カピバラとの出会いはインターネット!私がカピバラマニアになるまで

(温泉につかるカピバラ:筆者撮影)

(温泉につかるカピバラ:筆者撮影)

 

突然だが、私は焼き芋が大好きだ。毎日欠かさず食べている。そして、焼き芋好きが高じたため「焼き芋メーカー」なる専用調理器具を購入し、最高の焼き芋をほおばっては幸せを噛みしめるに至る。

この焼き芋メーカーというのは、サツマイモの型が彫られたスチール製のホットプレートでできている。備長炭を練り込んだプレートでサツマイモを熱することで、まるでプロが作ったかのような、ねっとりホクホクの焼き芋が出来上がるのだ。

ちなみに器具の構造としては、ワッフルやホットサンドメーカーの焼き芋版、と考えてもらえれば分かりやすいだろう。よって、サツマイモに限らずプレートのくぼみに収まる食材ならば、なんでも加熱することができる。

ニンジン、ジャガイモ、ズッキーニ、玉ねぎ、ウインナーなどなど、食材のサイズを調整して収めれば、芯までしっかり熱が通った素材重視の料理が出来上がるのだ。

動物園がYouTubeにカピバラの食事風景を投稿

ある日、私はサツマイモとニンジンを焼き芋メーカーに投入し、しっとり甘ぁい野菜に舌鼓を打っていた。そして、BGM代わりに流していたYouTubeに目をやった瞬間、とある映像に驚いた。

なんと、私と同じ食べ物をモグモグしている動物が映っていたからだ。しかもこう言ってはなんだが、あまり可愛くはない。

(カ、カピバラ…)

サツマイモとニンジンを一心不乱に貪り食うは、世界最大の齧歯類(げっしるい)であり、和名を「オニテンジクネズミ」、漢名を「水豚」と名乗る、あのカピバラであった。

明らかに不機嫌そうな、それでいて眠たそうな、分度器を逆さまにしたような半円形の黒目が印象的なカピバラ。悪態をついたつぶらな瞳の上には、飾り物のようなちっちゃな耳が付いており、ことあるごとにピコピコ動かしている。

全身のフォルムは、ブタのようなイノシシのような丸みを帯びた胴体に、短く細い足が生えている。前足には4本の、後ろ足には3本の指が確認できるが、指の間には小さな水かきがついており、これを使って水中をスイスイ泳ぐ姿はこれまたシュールである。

そんなカピバラを展示するどこかの動物園が、YouTubeを使って彼らの食事風景を投稿していたのだ。

飼育員から配られたサツマイモとニンジンを、ガツガツと食い漁るカピバラたち。中には自分の食べ物がなくなったため、隣りのサツマイモに手を出そうと、いや、鼻を伸ばそうとしたカピバラが、

「ハギュッ!」

と、まるで犬が吠えるような、それでいてしわがれた鳴き声で威嚇されたりもする。

(温泉につかって、頭にミカンを乗っけてるだけじゃないんだ…)

表情など皆無。揃いに揃って全員が同じ顔のカピバラに、興味が湧いた瞬間であった。

一世を風靡した、カピバラの露天風呂

(無表情なカピバラ:筆者撮影)

(無表情なカピバラ:筆者撮影)

 

そもそも「カピバラ」という動物を知ったのは、いつどこでなのかと記憶を遡る。少なくとも最近までは実際に見たことがなかったので、SNSやネットニュース、テレビなどを通じて知ったのではないかと思われる。

全身を茶色い剛毛で覆い、丸く伸びた大きな顔には不機嫌そうな黒目と小さな耳、そして申し訳程度に存在する短い手足を持つカピバラは、いかんせん表情に乏しい。加えて、動物園などでは敵に襲われることもないため、歩く速度も非情にゆっくり。ノッシノッシと威厳たっぷりに地面を蹴る足は、カピバラには失礼だが滑稽で仕方ない。

そんな彼らが日本で一躍スターとなったのは、おそらく「柚子風呂に入るカピバラ」という、珍しくも愛くるしい映像が流れたことがきっかけではなかろうか。その歴史を調べてみると、伊豆シャボテン動物公園にたどり着く。

 

(前略)1982年、冬のある日のこと。たまたま飼育員がお湯で展示場の掃除をしていた時、小さなお湯だまりにカピバラたちが集まって手足やおしりをつけて気持ちよさそうにしている姿を発見!これを見た飼育員は考えました…。『寒くて大好きなお水には入れないけど、暖かいお湯になら入ってくれるかもしれない!』ということで、池にお湯を入れてお風呂を作ってあげるとカピバラたちは喜んで入浴してくれたのです。それ以来、カピバラたちにとって寒い冬の露天風呂は欠かせないものとなりました。

引用:伊豆シャボテン動物公園 元祖!カピバラの露天風呂ヒストリー

 

なんと、冬の掃除中に起きた偶然の出来事がきっかけで、カピバラの露天風呂が一世を風靡したのである。その後、他の動物園でもカピバラと風呂をセットで展示するようになった模様。

打たせ湯の下で気持ちよさそうに目を細めたり、季節によっては柚子やミカンを頭に乗っけて湯船でくつろいだりと、カピバラの行動が恣意的ではないからこそ、我々人間の心を掴んで離さないのである。それから私は、あらゆるSNSでカピバラをフォローし、世界中のカピバラを観察しつつ毎日を過ごしている。

恋焦がれたカピバラとの対面

そもそも都内に住む私は、カピバラのいる動物園へ頻繁に通うのは難しい。よって、YouTubeなどのSNSが私とカピバラをつなぐ唯一のコミュニケーションツールとなる。

ある時、長崎バイオパークの公式YouTubeを見ていると、定点カメラを用いてカピバラが露天風呂につかる様子がライブ配信されていた。

私は仕事の傍ら、そのYouTubeをチラ見していたのだが、5分後に画面を見るも先ほどと比べて変化はない。10分経っても変化が見られない。さらに20分経っても、チョロチョロと打たせ湯の音が響くだけで、カピバラたちは微動だにせず湯船でじっと座っている。

(これは、静止画でいいのでは…)

いつまで経っても定点カメラは、お湯の流れだけを撮影するという厳しい状況が続く。だがこれこそが、カピバラが癖になる理由の1つでもある。

――いいんだ、カピバラはじっとしているからこそ、カピバラなのだ。

1日に何十本ものカピバラ動画を見ていると、そのうち目が肥えてくる。たとえば、カピバラのオスとメスの見分け方をご存じだろうか? カピバラのオスには、鼻筋の部分に黒く盛り上がったコブがある。「モリージョ」と呼ばれるこのコブから出る分泌液を、樹木などにこすりつけることで、自らのテリトリーを主張したりメスへのアピールをしたりするのだ。

さらに普段はのんびりと温厚なカピバラだが、いざとなると時速50キロで駆け抜けることができる。ドスドスと弾丸のようにすっ飛んでいく姿は圧巻である。またオス同士の闘争はかなり熾烈で、どちらかが命を落とすまで続く。そのため不運にも闘いが勃発してしまった動物園は、オスを一頭失うこととなるのだ。

このような「カピバラの意外な生態」についても、SNSでの発信がなければ知らなかったわけで、今のご時世に感謝である。

カピバラに会いに那須どうぶつ王国へ

そして私は、満を持してカピバラに会いに行くことにした。場所は、栃木県にある「那須どうぶつ王国」。

(実際に目の前にいても、あんなに無表情なのだろうか?声を掛けたら、振り向いてくれるのだろうか?)

期待と不安が渦巻く中、とうとう私はカピバラと対面を果たした。彼らの目は、馬や牛のように横についているため、正面から近づくと驚かせてしまう可能性がある。そこで私は一頭のメスのカピバラに狙いを定めると、しゃがんだまま彼女の左側から距離を詰めた。カピバラは微動だにしない。そろりそろりと歩を進める私――。

こうしてついに、カピバラに触れられる位置まで近寄ることができた。

 

(カピバラと筆者)

(カピバラと筆者)

 

右手でそっと背中を触る。その時の感触といったら、未だに忘れることができない。とにかく硬い、まるでたわしの毛のように、硬くて太い毛が生えていたのだ!

そしてこの毛の太さこそが、彼女らが真冬に風呂につかっても湯冷めをしない理由の一つである。ブルブルッと体を震わせ、たわしの剛毛から水滴を飛び散らせる。すると、あっという間に乾いてしまうから驚きである。

ちなみにその後、どれだけ優しく話しかけようが、胴体をユサユサと揺さぶろうが、カピバラは断固として私を無視し続けた。そんな攻防に飽きた頃、私はあることに気がついた。

(やはり、手慣れた飼育員が撮影するYouTubeを見るのが、いいのかもしれない)

なかなか触れ合うことの出来ない生き物との出会いも、インターネットを使えば実現可能な現代。カピバラという一風変わった魅力ある動物を、これからも追い続けようと思う。

水割りを頼めない居酒屋…良いDXと悪いDXのちがいとは?

水割りを頼めない居酒屋…良いDXと悪いDXのちがいとは?

 

新しいものって、興味をそそられますよね。

「新発明」「最新テクノロジー」「次世代技術」なんて言葉を並べられたら、「どれどれ見てみよう」という気になる人が多いと思います。でも、新しいから、すごいからといって、その技術が「自分に必要」な「良いもの」であるとはかぎりません。

デジタル技術でビジネスに変革を起こし人々の生活をより良くするDXも同じで、デジタル技術を使えば利益を生み出せるかといえば、そうではないのです。中途半端なDXは、むしろ逆効果になってしまいます。

梅酒の水割りを頼めない居酒屋にイライラ

「デジタル技術を使ったビジネスモデルの変革」という意味で、個人的に印象的に残っているのは、居酒屋のタブレット注文です。

いまでは当たり前ですが、10年ほど前は、タブレット注文なんてまだどこもやっていませんでした。タブレットを使うのは、カラオケで曲を予約するときくらいのものです。そんななか、ふらりと行った居酒屋のテーブルの上にタブレットが置いてあるのを見て、「最先端だ!」と驚きました。

ドキドキしながらタブレットを手に取り、さぁ注文するぞとタブレットをタップしていったのですが……

これがもう、めちゃくちゃ不便で!

紙ベースのメニューなら、開いて友だちと一緒に見られますよね。ページをパラパラと順番にめくりながら、「これを頼もうか」「どっちにする?」と相談するのがふつうです。

でもタブレットだと、文字が小さいから複数人で見るのに向いていないし、「おつまみ」「刺身」「揚げ物」などと分かれているので、選んで一覧画面に戻ってまた選んで……と往復しないとメニューが見られない。

そのうえ、当時のタブレット注文は、融通がまったく利かなかったんですよ。わたしは梅酒の水割りが好きなのですが、梅酒の欄を見ても、ロックかソーダ割しか選べない。しかも、「店員を呼ぶ」ボタンもない。

友だちはみんなタブレットで飲み物を頼んでいるのに、わたしだけは店員が通りがかるのを待って声をかけなきゃいけなくて……ああ、面倒くさい!タブレットありきで人を減らしているのか、店員は飲み物や食べ物を運ぶのに必死で、気軽に声をかけることすらできませんでした。

というわけで、はじめて訪れたタブレット注文の居酒屋は、「面倒くさくて融通が利かない」と、印象が最悪だったのです。

タブレットだけを見て客の目を見ない店員

タブレットだけを見て客の目を見ない店員

 

そうそう、食器棚の買い替えのために母親と家具屋に行ったときも、「タブレットって面倒くさいなぁ」と思ったことがあります。その家具屋は、それぞれの客に担当の店員がつき、いっしょに家具を見て回るという仕組みでした。

さまざまな食器棚を見てまわる中で、これは色がかわいい、これは大きさがぴったり、など、わたしと母親は好き勝手話します。

で、それを聞いていた担当の店員が、毎回毎回その商品番号をタブレットに入力するんですよ。わたしたちがちょっとでも「いいな」と思ったものを、すべて記録していく。

客そっちのけで、ずーっとタブレットとにらめっこ。「納期はどれくらいかかりますか」「色は変えられますか」「大きさは何種類ありますか」と聞いても、「ええっと、少々お待ちください。番号は……」と言って、タブレットをガン見。

商品番号を入力して画面を見せるだけなら、だれにでもできますよね。「それならわたしたちにタブレット貸してよ。自分で調べるからさ」と、白けてしまいました。

タブレットはあくまで「ツール」であって、サービス「本体」ではないのになぁ……と思いながら、早々にその家具屋を出ました。

求められていない技術の導入は逆効果

わたしが経験したように、「デジタル技術を使った結果顧客満足度が下がる」ことって、案外多いような気がします。みなさんも、経験したことはありませんか?

いままではポイントカードをすぐに作れたのに、いまではアプリをダウンロードして個人情報をすべて登録しないと会員になれないとか。アプリでクーポンが見つからずにレジで戸惑っていたら、店員もよくわかっていなくて後ろの人たちを待たせてしまって気まずかったとか。

わたしはありますよ、とくにクーポンはしょっちゅうやらかします。とはいえそれは、デジタル技術そのものが悪いわけではありません。単純に、「デジタル技術を使いこなせていない」もしくは、「その環境でその技術を求められていない」だけです。

居酒屋でタブレット注文にすれば、たしかに人件費を削減できるでしょう。でもそれが「いいサービス(もしくは低価格)」につながらなければ、意味がないですよね。

家具屋の例でも、タブレットを使えば在庫や納期の確認がしやすくなるので、導入する理由は理解できます。でもそのせいでお客様をほったらかしにしては、元も子もありません。

DXは、デジタル技術を使って人々の生活をより良くすること、ビジネスモデルに変革をもたらすことを指します。つまり、デジタル技術を取り入れるだけでなく、それによって満足感や利益につながってこそなのです。

タブレットのソート機能を使っただけで神サービス

タブレットのソート機能を使っただけで神サービス

 

では、「満足感や利益につながるDX」とは、どういうことなのでしょうか。

せっかくなので、タブレットつながりで、わたしが出会った「タブレットによる画期的なサービス」をしてくださったおふたりを紹介します。

ひとり目は、横浜の高島屋1階にある、資生堂の美容部員の方です。すっと伸びた背筋が印象的で、色白で背が高く、品のある話し方をする人でした。

わたしはドイツ在住なのですが、ドイツの化粧品事情がさっぱりわからないうえ、肌質的にも日本のものが合う気がして、いつも一時帰国中に日本で化粧品を買っています。その日も、一時帰国中に化粧品類を一式買いそろえようと、すっぴんで高島屋の資生堂に向かいました。そこでメイクをしてもらいながら、買うものを選んでいく算段です。

多くの化粧品メーカーもデジタル技術を取り入れていて、機械をピッと当てて肌年齢を調べるのはもちろん、タブレットを使いながら商品説明もしてくれます。で、美容部員の方にメイクをしてもらうなかで、わたしが海外在住であることもちらりと話したんですね。軽い雑談として。

メイクが終わり、どの商品を買うか悩むなかで、「どうせならドイツで買い直せるものがいいなぁ」とつぶやいたところ、「今日使ったものはすべて海外展開しているものですよ」と、さらりと言われました。

なんとその美容部員の方は、メイクしつつタブレットで各商品の海外展開の有無を確認し、海外でも買えるであろう商品に絞って勧めてくれていたのです。しかもそれを客に悟らせないスマートさ……!

さすが資生堂の美容部員。感動しました。

たった1枚の写真で満足度が爆上がりした理由

たった1枚の写真で満足度が爆上がりした理由

 

そうそう、先日はじめてドイツでメガネをつくったときも、タブレットを使ったサービスで驚いたものがありましてね。

メガネのフレームを決めて、2週間後に出来上がるのを待つ……という段階で、「そのフレームをかけてこっちを見て」と言われ、タブレットを構えられました。そして、カシャという音が。

怪訝に思っていると、「目の高さや離れ具合などを自動で測ってくれるんだ」と、担当のお兄さんは笑顔で教えてくれました。画面を見せてもらうと、メガネをかけたわたしのアップの顔写真に、さまざまな数字が表示されています。これを保存することで、その後のフレーム調整に活かすのだそうです。

すごいですよね、写真を1枚撮っただけで、その人に最適な眼鏡のフォームがわかるんですから。

そのお店は地元密着型で店員さんが2、3人ほどしかおらず、基本的には予約制。わたしは3回ほど来店しましたが、すべて同じ店員さんが対応してくれたような小さなお店です。

視力検査はもちろん機械を使いますが、基本的にはマンツーマンのサービスがメイン。PCを使うのは在庫確認のときくらいで、昔ながらのアナログなメガネ屋さんだと思っていました。でも、必要なデジタル技術を取り入れて、より良いサービスを提供してくれているのです。

タブレットで写真を1枚撮っただけなので、「ビジネスモデルの変革」というほどのことではないかもしれません。でもわたしにとっては、「デジタル技術を使ったより良いサービス」として、強く印象に残ったのです。

必要に応じて適切なデジタル技術を使ってこそのDX

デジタル技術は、それ自体は「すごいもの」であっても、「いいもの」ではありません。必要な場面で適切に使い、だれかの役に立つ・利益をもたらすことではじめて、「いいもの」になるのです。

どんなにすごい技術でも、使い方次第では企業や顧客にリターンを生み出せませんし、逆に基礎的な技術であっても、使い方によっては最高のサービスにつながります。それは、使い方次第。

必要なのは、どれだけ優れた技術を使うかではなく、なんのために技術を使うかというビジョン、そしてそのためにどの技術を使うかという取捨選択。

つまり、「必要」に応じて「適切」なデジタル技術を使うことこそが、DXには必要なのです。

 

SDGs出前授業で、大人は子どもたちと共に何を学ぶのか

SDGsは、2015年9月の国連サミットで150を超える加盟国首脳の参加のもと、全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に掲げられた、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」のことです。(農林水産省Webサイト 「SDGsとは」より)

 

SDGsという言葉はTVなどで耳にすることも増えましたし、社会にかなり浸透した言葉のようであり、「なんとなくいいこと」のように思えます。しかし、それを詳しく説明したり、様々な社会的活動がSDGsの達成に本当に向かっているものかどうかを判断したりできる人は少ないのではないでしょうか。

 

さくらインターネットでは、「さくらの学校支援プロジェクト」という活動を行っています。本活動では、2020年に小学校でのプログラミング教育が必須となることを受け、教員研修の一環として、北海道内小中学校に社員を派遣し「プログラミング教育出前授業」を実施しました。SDGsの目標「4 質の高い教育をみんなに」を実現するための取り組みの一つです。

次世代育成支援|CSR活動|さくらインターネット

 

ほくでんグループ(北海道電力株式会社とそのグループ企業の総称)でも、2021年10月から小学校第4学年~第6学年を対象にしたSDGs出前授業を推進しています。本記事では、SDGs出前授業とはどのようなものなのか、実際の授業の様子を取材して見えてきた「学び」について考えたいと思います。

 

「ほくでんさん」が学校にやってきた!

2022年5月19日、石狩市の石狩八幡小学校に、北海道電力ネットワーク株式会社の永井さんが、SDGs出前授業の講師として訪れました。

この日は、5年生16名のクラスで1コマ45分の授業を実施します。

 

北海道ではほくでんグループ各社を「ほくでんさん」と親しみを込めて呼びます。小学校の先生や児童たちは「ほくでんさんが来た」と少し緊張したような、うれしいような、日常とはちょっと違うであろう表情で教室に招き入れてくれました。


永井さんが出前授業の講師をするのはこれが初めての経験とのことで、こちらも少々緊張気味。永井さんは事前にほくでんグループ内で講習を受け、「SDGsスクールファシリテーター」に認定された方です。

 

永井さんの写真

児童の前で自己紹介をする講師の永井さん

授業を受ける児童には、「北海道SDGsアクションブック」が配られています。北海道電力株式会社がサステナビリティ教育支援事業を行う会社の協力を得て制作した資料です。授業は永井さんが操作して投影するプレゼン資料に沿って進められ、時折児童とのコミュニケーションをはさみながら理解を深めていきます。

 

SDGsアクションブックの写真

児童に配布された北海道SDGsアクションブック

授業を受けた児童たちの反応

自己紹介の後、最初に永井さんが児童たちに投げかけた質問は「みんな、SDGsって知ってる?」。

今回はSDGsについて初めて学ぶ児童を想定した授業に申し込んでいただいていたため、当然ここでは薄い反応を想定されていたと思うのですが、次々に手が挙がり「持続可能な社会を作るための17の目標」「世界共通の目標」「『質の高い教育をみんなに』などの目標がある」などとすでに知っていることを積極的に発表してくれました。

 

この児童の授業に対する食いつき具合には、講師の永井さんも驚きを隠せない様子。これから話そうとしていることを次々と言われてしまいましたが、落ち着いた様子で児童の回答はみんな正しいことを伝え、SDGsに関するクイズに進んでいきます。

 

クイズの内容は児童たちにとっては(大人の私たちにとっても)難問ですが、知らないからこそ回答を聞いて「へぇ。そうなんだ!」と興味が持てるような仕掛けになっています。クイズを通して世界の問題を知り、SDGsはそれらを解決していくための目標であるということを再認識していきます。

 

「身近な数字からSDGsを学ぶ」画像

児童は数字を見て何に関する数字なのかを当てるクイズに挑戦

クイズの後には、SDGsについて説明する動画の視聴を行います。ここで17のゴールひとつひとつについての概要説明が入ります。最初の質問で児童がすでに知っていることもあったのですが、ここまでの情報を整理する意味も含め、説明を繰り返すことで知識の定着を図ります。

 

そして、身近なところで自分にもできるSDGsの例として、永井さんご自身が仕事で行っている街路樹の剪定(電線に木の枝が触れることを防ぐため)の作業を挙げ、切り落とした木の枝や葉を以前は廃棄していたが、円山動物園の動物のえさになるのではないかと考え、提供したという話を紹介しました。

 

永井さんの写真

提供した伐採木を食べる象を見守る永井さん

ここでは知識として知っている、何となく世界で問題が起こっているという少し他人事の目線から、自分事への目線の変化を促します。

 

この後、児童たちにはアクションブックの最後にある「未来のためのアクションワーク」に、SDGs17の目標から興味のある目標を選んでその理由やわかったことを書く個人ワークに取り組みました。
発表ではたくさんの児童の手が挙がり、積極的に自分の意見を述べる姿が印象的でした。永井さんも、児童たちの熱意に応えようと、限られた時間の中で発表したい児童全員の意見を聞いてコメントを返していらっしゃいました。大人、それも電気の専門家である永井さんから意見に同意してもらったり、ほめてもらったりすることは、児童の心に残る学習経験となることでしょう。
海のある石狩市ならではということなのか、「14 海の豊かさを守ろう」を選んだ児童が多かったのも印象的でした。

SDGs出前授業を通しての「学び」とは

今回授業を受けた学級の担任の先生からもお話を伺ったのですが、児童が思ったよりもSDGsについて「知っている」ということがわかった、こんなに知っているとは思わなかったという感想を持たれたそうです。
また、普段から発表などは活発に行えているクラスではあるが、いつも以上に活発に意見を発表できていたのではないかとのこと。

 

先生も、出前授業を「見る」側に立つことで、客観的に児童たちの様子を観察でき、今後の授業の中で今回得た知識をどのように関連付けていくかについての構想をめぐらせることができるのではないかと感じました。出前授業が普段の授業だけではなかなかできない先生にとっての「学び」に通じる時間でもあるということです。

 

講師を務めた永井さんは、SDGsスクールファシリテーターの講習を受けた際、「一方的に教える、知識を伝えるのではなく、考えることを手助けする、あくまでも授業の推進役に徹すること」を求められたと言います。永井さんにとって出前授業は、このようなコミュニケーションの手法を実践を通して学ぶ良い機会となっているのではないでしょうか。
授業が終わってから、もっとこうすればよかったなどの反省点もあるが、次に生かしていきたいとお話しされていました。

 

SDGsそのものに対する学びはどうでしょうか?

45分間の授業だけでは、深い学び(SDGsに対する建設的な意見やアクションプラン、個々の事例に対する詳細な観察による新たな気付き、SDGsの抱える矛盾や批判的な見方など)に到達するのは難しく、まずは「SDGsとの出会い」という位置付けになると思います。新しい学習課題との出会い方としては、出前授業は児童の興味を引く仕掛けがたくさんあって効果的だと思います。

 

この先これをきっかけにさらに深い学びに導くのは小学校の先生が主体ですが、学びの過程で専門家の意見が必要になった時に、永井さんのような方が講師として登場し、ご自身の専門分野について直接児童とやり取りするというのが理想的な姿だと筆者は考えます。
その時、児童からの鋭く本質を突く質問に大人たちがどう答えるのかが重要なポイントになるでしょう。大人がこれまで解決することのできなかった課題について児童と共に解決の糸口を見出すことは、お互いにとっての重要な学びにつながると思うのです。

SDGs出前授業のお申し込み・お問い合わせ

ほくでんグループのSDGs出前授業のお申し込み・お問い合わせについては、こちらのサイトをご参照ください。

出前授業 - 北海道電力

※2022年度のSDGs出前授業は12月中旬頃まで開催を予定しており、北海道内小学校からの申込を随時受け付けています。

さくらインターネットとSDGs

筆者が所属するさくらインターネットの石狩データセンターは、2022年6月1日より電力を再生可能エネルギー由来へ変更し、実質CO2排出量ゼロを実現することで、SDGsの実現に向けて一歩前進することができました。

 

さくらインターネット、6月1日より石狩データセンターの電力を再生可能エネルギー由来へ変更し、実質CO2排出量ゼロを実現 | さくらインターネット

 

この取り組みは、SDGsの目標の中でも「13 気候変動に具体的な対策を」に対応するものです。さくらインターネットグループでは他にもSDGsの実現に向けた取り組みとして、次世代育成支援やDX人材育成支援などの教育分野、働き方やコーポレート・ガバナンス強化、情報セキュリティマネジメントなどにも力を入れています。

2022年3月期期末決算説明資料の画像

2022年3月期期末決算説明資料より

さくらインターネットの脱炭素化に向けた取り組みは、「13 気候変動に具体的な対策を」へのより本質的な解決を目指して、これからも地域自治体や電力会社と協力しながら進めてまいります。

 

 

【舞鶴高専】テクノロジーで地域に貢献!日本を未来を担う若者たちの今

舞鶴工業高等専門学校の生徒たちの写真

こちらの記事は、2017年4月にさくらのナレッジで公開された記事を再編集したものとなります。文●山下達也

皆さんは「高専」ってご存じでしょうか?

最近はロボコンやプロコンなどのイベントでも注目されることが多くなっているので、さくナレ読者なら当然ご存じですよね? 高専、即ち「高等専門学校」は、一般的な高校→大学(短大)という進学コースとは異なり、中学卒業後、5年間に渡ってみっちり特定分野(主に工学・技術系)の専門教育を受けられるという高等教育機関(卒業後は短大卒と同等の準学士の学位を取得)。即戦力となる優秀な人材を排出してきたことから、産業界の信頼が篤いことでも知られています。

実は、さくらインターネットの創業社長である田中邦裕も高専出身。京都の舞鶴工業高等専門学校(以下、舞鶴高専)在学中にさくらインターネットを立ち上げ、当時はけっこうな話題となりました。

そんな経緯もあり、さくらインターネットでは、高専生を積極的にサポート。これまでもインターン生の積極受け入れなど、高専生が社会に出て行く橋渡しを微力ながらお手伝いさせていただいております。

田中社長の母校・舞鶴高専へのVPS無償提供もそんな高専応援活動の一環。制限の多い学内サーバーよりも自由なサーバー環境を求める声に応え、2016年度に「さくらのVPS」を実験的に4台提供することとなりました。

今回はそのVPSが舞鶴高専の学びにどう役立ったのかを、同校で電気・情報系の授業を受け持っている古林達哉先生と、その優秀な教え子たちに聞いてきました!

 

テクノロジーの力で地域に貢献

古林達哉先生の写真

――まずは、舞鶴高専についてもう少し詳しく教えてください。この学校ではどういったことを学ぶことができるのでしょうか?

古林先生:舞鶴高専は高専制度が誕生した初期に設立された50年以上の歴史を誇る国立高等専門学校です。全国には51の国立高等専門学校があるのですが、その中でもいち早く「情報」の重要性・将来性に着目し、2004年に「電気工学科」を「電気情報工学科」に改称するなど、「電気」と「情報」を両方こなせる技術者を育成することに注力してきました。

 

――舞鶴高専では教育の一環として、文部科学省が推進している「COC」という取り組みに協力していると聞きました。これは一体どういうものなんですか?

古林先生:COC(Center of Community)とは、「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業」のこと。もう少し分かりやすく言うと、現地の大学や高専が、学問の力で地域の課題を解決していきましょうというプロジェクトです。舞鶴高専は2013年に、京都工芸繊維大学と共にその推進校に選ばれ、授業のカリキュラムに「地域志向科目」を採り入れるなど、全校一丸となってこの事業に取り組んできました。また、2015年からはそれをさらに拡大・発展させたCOC+も始まっています。

 

――COC+では具体的にはどんなことをやってきたのでしょうか?

古林先生:京都府から舞鶴高専に提示された「地域の課題」は、言うなれば京都府北部の活性化。京都は観光地として栄えているように思われているのですが、実は多くの人が訪れるのは京都市内や府南部地域だけ。舞鶴や福知山など、京都府北部の周辺エリアはあまり認知度が高くないというのが現状なんです。また、府内に学生さんが多い割に、就職(とくに北部へ)が少ないのです。それを知の力で何とかできないかということに、特にこの2年間取り組んでいます。

今回お話させていただく内容はそのCOC+の中でも電気情報工学科第4学年にて実施している「創造工学」という地域志向科目です。2年目となる2016年度は、学生を4つのチームに分けて、地元支援学校の電動車椅子の改良、LEDイルミネーションによる駅前のライトアップ、舞鶴市内のアクティビティ充実、舞鶴観光情報の提供にチャレンジしています。

 

写真

 

――その中で、さくらインターネットはどんなお役に立てましたか?

古林先生:それら4つの取り組みのうち、「情報」技術がとくに重要だった、舞鶴市内のアクティビティ充実、舞鶴観光情報の提供において、さくらのVPSを活用させていただきました。

前者は、学生がUnityを駆使して作ったアクティビティを楽しんでいただいているようすをWebカメラで中継したり、あそび方のレクチャーを紹介するWebサイトの設置などに使っています。

 

PCの写真

 

後者は、舞鶴周辺の美味しいお店や観光スポットを紹介するWebサイトやアプリを運用するために使わせていただきました。アバターを使ったかわいらしいものから、閉店時間情報も踏まえて、今、やっている近所のお店を紹介してくれるもの、ルート検索機能付きのものまで、さまざまな切り口の情報提供をおこなっています。

 

PCの写真

 

――こうしたことは学内サーバーでは難しかったんですか?

古林先生:はい。学内サーバーはセキュリティの問題もあって、学校のホームページなど一部を除き、外部からのアクセスを遮断しており、こうした学外との連携には使えないんです。さりとて、教材として外部のVPSを導入することもシステム的に厳しく……。どうしても契約が年度をまたいでしまうため、予算を付けることが難しかったんです。

 

——では、無償提供には金額だけでないメリットもあったということですね。

古林先生:とても助かりました。無償提供は今年だけだったので、来年以降どうしようかと思ってしまうほど(笑)。ただ、後ほど学生からお話させていただく「身体活動データ収集・解析支援システムの構築」プロジェクトについては、卒業研究の予算を付けることができたので、1台だけですが、来年度もさくらのVPSの利用を続けることになっています。

舞鶴高専で学ぶ、若きエンジニアの卵たち

COCという活動を通して、地域貢献という実学で技術を学ぶ舞鶴高専生。続いては、電気情報工学科5学年約200名(1学年約40名)の中から、とくに優秀と古林先生がお墨付きを与えた3名の学生さんにご登場いただき、舞鶴での学びについて語っていただきます。

舞鶴高専 電気情報工学科 3年生 山本謙太さん

山本謙太さんの写真

 

「僕が現在学んでいるのは電気系では回路の過渡解析、情報系では数値解析などといった基礎的な範囲です。その上で、課外活動として、プロコン部に所属しているほか、個人の趣味としてUSBデバイスをPIC(ペリフェラル・インターフェイス・コントローラー)で開発するなどといったこともやっています。とにかく今はいろいろなことがやってみたい。舞鶴高専を選んだのも、ここなら電気から情報までまんべんなく学べそうだと思ったからなんですよ。結論としては舞鶴高専を選んで大正解。学生生活を楽しく満喫しています」(山本さん)

舞鶴高専 電気情報工学科 4年生 森本健太さん

森本健太さんの写真

 

「私も山本君と同じく、いろいろなことをやりたくて舞鶴高専を選びました。現在は部活で創造技術研究会に所属し、電気、情報のほか、機械の設計などにも手を出しています。授業では、先ほど古林先生がお話ししたCOC事業の一環としてイルミネーションの製作に参加。ここで課題となったのが、それぞれのチームが製作したイルミネーションを連携させるということ。実は昨年もイルミネーション作りをやったのですが、横の連携がなかったため、ただ好き勝手に光っている状態になってしまっていたんですよね。そこで今年はそれぞれのイルミネーションを無線技術で連携させて統一感を持たせることに成功しました。また、後期は5年生の谷先輩と組んで、『身体活動データ収集・解析支援システムの構築』という研究にも挑戦しています」(森本さん)

舞鶴高専 電気情報工学科 5年生 谷健太郎さん

谷健太郎さんの写真

「私の卒業研究となった『身体活動データ収集・解析支援システムの構築』は、舞鶴市民の健康作りのためにウォーキングを推奨しようというプロジェクト。市役所や地元信金の社員の皆さんにご協力いただいて、ウェアラブル端末とスマホの組みあわせで運動を奨励された人と、そうでない人の運動習慣と成果を収集・解析する仕組み作りをおこないました。この際、吸い上げたデータを保管しておく場所としてさくらのVPSを活用。データのレシーバー作りからシステム構築までひたすら試行錯誤を繰り返したのが大変でしたが、結果として、そうした『情報』の取り扱いに強い興味を持つことができました。今後はこの方面をもっと極めていきたいですね」(谷さん)

ちなみに谷さんは、こうした経験を経て、某国立大学工学部の機械システム系学科への進学が決定。この春から、人工知能の専門家としての道を歩み始めることになりました。なお、さくらのVPSも活用した『身体活動データ収集・解析支援システムの構築』の研究はこれまでも一緒にやってきた後輩・森本さんが継続。学びの成果はこうして先輩から後輩へ引き継がれていくのです。

日本のテクノロジーの未来を担う高専生たち。さくらインターネットはこれからも、そんな彼らを全力でバックアップしていきたいと考えています!!

 

■関連リンク
舞鶴工業高等専門学校

(※上記学生の皆様の学年は2017年2月時点のものです。)

おまけ

繰り返しますが、舞鶴高専はさくらインターネット創業の地(?)。せっかくなので、その“当時”を知る恩師・仲川力先生に若き日の創業者・田中社長がどんな学生だったのかを聞いてみました。

 

中川力先生の写真

 

——高専生時代の田中社長ってどんな学生だったんでしょうか?

仲川先生:彼は私が赴任して2年目の学生だったのですが、PC関連に明るいと言うことで、出来たばかりの電子制御工学科棟の機材設置などを手伝ってもらっていました。そうしたらいつの間にかそこの主のような存在になってしまい、平日は10時ごろまで、土日はオールナイトで入り浸るようになっていましたね。え? 成績ですか? うーん、留年はしませんでしたよ、少なくとも(笑)。

 

——高専生時代の田中社長のエピソードで何か面白いものがありましたらぜひ。

仲川先生:ある日、出張から帰ってきて研究所のPCを立ち上げたら、何もしていないはずなのに動作が不安定になっているということがありました。おかしいなと思ってPC内部を見てみると当時はまだものすごく高価だったメモリモジュールが1枚焼け焦げているんです。すぐにピンときて田中君を問い詰めてみたら、自分用のPCに何かのソフトをインストールするために拝借し、その際、規格が合わなかったとかで燃やしてしまったと白状しました(笑)。

 

——そんな彼が、さくらインターネットを立ち上げるきっかけは何だったのか、ご存じだったりするのでしょうか?

仲川先生:それがよく分からないんです。彼の在学中、1年だけ内地留学のため舞鶴高専を離れていたのですが、戻ってきたらもう“化けて”いました。古いインターネットユーザーならご存じかもしれませんが、かつてはここにwww.apache.or.jp(現・www.apache.jp)があり、田中君がMLを運営し、自らモジュールを作り、マニュアルを翻訳したりしていたんですよ。在学中にベンチャー企業を立ち上げると言い出したときには驚きましたが、これからのインターネットを支えていくのは彼らのような若い力だと考え、なるべく応援するようにしました。

 

——舞鶴高専には田中社長のほかに、そうした学生はいたのでしょうか?

仲川先生:いや、後にも先にもそんな学生は彼だけです(笑)。それだけに彼の存在はとても印象的でした。不在だった1年を除き、在学中はみっちりつき合いましたね。僕のところで卒研もやりましたし、逆に僕の論文を手伝ってもらったり……絶対に忘れられない学生の1人です。ただ、最近、その当時の記憶と比べてちょっと太ってきたように見えるのが気になっています(笑)。忙しいとは思うのですが、健康には気をつけるようにしてくださいね。

 

 

さくらのクリスマスイベント大阪初開催!「さくらの聖夜2017 in 大阪」レポート

ケーキの写真

こちらの記事は、2018年1月にさくらのナレッジで公開された記事を再編集したものとなります。文●法林浩之

さくらインターネットがお送りするクリスマスイベント「さくらの聖夜」もすっかり恒例となりました。従来は東京で開催していましたが、今回は大阪駅近くのグランフロントに移転した大阪本社を会場とし、「さくらの聖夜2017 in 大阪」として開催しました。12月25日(月)の夜という、クリスマスかつ年末の忙しい時期にも関わらず、60名以上の方が参加してくださいました。ありがとうございます! それでは、イベントレポートをお楽しみください!

 

さくらのトップが提言するこれからの働き方

1本目のプログラムは代表の田中邦裕が登壇。「働き方改革疲れへの処方箋」と題して講演しました。

 

田中の写真

 

田中からは、日本ではITエンジニアが人月で計算される工員として扱われているという問題提起や、「働きやすさ」と「働きがい」は別のものであること、働きやすい環境の提供と社員による働きがいの追求を目指した制度「さぶりこ」の紹介がありました。そして最後に田中からの処方箋として、大阪本社オフィスの広大な未施工エリアの写真を例に、効率性ばかりを考えるのではなく、余白を作ることの大切さを訴えました。

 

大阪本社・未施工エリアの写真

 

「さぶりこ」のような施策や余白を作ることを考えるようになった背景には、2010年代の前半に経営の効率化を図ったところ、利益は増加したものの売上高成長率は鈍化し、さらに離職率が高くなり社員数が減ったという過去があります。効率だけを求めても人は幸せになれるわけではないことを示唆する、興味深い話でした。

まりなの担当者が語るまりなのこと

まりなの中の人の写真

 

続いては、カスタマーリレーション部の青木茉利奈&石井姫彩が「まりなの中の人はおじさんではないんだそうですよ?」というタイトルで発表しました。2人は当社カスタマーセンターの公式キャラクター「まりな」の担当を務めています。発表内容としては、まりなの誕生経緯、ツイッターによるお客様対応の様子、テーマ別に体系的かつわかりやすい解説を目指した「まりなの超初心者講座」、さらに将来の野望として、担当者と人工知能による仕事の分担などの話がありました。

 

さくらの聖夜限定で配られたまりなステッカー

さくらの聖夜限定で配られたまりなステッカー

「まりな」というキャラクター名は青木の氏名に由来しており、そういう意味では「中の人」どころかまりな本人による発表だったのですが、実は対外的なイベントでまりなの話をしたのは初めてだったそうです。会場からの質問も多く、関心高く聴いていただけてよかったです。ツイッターをご利用の皆さんはまりな(@sakura_ope)をフォローしてくださるとうれしいです。

執行役員が緊急参戦!バズワード大戦

江草の写真

急きょ登壇した江草

3本目のセッションは、エバンジェリストチームの前佛雅人と横田真俊による「前佛&横田のバズワード大戦2018」を予定していましたが、前佛が都合により登壇できなくなったため、執行役員の江草陽太が緊急登板。「江草&横田のバズワード大戦2018」としてお送りしました。

毎年50回ぐらい登壇している横田

横田の写真

内容としては、技術動向を俯瞰する手法であるハイプ・サイクルの説明、ウェブ開発者の技術トレンドを知るための情報源の紹介、それらを参考に横田が作成した「俺式ハイプサイクル」の解説がありました。また、2017年を総括する上で重要な技術として、Kubernetes、SRE、Mastodon、LPWA、スマートスピーカー、Let’s Encryptなどを挙げました。

2017年の「俺式」ハイプサイクル(横田の資料)

 

バズワード大戦のセッションは前回の「さくらの聖夜」でも実施しましたが、その年のIT/インフラ業界の動向を振り返ることができ、年末のまとめとしてとても良いプログラムでした。

ケーキも出たよ!たこ焼きも出たよ!懇親会&LT大会

本編終了後は、セミナールームからオープンエリアに移動して懇親会です。お食事や飲物の他に、さくらの聖夜特製のクリスマスケーキもお出しし、田中が自分の似顔絵に入刀するシーンが今年も現出しました。さらに今回は、当日になって田中が「たこ焼きを焼きたい!」と言い出し、自ら材料の調達から仕込み、たこ焼き器での製造までをおこない、参加者の皆さんに振る舞いました。

 

田中の写真

たこ焼きの準備に勤しむ田中

さらに、懇親会と並行してLT大会をおこないました。大阪本社のセミナールームやオープンエリアでイベントを開催したコミュニティの方々を中心に、各コミュニティでの取り組みや技術のことなどを発表していただきました。また、当社からもエバンジェリストチームの三谷公美が登壇し、最近運用を開始した石狩データセンター3号棟の様子を紹介しました。LTの一覧は以下の通りです。(発表順、敬称略)

 

三谷の写真

石狩データセンターの近況を紹介する三谷

おわりに ~編集長、引き受けました~

LTには筆者も登壇しました。内容はさくらのナレッジの紹介ですが、あわせて、このたび筆者がさくナレ編集部に加わり、編集長を務めることを報告しました。私が編集長になったからといってさくナレが急に大きく変わるわけではなく、むしろ今までと変わらず「ITエンジニアに役立つ情報を全力でシェア!」を体現する媒体を目指してやっていきます。これからもさくらのナレッジをよろしくお願いします!

それではまた、次回のイベントでお会いしましょう!

 

法林の写真

 

IT企業における「New Normal」を目指して 〜「さくらの夕べオンライン 新型コロナウイルス対策ナイト」レポート

タイトル画像

こちらの記事は、2020年6月にさくらのナレッジで公開された記事を再編集したものとなります。文●法林浩之

2020年6月1日(月)に「さくらの夕べオンライン 新型コロナウイルス対策ナイト」を開催しました。新型コロナウイルスの影響により、IT企業もワークスタイルやビジネスのやり方などに急激な変化が起きています。今回のイベントでは、新型コロナウイルスに対するIT企業各社の取り組みをご紹介し、あわせて参加者の方々から質問をいただいてのディスカッションをおこないました。イベントの模様をお伝えします。

 

新型コロナウイルスに対する各社の取り組み

イベントの前半は、さくらインターネット、日本IBM、ラックの3社に、それぞれの取り組みをうかがいました。

リモートワーク前提企業への転換:さくらインターネット

さくらインターネットからは、執行役員ならびにエバンジェリストである横田真俊が発表しました。

当社の取り組みは「従業員」「社会」「お客様」の3つの視点に分けられます。従業員に対する取り組みでは、まず基本スタンスとして「在宅勤務を含むリモートワークを、さくらインターネットの働き方の風土の前提とする」方針への転換を掲げたこと、それを実施できた背景に「さぶりこ」をはじめとする労働環境や制度の整備があったことを挙げました。具体的な施策としては、オフィス勤務の制限、Zoomなどを用いたオンラインミーティングの徹底、電話窓口の休止などがあります。しかしデータセンターは物理的な作業があり無人では運用できないので、衛生面に配慮しつつ入館を継続しています。

 

横田の資料の画像

 

次に社会への取り組みとして、新型コロナ情報まとめサイト向けのサーバ提供や、Folding@home(タンパク質の分析をおこなう分散コンピューティングプロジェクト)へのインフラ提供といった活動を紹介しました。最後にお客様に対する取り組みとして、Tellusオンライン講座の無料提供、法人向けテレワーク推進支援プログラムを紹介しました。Tellusオンライン講座は6月末(予定)まで無料で受講できますので、興味のある方はこの機会にどうぞ。

状況適応からNew Normalへ:日本IBM

続いては、日本IBMにてデベロッパーアドボケイトを務める戸倉彩さんが発表しました。

IBMでは、新型コロナウイルスの拡大に伴う変化を時間の経過に応じて「混乱」「慣れ・状況適応」「New Normal」の3段階に分け、各段階ごとにテーマを決めて取り組みを推進しています(下図参照)。本イベントの開催時点では「慣れ・状況適応」の段階にあります。

 

戸倉さんの資料画像

 

具体的な対応方針は「勤務形態」「本人および周囲が感染した場合」「出張」「イベント/会議」の4項目について定めてあり、例えば勤務については必要最小限の社員のみ出社する体制を7月まで継続する予定です。また、対外的な取り組みとしては、研究支援コンソーシアムの設立や、迅速なリモートワーク導入のソリューション提供などを行っています。

さらに、2018年から実施しているCall for Codeグローバルチャレンジ(差し迫る社会問題をコードで解決しようというコンテスト)において、2020年のテーマに新型コロナウイルスが急きょ追加されました。ただいま応募受付中です(7/31締切)。グローバル最優秀チームには20万ドルの賞金が出ます。

最後に「コロナ対策エンジニア」コミュニティの紹介がありました。業種や職種の壁を越えて集まった参加者が情報共有・発信・トレーニングをおこなっており、それを通して自らのスキル向上や社会貢献を目指しています。

詳しく知りたい方は、戸倉さんにより公開されている資料や、日本IBMのウェブサイトにおける「新型コロナウイルス対策へのIBMの取り組み」というコーナーをご覧ください。

 

 

24時間365日対応拠点の在宅勤務化:ラック

各社の取り組みの最後に、ラックの内田さんが発表しました。ラックではJSOC(Japan Security Operation Center)という24時間365日体制のセキュリティ監視拠点を運用していますが、こちらの新型コロナウイルス対策が主な内容です。ちなみにJSOCのメンバーは総勢200名以上おり、24時間対応ということでシフト制で勤務しています。

JSOCの対応としては、3月27日から全運用業務を対象に在宅勤務を開始し、これを顧客に案内しました。そして、その後もこの体制を維持しつつサービスを継続しています。実際にどこまで在宅での業務に切り替えられたかという報告もあり、4月1日の時点では5割強だったのが、5月下旬には80%以上にまで伸ばすことができました。現在も出社して対応している業務としては、顧客のデバイス管理(機器のアップデートなど)や電話対応などがあります。

 

内田さんの資料画像

 

在宅勤務への切り替えに際しては、リモートデスクトップなどの用途にTeamViewerを導入しました。導入理由は、約200名が同時接続できるVPN装置を用意するよりも早期に導入できる、RDPより軽い、コピー&ペースト禁止などのセキュリティ対策ができる、などです。とくにJSOCのメンバーは大量のログ監視などをおこなうためにプログラマブルなマウスを使用して超高速な操作をおこなっており、RDPでは画面切り替えが追いつかないとのことです。また、JSOCから顧客に電話する業務にはAmazon Connectを導入しました。これを使うと複数人から同じ電話番号で発信できるので、カスタマーサポートに使用する電話番号を一本化できます。6月以降は自宅以外の場所でのリモートワークもできるように検討中で、そのために覗き見防止ブロッカーを導入予定とのことです。

ディスカッション

後半は質疑応答を中心とするディスカッションをおこないました。その中からいくつかを紹介します。

 

――リモートワークを進める上で、従来は想定していなかった悩みや課題はありましたか?

横田:自宅の椅子が仕事をするのに合っていないという人が多かったですね。会社の椅子は結構いいのを使ってるんですが、みんな知らなかったようです(笑)。

内田:JSOCのメンバーは横長の大きなモニターを使っているんですが、在宅勤務でノートPCだと作業効率が大きく落ちるという声が多かったです。たまたまモニターの買い替えの時期だったので、希望者には払い下げて自宅用に提供しました。

戸倉:オフィスでは気軽にできていた雑談がなくなり、情報共有の機会が失われました。エンジニアには雑談は重要だったんだなと気づかされました。対策として定期的に「雑談タイム」というミーティングを設定しています。

 

JSOCのオフィス。ディスプレイを横に2台並べて作業する姿が見える(出典:https://www.lac.co.jp/service/operation/)

――在宅勤務で個人の回線を使う場合、情報漏えいなどのセキュリティ対策はしていますか?

内田:まず、社員は持ち出し専用PCを使用し、そこには情報を保存しないようにします。通信回線は暗号化されており、さらにコピペやファイル転送の禁止、二段階認証の利用といったこともおこなっています。TeamViewerは動作が比較的軽く、iPhoneのテザリングでも業務できているようです。

戸倉:通常の業務もセキュアな環境でやっていたので、今回のために特別に何かしたというのはないですね。ただ、在宅勤務特有のセキュリティ問題としては、私がPCを使っているところを子供が見に来るのでショルダーハッキングの危険性があるんです(笑)。対策として出社時と同様に画面をロックしたり指紋認証を使ったりしてます。

横田:弊社も普段から対策はしているんですが、今回の事態でVPNの利用が急増して設備を圧迫するおそれが出てきたので、VPNをできるだけ減らして、ゼロトラストに準拠した仕組みに切り替えようとしています。

 

――テレワーク体制を始めるにあたっては、セキュリティ問題、機材問題、費用問題の3つの壁があり、導入に踏み切れない企業も多いように思いますが、敏速な対応ができた秘訣はありますか?

横田:以前からテレワークの準備ができていたことが大きかったと思います。それから、役員層のマインドが一番の壁でしょうね。上層部がやると言えば導入は早く進むでしょう。

内田:ISMSを制定している会社は多いと思いますが、今回のような事態はISMSのルールに記載してないケースが多く、そこも障壁になると思います。弊社は私が責任者だったので速攻で改定しました。それから、機材問題が意外に大変でした。社員に持ち出しPCを提供しようにも、この事態のせいかレンタル業者に在庫がないんですよ。社内の余剰PCをかき集めて初期化してなんとか対応しました。

戸倉:テレワークも含めて、これからDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速するだろうと思っています。これから導入したい会社はまずロードマップを作って、できるところからやっていくのがよいでしょう。IBMのウェブサイトにも事例などの情報をたくさん載せているので、ぜひ見てください。

 

ディスカッション中の写真

 

――来たるべきNew Normalの世界はどんなものになると思いますか?

横田:20年前ぐらいに「コンピュータが発達するとこういう社会になる」というような漫画を見た覚えがあるんですが、その通りの世界になりつつあるような気がします。ITの力をもう少しうまく使った働き方が実現できるのではないかと考えています。

戸倉:IBMでは、New Normalに関して4つのキーワードを掲げています。顧客との関係強化、コスト削減、省人化の加速、リスク態勢の強化です。とくに顧客との関係強化については、デジタルを活用したリレーションシップの構築が重要になると見ています。省人化の加速というのは、要するに自動化できるところはしていくということですね。クラウドネイティブのような流れもその1つです。

内田:ここ数か月、在宅勤務してみて、クラウドにアクセスすればほとんどの仕事が回るので、出社する必要がなくなってきています。つまり、エンドポイントとクラウドで業務が完結して、働く場所を選ばなくてよくなりつつあるということです。これに慣れてしまうと、以前の形にはたぶん戻れないんじゃないですかね。もしかしたらこれがNew Normalなのかも?と思ったりしてます。

おわりに

新型コロナウイルスの影響で、IT業界のみならず、社会全体が大きな変革の時を迎えています。今回登壇した各社の取り組みからは、コロナウイルスを単なる制約や障壁とだけとらえるのではなく、それを前提条件とした上で新しい何か(ツールや仕組みなど)を生み出そうという、前向きな姿勢が感じられました。こうして作り出されたものたちが、これからのNew Normalの世界を形成していくのだろうと思いました。

そして、New Normalに向けての動きは、ITイベントについても例外ではありません。さくらの夕べは2011年の開始以来、基本的にずっと会場で開催してきましたが、本イベントの1週間前に実施した「さくらの夕べ Tech Night #1 Online」、そして本イベントと、ようやくオンラインイベントの開催にこぎつけることができました。当日もたくさんの方にご覧いただき感謝しています。映像アーカイブも残っていますので、発表やディスカッションの模様をより詳しく知りたい方は、そちらをご覧ください。

 

 

また、これからも継続的にオンラインイベントを開催していく予定です。以下のコミュニティ/グループのいずれかで告知する可能性が高いので、よろしければ登録をお願いします。

それではまた、次回のイベントでお会いしましょう!

 

 

「請求書が作れない」瀕死のフリーランスを助けてくれたDX

「請求書が作れない」瀕死のフリーランスを助けてくれたDX

 

フリーランスライターになった初月。私は泣いていた。

原稿が書けなかったのではない。請求書の作成が、できなかったのだ。

経理作業が苦手すぎて逃げていた

フリーランスライターは、自分で営業も経理もする。そして、ライターは得てして「経理」が苦手な人が多い。私もその例外ではなかった。

どれくらい苦手かというと、会社員時代の経費精算すら溜め込んで経理部門に叱られるくらいだった。経費精算をしたくないがあまりに、自腹を切ったこともある。

だが、いくら経費精算からは逃れられても、「請求書の送付」からは逃れられない。請求書を送付しなければ、どんな仕事も無報酬になる。事務作業が苦手すぎて廃業しました……なんて、バカにも程がある。

しかし、私は真剣に廃業を考えるくらい、追い詰められていた。お取引先の経理担当者からは「また間違えたんですか」とため息が聞こえるようなメールが届いた。

何度もリテイクをお願いされて、こちらも心苦しい。ここまで無能さを発揮したことは、さすがにない。たった1枚の書類が作れず、私は呻いていた。

DXから程遠い場所にいた経理作業

DXから程遠い場所にいた経理作業

そして、2015年……私がフリーランスライターになった当時、経理作業の多くはDXからほぼ遠い場所にあった。当時の典型的な請求書送付作業は、以下の通りである。

  • 請求額を確認する
  • 請求書をExcelで作る
  • 印刷する
  • 印刷した請求書に、印鑑を押す
  • 送付状とあわせて封筒へ入れ、郵送する

あ、アナログ……!!

原稿のすべてがWordで納品できるようになった時代においても、請求書だけは、とんでもなくアナログだったのだ。当時の私はプリンタすら持っておらず、いそいそとPDF保存した請求書のデータをコンビニまで持っていき、印刷していた。

2年目までに、印鑑の画像をスキャンし、Excelへ貼るという「発明」を思いついた。

「捺印したExcelをPDF保存するので、メールで送らせてほしい。どうせ郵送しても同じデータが紙になって届くだけ」と伝えたが、伝統的企業の答えは「郵送でない請求書は受け付けられない」と、そっけないものだった。

非DX環境で生まれる「ポカミス」

非DX環境で生まれる「ポカミス」

フリーランスライターにとって、経理で恐ろしいのは「ポカミス」の数々だ。ここから、私の黒歴史を書いていこう。

  • Excelを印刷するとレイアウトがずれて、1枚だったはずの紙がなぜか2ページで印刷される。こればかりはExcelのせいにしたい。許されたい。
  • 印鑑の陰影が上手に作れず、請求書の再送付依頼が届く。二度もこんな作業を繰り返すことに苦悩する。切手代もムダになった。
  • 執筆業など、一部業種に発生する「源泉徴収税」の計算ミスにより金額修正。請求書を作り直して送付しなおし。切手代もムダに(ry)

はっきり言おう。請求書を送る期日である月末が来るたび、私は発狂していた。ライターという職業に満足している。仕事は毎日楽しい。それなのに……それなのに経理業務が苦手すぎて転職を考えたい!

年始には確定申告が重なることもあり、経理業務が増加。現実逃避に転職サイトを見つめたこともある。

まるで過去の罪過のように話しているが、今月も取引先へ、200円多く振り込んでしまった。私のポンコツぶりは、今日もトラブルを引き起こしている。

経理業務のDXがコロナ禍で始まった

そんな私を救ったのは、コロナ禍だった。

多くの企業がテレワークを実現。請求書の送り先だったオフィスは閉鎖された。そして、多くの企業からお問い合わせが届き始めた。

 

「誠に申し訳ございませんが、来月よりご請求書をPDF形式でのメール送付に変更したく、お手続きいただけますでしょうか」

「します! お手続き、します!」

 

私は喜んで飛びついた。何しろ、2時間の作業が20分になるのだ。その分、2本追加で原稿を書ける! 請け負える執筆案件も増え、稼ぎも増えた。私は水を得た魚のようだった。

DX未対応の企業と取引を中止する判断

DX未対応の企業と取引を中止する判断

 

そして、私はさらに一歩踏み込んだ判断をする。

 

「このタイミングで、ご請求書を郵送しなければいけない会社とは、お取引を一度止めよう」

 

この決断は、苦渋を伴った。というのも、大手で伝統的な企業ほど、郵送による請求書送付を好んだからだ。大手企業からの発注実績は、ライターとしても見栄えがいい。だから、フリーランスとして生きていくには大手との経歴が欲しいものだ。それでも、経理業務負担は私が背負いきれないものとなっていた。

当時すでに私にはマネージャーが2名おり、経理業務のほとんどを担当してくれていた。だが、そのマネージャー陣が何度も請求書を三つ折りにして封筒へ詰める作業は、本当に必要なのだろうか? という疑問も拭いきれなかったのだ。

 

「いつもお世話になっております。大変恐縮なお願いではございますが、今後PDFでのメール送信にてご請求のお手続きをとってもよろしいでしょうか。弊社では郵送への人員が避けず、今後メールでのやりとりが可能なお客さまのみお取引を継続するはこびとなりました」

 

というメールを書いたときは、手が震えた。今後、何社との取引が停止してしまうのか。想像するだけで憂鬱になった。

DXを強行したフリーランスへの温かい反応

ところが……「経理でDXを強行した」私に対する企業の反応は予想外のものだった。

「助かります。こうやって要求してくださるフリーランスが多数いらっしゃれば、社内制度を変える口実ができます」と、喜んでもらえたのだ。

そう、現場の担当者だって、とうの昔から「経理作業をDXしたい」と思っていたのだ。だが、DXには大きな制度変更が必要となる。担当者だけの言い分では通らない案も多かった。そこで、取引先のプレッシャーを必要としていたのである。

「それでは、PDF形式で、メール送付によるご請求書でお取引いたします」と、号令が出た。郵送による請求書は廃止された。

新型コロナウイルスがまん延してからは、むしろ郵送での請求書を求められる機会がなくなった。私は、生き延びたのだ。

さらなる経理業務のDXを目指して

さらなる経理業務のDXを目指して

大手企業すら、経理業務のDXへ協力してくれた。次に変化すべきは、私たちだった。そもそも、Excelで手作りした請求書を「DX」と呼ぶなど、ちゃんちゃらおかしいのである。

当時、各種会計ソフトは自動で請求書を作る機能を導入していた。事前に売上がいくらになるか記入しておけば、ワンタップ/ワンクリックで請求書を送ることができた。しかし、売掛金を事前に入力する手間から、私は長らくExcel請求書に頼ってきた。

DXを後押ししてくれたのは、私のマネージャー陣である。

「今月上がるはずの売上を事前に入力しておく」手間を背負ってくれたお陰で、私の請求書は月末にワンタッチで送付されるようになった。

金額の入力ミスはなくなり、請求書が再送となるトラブルは激減。現在では月に1件、手直しがあるかないかである。

フリーランスを救った経理DX

同じような苦しみを抱くフリーランスが多いことは、多数聞いている。特に飲食店経営者には、デジタル業務が苦手な者も多い。

確定申告ではすべての経費を「雑費」にして計上している方もいると聞く。何なら、確定申告すら無視している業者が多いことも知っている。それもこれも、手続きがやっかいだからだ。

経理業務の急激なDXは、数多のフリーランスを救っている。副業解禁の流れもあって、副業ライターとして活動する後輩たちも増えてきた。

そこでいかにかつての非DX経理が苦痛だったかを語る老害しぐさは、やめておこう。その代わりに彼ら・彼女らの負担を軽減するツールを紹介していく、よき先人でありたい。