京拠点では3回の日勤のあとに3回の夜勤というサイクルです。他拠点だと月単位のサイクルで日勤・夜勤の交代をしています。ただし、シフトメンバー同士で合意が取れた場合や、リーダーの承認が得られた場合は、シフト変更が可能です。

また、有給休暇も取りやすい環境だと思います。入社前は有給休暇が取れないんじゃないかと心配していましたが、実際にはわりと自由に取ることができています。「ホワイト企業でよかった」と安心しました(笑)。

有給休暇の取りやすさ以外にも、社歴や役職に関係なく意見や提案ができるフラットさは、当社のデータセンターの特徴だと思っています。もちろん『さぶりこ』(※)など、会社の福利厚生も対象ですので働きやすさは抜群です。5年経ったいまも同期メンバーは全員現役で、定着率も高いと思います。

(※)さぶりこ(Sakura Business and Life Co-Creation)とは、会社に縛られず広いキャリアを形成(Business)しながら、プライベートも充実させ(Life)、その両方で得た知識・経験を共創(Co-Creation)につなげることを目指した制度の総称です。

 

――現在担当されている業務や役割について教えてください。

リブートやストレージ交換といった機器の保守対応がメインですね。そのほか、ハウジングをご契約のお客さまの入退局がある場合は、受付からアテンド、工事作業の立ち合いなどの対応をしています。あとは、サービス利用や社内検証用の機器設置や撤去、セッティングや在庫管理も業務の1つです。ネットワーク障害対応、設備障害対応など、スポット的な業務も存在します。

最近では、グループ内のプロジェクトでカスタマーサクセスに寄与する取り組みの管理者として、業務改善にも取り組み始めました。

 

――「エンジニア」というとお客さまとのかかわりが薄いようなイメージがありますが、直接的にかかわる機会も多いのですね。

そうなんですよ。対面でのお客さまとのやり取りには、前職の営業経験を活かせていると感じますね。所作や言葉遣いなどについては、新人スタッフへの教育時に見本となれるように意識して取り組んでいます。

ダイレクトにお客さまにかかわれるのがやりがい

――仕事をするうえで「大変さ」を感じることはありますか?

最初は、業務範囲や必要な知識の幅広さに苦労しました。ただ、それは実際に作業を増やしていくうちに、自然に覚えることができるものです。やはり手を動かす仕事なので、経験を積み重ねていくことが重要だと思います。

あとは身体的な話になりますが、機器の重さですかね(笑)。なかには10kg以上の重たい機器もありますから。最近100台以上の撤去依頼があったのですが、それはかなりハードでした。

 

――逆に、どんなことに「やりがい」や「楽しさ」を感じますか?

「お客さまへ直接的に関与できること」にやりがいを感じますね。カスタマーサクセスの実現のために、新規サービス提供やラックの構築、ケーブルの配線など、高品質のサービスを維持できるよう、普段から気をつけて作業しています。たとえば、使用する備品に傷がついていないか、使いにくい配線になっていないか、LANケーブルに変な折れグセがついていないかなど、細かな点にも注意を払っています。

 

――データセンターで働くことでどんなスキルが身につきましたか?

「データセンターを安定的に運用するスキル」でしょうか。たとえば、サーバーのスイッチのセッティングなどサービスにかかわる運用知識はもちろんですが、さまざまな専門業者とかかわるため、施設や建物、設備や空調などのファシリティ関連の知識、機器調達などの知識に至るまで、総合的に学ぶことができます。

また、タイミングが合えば隙間時間を自己学習の時間に充てることも可能です。私は VoC(顧客の声)関連プロジェクトの管理者になったことをきっかけに、外部研修を活用し、プロジェクトを円滑に進めるためのファシリテーションスキルやネゴシエーションスキルについて勉強しました。

未経験でも手持ちのスキルを活かして活躍できる

――いま、データセンターで抱えている課題はありますか?

「安心してサービスを利用できる品質の維持」が重要課題だと考えています。障害が発生した場合の社内フローの整備や、お客さまに対して障害やメンテナンス情報をわかりやすく発信する手段の整備など、お客さまへ迅速かつ明確に情報を提供できるようなしくみ作りが求められると思います。

 

――これまでのお話を聴いて、データセンターの業務はチームワークが大事なのだと感じました。採用に関してもそういった点を重視されているのでしょうか?

そのとおりですね。やはりシフト制ということもあって部内での「報告・連絡・相談」は非常に重要ですし、お客さま対応や他部署との連携が多い仕事なので、チームワーク、コミュニケーションスキルは重視しています。

あとはデータセンターでの作業は影響範囲が広いため、事故をおこさないような丁寧さや慎重さも重要です。業務や役割に対しオーナーシップを持って、自ら積極的に考え、実行に移せる方と一緒に働けるとうれしいですね。

これらは会社が社員に求めるバリュー(「肯定ファースト」「リード&フォロー」「伝わるまで話す」)にも通じると思っています。

 

――最後に、さくらインターネットのデータセンターで働くことを検討中の方へメッセージをお願いします。

未経験の方でも、しっかりと研修がありますから安心してください。また、先輩方も非常に親切で、質問しやすい環境が整っています。

また、これまでの経験や、みなさんの手持ちのスキルを活かして活躍することもできるはずです。私の場合は「傾聴」「プレゼンテーション」「メンタルマネジメント」といった、営業の仕事で身につけたスキルを活かすことができています。未経験であっても、データセンターでの仕事に興味がある方は、ぜひチャレンジしていただけたらうれしいです。

 

(撮影:ナカムラヨシノーブ)

 

サーバエンジニア(データセンター運用)採用情報

 

さくらインターネット、沖縄で初のインターンシップ開催!4日間にわたる「ビジネスアイデアコンテスト」

さくらインターネットは、2022年7月に、沖縄における拠点新設を発表しました。日常的な業務をする場所としてではなく、社内外の交流、人材育成、地域課題の 3つに注力し、オープンイノベーションを生む場所として、開所に向けて現在準備中です。

その人材育成の取り組みの一貫として、2023年3月27日から 30日までの 4日間、学校法人フジ学園が運営する専門学校 ITカレッジ沖縄の学生 11名を対象としたインターンシップを同校にて開催しました。

今回は、ビジネスアイデアコンテストを通して新しい事業の着想から発表という仕事のプロセスを体験するコンテンツを用意。さくらインターネットの社員と交流しながら、IT やクラウド業界への興味関心を持っていただくことが目的です。

本記事では、その様子についてレポートします。

【スケジュール】

  • 1日目 開会式、石狩データセンターのバーチャル見学会、クラウドエンジニア講習
  • 2日目 ビジネスアイデアコンテスト~チームづくりからアイデアの深堀~
  • 3日目 ビジネスアイデアコンテスト~資料作りから発表練習~
  • 4日目 ビジネスアイデアコンテスト~発表会、表彰式~

1日目:沖縄から北海道のデータセンターを見学

ビジネスアイデアコンテストに挑むための事前学習として、石狩データセンターのバーチャル見学会とクラウドエンジニア講習をおこないました。

日本の最も南に位置する沖縄県から、最も北に位置する北海道のデータセンターをリアルタイムで見学できるのもバーチャルの強みです。普段はなかなか見ることのできないデータセンターの構造やサーバー処理の仕組みなどを知ることができ、学生たちは興味津々の様子でワークに取り組んでいました。実際に石狩のサーバーをその場で稼働させることもできました。

クラウドエンジニア講習では、さくらインターネット社員より実務内容も交えながら、クラウドコンピューティングや携わる技術について体系的に解説。授業だけでは学べないエンジニアの生の声を聞くことで、現場のリアルを感じられたようでした。

2日目:リゾテックをテーマにビジネスアイデアを練る

最終日の発表に向け、チーム内で議論します

いよいよビジネスアイデアコンテストの準備に着手していきます。今回は学生 2名~3名ごとにチームを組み、それぞれにさくらインターネット社員がメンターとしてサポートにつきました。最終日の発表会に向けて、チームごとにビジネスアイデアを作り上げていきます。

お題は「リゾテックをテーマに沖縄をよりよくするソリューションを考える」です。リゾテック(ResorTech)とは、「リゾート」と「テクノロジー」を組みあわせた言葉で、リゾート地である沖縄のあらゆる産業を支え、その生産性や付加価値を向上させる、沖縄の未来に向けたテクノロジーのことです。

まずは、チーム内でそれぞれが考案したアイデアを発表しあいます。学生ならではのアイデアがたくさん見られました。その中からチームとして採用するものをディスカッションで決定し、さらに深堀りしていきます。

次に、ビジネスフレームワークに沿ってアイデアをブラッシュアップしていきます。そのアイデアにはどういうニーズがあるのか、検討を進めていくにつれどのような課題が出てくるのか、メンターも含めてしっかりと掘り下げて、アイデアの核を作り上げていくために議論を重ねます。

また、アイデアを形にしていくうえでペルソナ(想定サービスのユーザー像)の構築は必要不可欠です。自分たちと同年齢の学生がターゲットとなるチームは、インターンシップの参加者全員にアンケートを取ったり、もう少し上の世代がターゲットとなるチームはメンターからヒアリングをしたりと、限られた時間の中で工夫を凝らして調査をおこないました。

 

今回、「肯定ファースト」「リード&フォロー」「伝わるまで話そう」という、当社が社員に求める3つのバリューを、本インターンにおけるグランドルールとして定めました。そのため、コンテストとはいえど、張り詰めた空気ではなく和気あいあいとした温かな雰囲気をつくることができました。学生たちは、他チームにも話を聞きに行ったり、アドバイスをしあったりと、互いに高めあいながらディスカッションは進んでいきます。もちろん全員に「優勝したい」という想いもあり、よきライバルとしての関係性も構築されていたように感じられました。

約5時間みっちりと意見を出しあった後は、中間発表をおこないます。他チームはどのようなアイデアを構想しているのか、どこまでアイデアの深堀りを進めていて、どういう視点でワークをしていたかも知ることになります。中間発表を踏まえて、翌日以降ブラッシュアップしなければならないところや調査が必要な部分をそれぞれ把握し、2日目は終了しました。

3日目:「伝える」ことの難しさを痛感した発表練習

聞き手に伝わるように話すことを意識しながら練習します

2日目に練ったアイデアが、どうしたら聞き手に伝わるかを考えながらスライドづくりや発表練習をおこないました。

この工程がじつは鬼門。これまで会話でなら伝えられたことも、いざ資料に落とし込もうとするととても難しいのです。文字に起こしたり図表を作ったりするためには、自分たちの中で発表内容の解像度を上げなければなりません。アイデア自体は考えられるけれど、それを具体的かつ論理的に、聞き手を納得させる形にしていく作業はこれまであまり経験がなく、苦戦した学生も多かったようです。

この日は実際にスライドを投影し、本番さながらの発表練習もおこないました。多くの学生にとって、外部主催のコンテストは初挑戦。自分たちの考えを言葉にして聞いてもらうこと、順序だてて説明していくことの難しさをここでも体感したようでした。練習しては資料や発表台本をブラッシュアップし、それを繰り返すことで少しずつ発表内容も改善されていきます。

メンターからアドバイスをもらいながらも、「伝える」ことの難しさを痛感した3日目となりました。

4日目:緊張の発表会本番

チームで助けあいながら発表をしました

いよいよこれまでの集大成を発揮する、発表会本番です。当日はテレビ局の取材が入るなど普段とは少し違う空気が流れ、学生は慣れない場に緊張している様子でした。

今回のビジネスアイデアコンテストでは、審査基準としておもに以下の4項目を定めました。この項目に準じてさくらインターネット取締役、執行役員、人事部長の計3名による審査がおこなわれました。

  1. 新規性・独創性
    斬新さや新しい視点、独創性は感じられるか
  2. 市場性・社会貢献性
    世の中に課題があり、需要があるか、課題設定がきちんとされているか
  3. 実現性
    想像だけのソリューションでなく、実際に使えるものか、作成可能なものか
  4. 熱意(パッション)
    「やりたいことをできるに変える」思いがあるか

4チームが順に、各10分の持ち時間内で発表。沖縄在住の学生ならではの視点で作られたアイデアが披露されました。チームの垣根を乗り越えて前のめりに聞き入ったり、ときには笑いも起きたりと、緊張感がありつつも和やかな雰囲気で発表が進んでいきました。審査員からの質問には臨機応変に答え、思いもよらなかった指摘にたじたじになりながらも、各チーム堂々と発表を終えることができました。

城跡来訪のハードルを下げるためのアイデアが優勝

優勝チーム 表彰式の様子

発表終了後は場所を変え、表彰式会場へ。大仕事を終えた学生は達成感と期待や緊張を抱えながら表彰の時を待ちます。

そして厳正なる審査の結果、優勝チームが決定。さくらインターネット役員であり本インターン審査員長の伊勢より表彰をおこないました。また優勝賞品として、12か月の間自由に使うことができる「さくらのクラウド」の使用権(24万円相当)を進呈しました。

優勝チームのテーマは「美らぐすく」。沖縄県内には首里城をはじめとした、城(グスク)と呼ばれる城跡が数多く存在しています。しかし、点在するグスクのうち知名度の低いものはインターネットで検索しても得られる情報が少なく、気軽に訪れにくいという問題点がありました。

これを解決するために考案された「美らぐすく」は、観光客向けに沖縄県の誇るグスクをめぐる楽しさを知ってもらい、来訪のハードルを下げるためのアイデアです。スマートフォン用アプリケーションでの展開を想定したもので、マップ上にグスクの位置を表示させることができます。各グスクのページを開くと、その歴史や観光情報を誰でも簡単に取得できます。

さらに実際にグスクを訪れた人が口コミを投稿することも可能で、施設付近のトイレや駐車場の有無など、訪問前に知っておきたい情報を共有できるといった機能も。

伊勢は「知名度の低いグスクの魅力を IT の力で知ってもらいたい、楽しんでもらいたいという地元学生ならではの視点で、これから細部をしっかりと詰めていけば実装できるレベルになると思います。学生のみなさんに開発を続けたいというご希望があれば、さくらインターネットも全力でサポートしていきます」と力強くエールを送りました。

優勝チームの学生は「まさか優勝できるとは思いませんでした」と驚いた様子。「とても嬉しいです。このインターンを通して社会で働くことがどういうことなのか、少しだけわかったような気がします」とコメントしました。

 

惜しくも優勝を逃した 3チームも「審査員特別賞」「ITカレッジ沖縄賞」「メンター賞」をそれぞれ受賞し、表彰されました。

専門学校ITカレッジ沖縄の奥戸 類(おくと るい)学校長からは「本校ならではの味がある、非常によいプレゼンを楽しませてもらいました。この経験を糧にして、就職活動にも精を出してほしいです。また、さくらインターネットともぜひ良好な関係を続けていけたらと思います」とのお言葉をいただきました。

参加した学生からは、全体を通して以下のような感想がありました。

「アイデアを出すことがこんなに難しいことだとは思わなかったです。チームメンバーやメンターのみなさまと協力して形にすることができ、感謝しています」

「チームワーク、コミュニケーション、そして楽しむことがプロジェクトを進めるうえで重要なのだという気づきがありました。人前に出て話すことが苦手でしたが、とても大きな一歩を踏み出せた。反省点もありますが、貴重な経験になりました」

「ただの職場見学ではなく、実務に近いことをしながらさくらインターネットのカルチャーも知ることができて、最高の経験になりました」

 

さくらインターネットでも初の試みとなった学校内単独でのインターンシップ。メンターと学生は、「肯定ファースト」「リード&フォロー」「伝わるまで話そう」という、当社の3つのバリューを意識し、互いによい刺激を与えながら締めくくることができました。

今後もさくらインターネットは、後進育成に力を入れてまいります。全国の学生にさくらインターネットの魅力について知ってもらうため、インターンシップや説明会、座談会などのイベントも積極的に開催していく予定です。ご興味のある方は、ぜひご参加ください!

さくらインターネットのインターンシップ

awabar okinawa 店長 荒川大晴さんに聞く「20代のキャリア形成」

「awabar」は、2010年12月に東京・六本木で誕生したスタンディングバーで、起業家や経営者が出会い、挑戦する仲間や支援者を見つける出会いの場として設立されました。その後は六本木のほか、2017年に福岡、2020年に京都、2021年に沖縄、2023年に大阪へ出店しています。

じつは awabar の創業者は、さくらインターネットの共同創業者である小笠原 治。その縁がつながって、代表取締役社長の田中 邦裕を含む、沖縄にゆかりのあるメンバーが集い、2021年11月に沖縄・那覇にオープンしたのが、 "awabar okinawa" です。

2022年から awabar okinawa の店長をつとめているのは、25歳の起業家で理学療法士の荒川 大晴さん。店長となるまでの歩みのほか、叶えたい夢やキャリアの展望についてもくわしくうかがいました。

荒川 大晴(あらかわ たいせい)さん プロフィール

1997年生まれ、滋賀県出身。awabar okinawa 店長、株式会社Adam代表、理学療法士、スポーツトレーナー。
2016年、佛教大学 保健医療技術学部に入学。大学卒業後2年間、理学療法士として病院に勤務。2022年、株式会社Adam を設立。同年から awabar okinawa の店長に就任。2023年には運営メンバーの一員として、会員制クリプトバー「BAR KRYPTO」をオープン。現在は沖縄県と京都府の2拠点生活をおこなっている。

祖父の闘病をきっかけに理学療法士を知る

――高校時代、進路はどのように考えていたのですか?

高校時代はあまり勉強もしていなくて、高校3年生までは、センター試験(現:共通テスト)ってなに? というようなレベルでした。

でも「理学療法士になりたい」という気持ちが固まってからは、エンジンがかかって勉強に身が入るようになりました。指定校推薦が狙える大学には、理学療法士を目指せる学部がなかったので、一般入試で佛教大学の保健医療技術学部を受けることにしました。試験まで時間もなかったですし、定員数が少なかったので結構必死に勉強しましたね。

――そもそも「理学療法士になりたい」と思ったきっかけは何だったのでしょうか?

10歳くらいのころ、祖父が脳梗塞になってほとんど寝たきりの状態になってしまいました。でも、理学療法士のサポートのもと、リハビリをして歩けるまでに回復することができたんです。そのあと、祖父は亡くなってしまったのですが、「医学の力でここまで回復できるんだ」と子どもながらに衝撃を受けたんですよね。それが理学療法士という職業を知るきっかけになりました。

その後、医療事務に勤めていた母から「理学療法士は人手不足」だということを耳にし、自分の職業として真剣に考えるようになりました。

学生時代から会社勤め以外の働き方を意識

――大学生活や理学療法士の勉強はいかがでしたか?

勉強自体はそれほど苦ではなかったですね。ただ、大学3年の春ごろに「本当に理学療法士になる道でいいのか?」「ほかの道も見てみたほうがいいんじゃないか?」と、悩んだことがありました。1〜2週間学校を休んだのですが、お世話になっていた先生から「やってみないとわからないよ」と背中を押してもらったんです。それで、もう一度頑張ってみようと学校に復帰し、2月の試験で合格することができました。

――大学卒業後のキャリアについては、どのように考えていましたか?

まずは同級生と同じく、理学療法士として病院で働こうと考えていましたね。就職活動の末、11月ごろに就職先の病院が決まりました。

ただ、ずっとその病院に勤めようとは考えていませんでした。3年生の春、進路に悩んでいたころから、自分の働き方について考えるようになったのですが、会社員一本、会社員をやりながら副業、フリーランス、経営者――。いろいろなキャリアが選べるなか、現状は「会社員一本」という人が多いものの、これからは AI の進歩などもあって、そういう人が減っていくと思ったんです。実際、僕らの世代にはフリーランスという働き方に興味を持つ人も多かった。それで、就職する前から「会社員2年、フリーランス2年、経営者2年」というビジョンを持っていました。「病院は2年で辞める」とあらかじめ決めていたんです。

病院勤務で医療現場の IT化 の遅れを実感

――「2年限定」とご自身で決めて就職されたんですね。この病院ではどのような仕事をされていたのですか?

急性期にある患者さんに対して、回復に向けたリハビリテーションの計画・実施を担当していました。ちょうどコロナ禍に突入した時期で、厳しい感染対策が求められたので、それも含めて大変でしたね。

就職後も2年で退職する意思は変わらず、2年ですべて学ばないといけないという思いで、知識を吸収していました。

――いろいろな知識を吸収したいと考えると、ちがう世界も経験したほうがいいですもんね。

「医療機関は IT化が10年遅れている」と言われているのですが、それを肌で感じました。「これはどうにかしないといけないぞ」という想いはこのときに芽生えていて、いまの仕事にもつながっています。医療機関はとくに閉鎖的な環境なので、同じ病院で働き続けることで、自分の視野が狭くなってしまうし、成長が止まってしまうのではという懸念がありました。

理学療法士の資格と ITスキルを活かして活動

――予定どおり2年で退職されたあと、どのようなお仕事をされていたのですか?

理学療法士の資格を活かした仕事だと、大学での講義や、国家試験受験生向けのオンライン授業の講師、視覚障がい者の方に向けたパーソナルサポートなどをしていました。いまは、小さいお子さん向けの運動指導や、訪問でのリハビリなどを、週1〜2回担当しています。理学療法士の資格があったので、仕事には困らなかったですね。
資格と離れた業務だと、マーケティング支援、Web制作なども請け負っていて、最近はこちらの比重が大きくなっています。

――マーケティング支援、Web制作でのクライアントは、医療関係の方が多いのでしょうか?

いまはほとんどそうですね。鍼灸師さん、整体師さんが多いです。
依頼内容としては、SNS広告の作成や、LPの作成などがメインです。最近だと、NFC で読み込むとプロフィールが表示されるデジタル名刺が流行っていて、ニーズがありますね。

先ほどもお話ししたとおり、医療機関の IT化の遅れは、病院に勤務していたときに肌で感じていたので、その課題を解決できるようなビジネスができればと思っていました。

――マーケティングや開発のスキルはどのように身につけたのですか?

基礎となる部分は友人に教えてもらいましたが、その後はほとんど独学ですね。基本的に、まずインターネットで調べて、とりあえず手を動かしてみるというやり方でした。最初は上手くいかないこともありつつ、試行錯誤しながらスキルを身につけていきました。

起業が活発な沖縄へ移住し awabar に出会う

――沖縄に移住されたのはいつごろでしょうか?

2022年3月です。集客面などがまったくうまくいかず、悩んでいた時期でした。
僕には、話し方や人間力的な部分も含め、いろいろ教えていただいていたビジネスの師匠がいるのですが、その方が沖縄にゆかりのある人だったんです。

調べると、沖縄は補助金も出やすく、起業も盛ん。沖縄に行けば、現状を変えるきっかけをつかめるかもしれない――。そんな想いにノリと勢いも加わって、沖縄移住を決心しました。海も好きでしたし(笑)。

――awabar と出会ったきっかけは何だったのですか?

沖縄に移住したはいいものの、慣れない環境で知り合いもいないし、移住当初はつらい時期が続きました。事業も不振が続き「このままではダメだ」と思っていたときに、インターネットで awabar の存在を知ったんです。堀江 貴文さんと箕輪 厚介さんが awabar の店内で対談している YouTube の動画を見て、こんなすごい場所が沖縄にあるんだと驚きました。「ここに行けば、なにかヒントを得られるかもしれない」と思い、通い始めたのが移住から3か月ほど経った6月ごろです。

awabar okinawa は19時半〜24時まで営業。店舗の壁面には、過去に来店したお客さまの名刺や企業ロゴのステッカーなどが貼られている

チャンスをつかんで店長に就任

――最初はお客さんとして awabar に来ていたんですね。そこから店長に就任するまでの経緯についても教えてください。

2〜3回お客さんとして通ってみて、普通に生活していてはなかなか接することができない経営者や起業家とお話しして、とても刺激を受けました。それで、「これはお客さんではなく、店の内側に入ったほうが勉強になるに違いない」と思って、アルバイトスタッフに志願しました。

ある日、IVS という国内最大級のスタートアップカンファレンスが沖縄で開催されたときに、ちょうどシフトに入っていたんです。その日はオーナーの方たちもお店に集まっていて、お話ができて顔見知りになれました。そんなタイミングで、前の店長がやめるということになり、次はだれに任せようかという話になったんです。これはまたとないチャンスだと思って「僕、店長やりたいです」と手を挙げました。周りの方にも後押しいただいて、9月から店長として働き始めました。

――運も味方して、チャンスをつかんだわけですね。店長はどこまでの業務を担っているのでしょうか?

仕入れから数値管理、広報やマーケティング、イベント運営まで、基本的にすべてです。オーナーもサポートしてくださいますが、基本的にはすべてをお任せいただいています。

黒字化を叶えた「リピーター戦略」

――店長を引き継いだとき、お店はどのような経営状態でしたか?

正直に言うと、数字を見たときに「これは結構やばいぞ」と思いました(笑)。キャッシュフローが悪く、赤字に近い状態でしたね。
IVS や著名人が来店するイベントの日は売上が伸びるのですが、それ以外の日の赤字で相殺してしまう状態でした。

「awabar(泡バー)」は、名前のとおりシャンパンを開けるバーでした。そのため、商品単価が高く、気軽に来店できない、リピーターが少ないお店だったんですよね。

――黒字化のために、具体的にはどういった施策をおこなったんでしょうか?

お店の方針を変えました。シャンパンでゲリラ的に稼ぐのではなく、リピーターを増やして安定的にお客さまに来ていただけるようなお店にしようとしています。

イベントや著名人が来てシャンパンが出るのは、イレギュラー、ラッキーでしかない。それに頼る現状から脱して、自分たちの力で稼がなくてはいけないと思ったんです。

そのために、気軽に飲めるお酒も用意して価格に幅を持たせたり、お客さまの顔と名前を覚えたり、お客さま同士をつなげてあげたり……。「また来よう」と思っていただけるような接客を徹底しました。

店長に就任した9月は現状把握とリピーター獲得に注力して、10月から黒字になり、それ以降も好調に推移しています。

「また来ようと思ってもらえるように」お客さまとの会話を大事にしている

「20代をどう過ごすか」がキャリア形成の鍵

――awabar での経験は、ご自身のキャリアにどう役立っていると考えていますか?

世界が変わりましたよ、本当に。経営のノウハウを身につけられて、人脈も増えました。そこから別の仕事にもつながっています。awabar に出会えてよかったと、心から思います。

――荒川さん個人として、今後「こういう風になりたい」「こういうことをやってみたい」といった展望や夢はありますか?

僕の軸足はあくまで医療にあるんです。勤務時代、医療現場で感じた「医療現場の ITリテラシーの低さ」をどうにか解消していきたいと思っています。

医療現場に限らず、飲食業界もそうです。ITリテラシーの低い業界はまだ多いと思うので、経営や IT のスキルを活かして、ITリテラシーを底上げし、さまざまな業界を活性化させていきたいと思っています。

あとは経営者、とくに IT関係にお勤めの方って、すごく姿勢が悪い方が多いんですよ。健康寿命が短そうだなと心配になりますね。そういうところには理学療法士として、姿勢改善のレクチャーなどもできるのではないかと思っています。

理学療法士、マーケター、開発者、経営者。いろいろな経験や知識を持っている自分だからこそ、できることがあると思うんです。業界と業界の間に入って、よい要素を取り入れ合って高め合う。そういう風に、業界同士をつなぐ架け橋になりたいというのが、いま考えている展望です。awabar での出会いをきっかけに、そういう事業が起こせたら最高ですね。

「やりたいこと」を叶えるために、20代のうちはいろいろ経験して引き出しを増やしたい。そう思って、「会社員2年、フリーランス2年、経営者2年」という予定を立てていたビジョンが、いま達成されつつあります。

ただ、マーケティングやビジネススキルは独学の部分もあり、まだまだ不足していると感じています。スキルアップのために、一度は一般企業に就職してみるのもいいかもしれないと、悩んでいる最中です。

――「やりたいことを叶えるために、いま何をすべきか」ということですね。使える時間は有限ですから、どういうキャリアを選べばいいのか悩みますよね。

はい。会社員として成果を出している人を見ていると、「やっぱりすごいな」と感じるんですよね。企業に勤めながら、たくさん勉強しているんだろうなと思います。いま25歳なので、第二新卒として入社するとなると、あと数年がラストチャンス。もちろん、awabar のほうも軌道に乗ってきたのできちんと形を作っていきたいですし……。今年1年はキャリアの転換点かなとは思っています。

「自分が社会に必要である」「だれかにとって自分は必要な存在である」と思えることが、自分の幸せをつくる大きなピースになっていると、僕は考えています。それを叶える道はいろいろあるので迷ってしまいますが、模索しながら20代後半のキャリアを後悔のないように突き進んでいきたいです。

 

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